主張

共謀罪 創設遅れが「弱い輪」生む

 テロ対策に取り組むといいながら、いかにも腰の引けた姿勢に映る。

 安倍晋三政権が「共謀罪」を創設するための組織犯罪処罰法改正案を、通常国会に提出しない方針を固めたことだ。

 フランスでの週刊紙銃撃など、一連のテロ事件を目の当たりにした国際社会は、その抑止へ決意を新たにしている。

 他の法案審議への影響などを理由にして、提出を見送る判断はいかがなものか。安倍首相は再考し、通常国会への提出、成立を図ってほしい。

 共謀罪は、テロなど重大犯罪の計画・準備に加担した段階で、処罰対象にするもので、テロ防止の効果を期待している。

 その創設は、そもそも国際的な要請だ。2000年の国連総会で、テロや麻薬密輸など国際的な組織犯罪を防ぐことを目指す「国際組織犯罪防止条約」が採択され、締結国は1月現在で184カ国に上っている。

 日本の批准が遅れているのは、締結国に求められる共謀罪の創設に至っていないためだ。改正案は過去3回、国会に提出されたが、人権侵害につながると主張する野党の反対などで、いずれも廃案になった経緯がある。

 共謀罪は、従来の刑法の考え方と異なり、犯罪の実行に着手しない段階で罪を問う。その是非について十分な議論は必要だ。

 政府としても、犯罪の実行へ現実的で具体的な合意があることや重大犯罪に限定するなど、適用に厳しい条件を付す考えだ。

 テロ封じ込めに世界で取り組もうとしても、特定の国の対応が不十分では、そこが「弱い輪」となり、国際テロ組織につけ込むすきを与えかねない。

 9日には、東京五輪を狙うサイバーテロに備え、「サイバーセキュリティ戦略本部」が発足した。五輪を控え、テロ対策は日本の課題そのものといえる。警察当局が「国際テロの脅威は対岸の火事ではない」と危機感を強めるのは当然である。

 政府は各国とのテロ情報共有を進めている。テロ組織の資金を断つうえで、日本の資金洗浄(マネーロンダリング)への対応が遅れているとの指摘を受け、昨年11月、改正テロ資金提供処罰法などの成立を図った。テロ阻止へあらゆる手立てを講じることこそ、喫緊の課題である。

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