発生から1年が過ぎた能登半島地震の被災地では、厳寒期に入り積雪への不安が高まっている。応急仮設住宅の周辺には砕石が敷かれ、除雪機が使用しにくい状況にもかかわらず、アスファルト舗装への変更は「救助の範囲外」(内閣府)として認められなかった。被災自治体ではやむを得ず県の復興基金を活用して舗装する方針だが、有識者からは柔軟な運用を求める声も上がる。
年間降雪量202センチ
「雪が積もると自力で除雪できるか不安」。石川県珠洲(すず)市の仮設住宅に住む無職、堂岸(どうがん)十七男(となお)さん(83)は訴える。
同じ住宅の無職、松軒(まつのき)恵一さん(76)は「不安だが、あまりぜいたくなことも言えない」と顔を曇らせた。
気象庁によると、珠洲市の年間降雪量は平年値で202センチ、同県輪島市は121センチ。豪雪地帯とはいえないが、高齢化が進む地域で除雪の負担は小さくない。
地震の被災者向け仮設住宅は県内10市町で計6882戸の整備が先月に完了。敷地には短期間で施工するため砕石が敷かれ、アスファルト舗装は通路や障害者用駐車場などに限られる。石を巻き込んでしまう除雪車や除雪機の作業には向かず、手押し車の高齢者らにとっても不便だ。
「特別扱いできない」
仮設住宅内の全面舗装を求める要望は昨秋ごろまでに中能登町を除く全市町から出たが、国の補助対象外と判断された。内閣府の担当者は「夏の豪雨災害で整備した山形県でも、平成23年の東日本大震災などの前例でも認めていない。特別扱いはできない」と説明する。
ただ、多くの自治体からの要望を考慮し、石川県は昨年11月、自治体の裁量に任される復興基金のメニューに仮設住宅の一般駐車場のアスファルト舗装を追加。要望した全市町が活用する意向だという。
輪島市では12月の定例議会で舗装費9600万円を含む除雪費1億4千万円を予算措置したが、道路復旧が優先されて資材が不足していることもあり、積雪期に施工できる見通しはない。
入居期限は原則2年
市の担当者は「復興基金はできれば生業再生などに充てたい。そもそも(仮設住宅の)整備指針の策定時に想定していれば…」と漏らす。県は地震直後の昨年1月に整備指針を策定したが、冬季の実情を先読みできていなかった面もある。
災害救助法に基づき整備される仮設住宅はあくまで救助目的であり、入居期限が原則2年の一時的な施設だ。ある内閣府幹部は「救助の枠組みでどこまで支援すべきか線引きが難しい」と明かす。
被災者支援に詳しい跡見学園女子大の鍵屋一(はじめ)教授は「大半の自治体が舗装せざるを得ないということは必要な支援なのではないか。やらずに済むことはしないという財政的な考え方ではなく、どうすれば支援できるか工夫する姿勢が重要だ」と指摘した。(市岡豊大)