万博の汚点となった黒ミャクミャク万引事件 窃盗団に堕ちた撮り鉄集団が法廷で誓った償い

盛況のうちに幕を閉じた大阪・関西万博=13日午後8時47分、大阪市此花区の夢洲(恵守乾撮影)
盛況のうちに幕を閉じた大阪・関西万博=13日午後8時47分、大阪市此花区の夢洲(恵守乾撮影)

約半年間にわたった大阪・関西万博は13日、大団円で幕を閉じたが、期間中、万博に絡んで悪名をはせたのが「大宮赤ラン軍団」と呼ばれる「撮り鉄」の集団だった。東京から新幹線を無賃乗車して万博会場を訪れ、転売目的で限定グッズなどを万引した。大阪府警は窃盗容疑で東京都内の大学生ら男6人を逮捕。うち2人は万博が駆け込み需要にわいた最終盤、ひっそりと大阪地裁の法廷に立っていた。

「善悪判断まひしていた」

「集団での犯行で善悪の判断がまひしていた」。万博会場での万引を計画し、知人らに声をかけた先導役とされる大学生の男(20)は、窃盗罪に問われた自身の公判で、当時の心境をこう振り返った。

逮捕された6人はいずれも「大宮赤ラン軍団」と呼ばれる撮り鉄グループのメンバーだった。JR大宮駅(さいたま市)を中心に、無賃乗車で改札機を不正に突破して赤ランプを点滅させる行為を繰り返したことから、この呼び名がついた。捜査段階で、一部メンバーは「仲間内では無賃乗車は当たり前だった」と述べたとされる。

男らは6月26日午後、大阪市此花区の万博会場内のオフィシャルストアでグッズを手提げかばんに大量に詰め込み、万引した。

万博会場内で販売されていた2種類の黒ミャクミャクの人形
万博会場内で販売されていた2種類の黒ミャクミャクの人形

男らが狙ったのはミャクミャクが黒一色で統一された通称「黒ミャクミャク」や、子供服メーカー「ファミリア」とコラボした扇子など限定品ばかり。公判で男は「金になる、売れる商品を選別した」とその狙いを説明した。

「扇子が高く売れる。再販がないから売ったほうがいい」。事件前日、限定グッズの販売スケジュールを踏まえ、男は同じく窃盗罪に問われた男子大学生(22)にラインを送信。翌日の大阪行きを決めた。

検察側は、男らが無賃乗車に加え、12~17歳を対象とした割安のチケットで万博に入場していたとも指摘した。

公判では、男らが6月26日以前にも万博会場で万引していたことが明らかにされた。「バレなきゃ大丈夫」(男子大学生の被告人質問)。万引を重ねるにつれ、罪の意識は薄れていった。

転売利益は20万円

撮り鉄集団が「万引転売ヤー」と化したのは単純に金銭が目的だった。先導役の男は「メルカリで売って金にするため」と動機を述べた。

盗んだ商品の約7割はすでに売却、約20万円の利益があったという。無賃乗車や不正入場したのも「経費」を減らして、より多くの利益を得るためだった。

一方、男の誘いに乗った男子大学生は金策が必要な事情があった。

男子大学生によると、昨年12月に物損事故を起こし、5月末までに約30万円、以降8月末までに月10万円ずつの示談金を支払わなければならなかったという。

当初は、アルバイトで積み立てた貯蓄から払っていたが、徐々に余裕がなくなった。「以前にも親に金を借りており、迷惑をかけられない」。5月末に約30万円を用意することはできたが、6月以降の支払いに苦慮する中で誘いを受け、転売で手にした金を示談金に充てようとした。

自分のための貯金が「償い」

二度と同じような事件を起こさないために、今後は長期貯金をするとし「緊急用に金を残すことが自分自身のためであり、被害者への一番の償いだ」と述べた。

大阪地裁は「換金目的で入手困難な人気商品を狙って犯行に及んだ動機は身勝手」としつつ、前科がないことなどを考慮し、それぞれに執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。

逮捕された6人のうち3人は罰金30万円の略式命令を受け、残り1人の公判は続いている。(木下倫太朗)

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