東京・JR千駄ヶ谷駅から徒歩5分。新宿御苑正門前の交差点を曲がった先に、小さな美術館がある。公益財団法人佐藤国際文化育英財団・佐藤美術館(新宿区大京町31-10)。建物の外観は一見普通のオフィスビルのようだが、ここは約700人にのぼる日本の若手芸術家の足跡が大切に保管されている場所でもある。
多彩な猫たち
オフィス然としたビルに入り、エレベーターで2階にあがると美術館の受付がある。入場券はここで買う。現在は、特別展「現代作家70名が描く、つくる-吾輩の猫展」をやっている(12月24日まで、一般600円、学生400円)。
今年は夏目漱石(1867〜1916年)生誕150年。晩年を過ごした東京都新宿区が10月から区内の19施設を使って漱石イベントを組んで、その掉尾(とうび)を飾る美術展だ。
若手作家を中心に70人による猫を題材とした作品を集めている。漱石の初作「吾輩は猫である」(1905年)にちなんでいるのはいわずもがなだが、猫写真集、猫カフェ…と空前の猫ブームの昨今。美術作家にも猫好きは多い。
「犬好きは愛犬にしか興味がない人が多いが、猫好きは他人の猫も大好き。そして、なぜか猫は犬よりも絵になる」
そんな解説をしてくれた同館の立島恵(たてじま・けい)学芸部長(57)も、もしかしたら猫派だったのかもしれない。
今回、立島さんが新鮮で斬新な猫を描いてくれるだろうと期待する作家に声を掛けたところ、ほぼ全員断らずに出展に応じてくれた。ほとんどがこの展覧会のための新作。半数は猫好きで、これまで猫をモチーフにしたことがある作家だが、動物を描いたことはあるが猫は初めてという作家、生き物すら初めてという作家もいる。
日本画、油絵、版画、ミクスドメディア、立体彫刻と手法もさまざま。猫の種類や視点、愛情のかけかたも多彩だ。