1日、母校である早稲田大の文学部・文化構想学部の入学式にサプライズ登場した作家の村上春樹さん(72)。独特の言い回しや比喩を交えつつ、約1400人の新入生にエールを送った。スピーチの主な内容は以下の通り。
■「頭で考えた小説はたいてい面白くない」
「こんにちは。ご入学おめでとうございます。まだ世の中ね、なかなか落ち着きませんけれど、今年はこうしてみんなでここに集まれて、新しい門出を一緒に祝えるのは素晴らしいことだと思います。
僕はもう、50年以上前(昭和43年)にこの大学の文学部に入ったんですけれど、そのときはね、小説家になろうというような気持ちは特にありませんでした。
でも結婚して、大学を卒業して、日々仕事に追われているうちに、突然『小説を書きたい』という気持ちになりまして、ふと気がついたらこういう風に小説家になっていました。なんか、なりゆきというか、何かに導かれたというか。それは自分でもよくわからないです。
ちなみに僕は在学中に結婚しちゃったんで、まず結婚して、仕事を始めて、最後に卒業したんです。普通の人とは順番が逆になっちゃったんです。あんまりそういう生き方をおすすめはしませんが、まあ何とかなるもんです。
で、僕は思うんだけど、小説家というのは頭があんまり良くてもなれないです。というのは、頭がいい人って、すぐ頭でものを考えるんですよね。頭で考えた、書かれた小説は、たいていあんまり面白くないんです。頭じゃなくて、心で考えないと、いい小説って書けません。
でも、ほかの人に読んでもらう文章を書くのは、けっこう頭を使いますから、必要に応じて頭を一応働かせます。でも秀才、優等生じゃないくらいがちょうどいい頃合いなんです。なかなかね、そのへんの頃合いを見つけるのは難しいです。
皆さんのなかには、文学部、文化構想学部(の学生)ですから、小説家になりたいと思っている人もいらっしゃると思いますけど、そのいい兼ね合いをうまくみつけてください。早稲田大学って、そういう作業には結構適した環境なんじゃないかと思う。