東京都渋谷区 田口正男 88 無職
ゴールデンウイークの余暇に、居間の本箱を整理していたら、引き出しの底から見慣れぬアルバムが現れた。横とじのあせた青い表紙に金の箔(はく)押しで「想ひで 昭和拾八年卒業記念」と記されていた。
一目で女学校を出た妻の物と分かった。3年前に亡くした妻の若き日の面影を訪ね、生徒の顔写真が載ったところをめくる。探し当てたそのページには、古い軍事郵便のはがきが挟まれていた。
差出人はジャワ派遣部隊所属のいとこ。
「拝復 喜久ちゃんの手紙嬉(うれ)しく拝見。慰問袋の千人針、缶詰や様々(さまざま)なご馳走(ちそう)は戦友とありがたく頂戴しました。銃後の守りは頼みます。いよいよ熾烈(しれつ)を極める戦局打破へ、自分は決死の一弾となって散る覚悟です。こんどは栄えの靖国での再会を楽しみに」
文面と向き合う目頭が熱くなってきた。私は静かに庭へ下り、そのはがきを荼毘(だび)に付して天国へ回送し、妻の冥福を祈った。