あなたの愛車にはABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が付いているだろうか? 最近の車にはかなり普及しているABSだが、20年以上前には、一部の高級車にのみ搭載されていただけだった。今回の話は1990年代前半に北海道で行われた、とある新車試乗会での出来事だ。
普通、車は急ブレーキをかけたり路面が凍結していたりすると、タイヤがロックして車はスリップし、ステアリングの制御ができなくなる。ABSは、そんな状況でもタイヤがロックせず、ステアリング操作を可能にする機構だ。
北海道での試乗会は、当時の某メーカー最新モデルに搭載されたABSの効果を体感するために開かれたもので、記者も取材のために参加していた。季節は真冬。雪原の林間周回コースが試乗のために特設されていた。
最初のうちは雪道ということもあって慎重に運転していたのだが、コースに慣れてくると、ついつい速度が上がってしまう。「やばいっ」と思ったときにはもう遅い。案の定、カーブを曲がり切れず、車はコースを飛び出して林の中に突っ込んでいった。
一瞬、時間が止まったような気がした。心臓も止まったかと思ったくらいだ。だが意外にもほとんど衝撃がない。フロントガラスの外を見ると、ボンネットのすぐ両側に木が立っていた。つまり木と木の間に車が突っ込んだので、木に激突せずに済んだのだ。また、除雪されたコース上と違って脇の林は雪が50〜60センチほど積もっており、雪がクッションとなって衝撃を吸収してくれたようだ。
まるで奇跡のようだが、実は偶然ではない。林に突っ込むとき、とっさにステアリングを切って木と木の間を狙って突っ込んだのである。まさにABSのおかげだ。ABSが搭載されていなかったら、確実に車は木に衝突していただろうし、車のフロントは大破、自分もムチ打ち症ぐらいにはなったはずだ。
そんなわけで、試乗会参加者中、最もABSの効果を体感することができたのが記者だったことは間違いない。ただし、積もった雪に突っ込んだ車は自力脱出不可能。ドアも開かないので記者は窓から這い出し、車はレッカー車で引っ張り出してもらうハメになったのだが。
(特集部デスク・井上達也)
ABSの効果を身をもって体験
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