今年7月、「国家基本問題研究所」から「日本研究賞」を贈られた文化人類学者、楊海英(よう・かいえい)さんは、中国・内モンゴル自治区出身である。幼い頃、十数キロ先の草原に中国人(漢民族)の家族が入植してきた。
▼楊さんらモンゴル人は大地にクワを入れる行為を忌み嫌う。中国人は平気で灌木(かんぼく)を切り、草原は砂漠化していった。いつの間にか自治区全体で、先住民のモンゴル人の人口が400万人にとどまるのに対し、中国人は3千万人に膨れあがっていた。
▼北海道も同じ運命をたどるのではないか。宮本雅史記者が連載する「異聞北の大地」を読んでいると、杞憂(きゆう)とは思えない。日本各地の森林に対して、中国企業による買収の動きが活発化するのは、平成20年頃からである。当初は、水源の確保が主な目的とみられていた。北海道は24年、水源地を売買する際、事前の届け出を求める条例を施行した。それから4年、事態はますます深刻化している。
▼帯広市では中国生まれの経営者が、東京ドーム36個分の広さの土地を買収した。近くには、「村ごと」買い占められた地区もある。中国人の移民村ができるのではないか。そんな不安の声が地元で上がっている。札幌の高級住宅地でも中国系不動産会社の進出が目立つ。
▼そもそも日本には、外国資本による森林などの売買に規制がない。ダミー会社が使われたり、転売が繰り返されたりすると、行政側が実態を把握するのは、ほとんど不可能となる。中国のように土地売買を認めていない国に対して、あまりにも無防備すぎる。
▼楊さんによれば、ウイグルでもチベットでも、中国人による植民地化のプロセスは同じだった。入植者たちの内応に続いて、やってくるのは人民解放軍である。