■新刊を絞り厳選
出版不況下で販売不振にあえぐ文庫本のテコ入れを図ろうと、作り手と売り手が知恵を絞っている。内容の一部を隠して興味をかき立てたり、書店の棚での陳列を一新したり。ポケットに入る手軽な一冊を届ける地道な作戦の効果やいかに? (海老沢類)
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当店文庫第1位を独走中!-。東京都江東区にある紀伊国屋書店ららぽーと豊洲店のレジ脇のワゴンに、そんなうたい文句を冠した文庫本が平積みされている。
女性死刑囚の凄絶(せいぜつ)な生を描く、早見和真さんのミステリー『イノセント・デイズ』(新潮文庫)。手にとると、直木賞作家の辻村深月(みづき)さんが書いた巻末の「解説」がフィルムで閉じられていて、読めないのに気づく。
「物語の本質に寄り添う解説。そのすばらしさをアピールしつつ、あえて見えないようにすることで『読みたい』気持ちになる」と同店の平野千恵子さん。発売から2週間ほど過ぎた3月中旬に解説部分を覆い、〈未読の方は絶対に読了後に〉などと記した宣伝文を挟んだ。すると売れ行きは約10倍に急伸。1店だけですでに1600冊以上を売った。