自身の不倫問題で市議会に不信任を突きつけられた大阪府岸和田市の永野耕平市長(46)は24日、議会解散に踏み切り、対決姿勢を鮮明にした。同日開いた記者会見では、あくまでプライベートな問題であり、「不信任はやり過ぎだ」と強調。今後市長選が行われることになった場合も立候補することを明言し、終始強気の構えを崩さなかった。
騒動の発端は、永野氏の女性問題だ。政治活動で関わりのあった女性から性的関係を巡って訴訟を起こされ、解決金500万円を支払うことで和解していたことが11月下旬に明らかに。永野氏は当初、女性との関係について説明を拒んでいたが、後に「不倫関係だった」と認めた。
議会は永野氏の一連の対応について「説明責任を果たしていない」と批判。市政の混乱を招いたことを理由に今月20日、賛成多数で不信任を決議していた。
「きっかけは、僕が悪い。不貞行為は申し訳ないと思っている。ただ家族や妻に対して思っていることで、市議会で個人的な生活上のことを扱うものではない」
議会解散か辞職・失職かの選択肢があった中で、前者を選んだ理由を、永野氏は24日の会見でこう述べた。女性との関係については訴訟上の秘匿義務がある中で可能な限りの説明責任を果たしたとし、不信任決議は「的外れ」と批判した。
会見で妻「家族」を強調
会見には妻の紗代さん(38)も同席。永野氏について「変わらず大事な家族の一員」とし、市長職を「続けていってほしい」と擁護した。
改選後の市議会で再び不信任案が可決されれば、今度は議会解散の選択肢はなく、自動失職するしかない。その場合も市長選に再び「挑戦したい」と明言し、市政改革の意欲を語った。
政治家の不倫は、進退に関わることもあるスキャンダルの一つで、一般的には支持者の離反を招くことはあっても、地盤の強化につながるものではない。この手の問題では異例ともいえる妻の会見同席という手法も含め、「大義」が自分にあるという永野氏の確信がうかがえる。
市長選になった場合、永野氏を応援するための立候補を示唆していたのが、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏だ。立花氏は兵庫県の斎藤元彦知事が再選された11月の知事選に立候補。交流サイト(SNS)を駆使して、県議会から不信任を突き付けられた斎藤氏の〝援護射撃〟を行い、SNSから斎藤氏支持の民意のうねりを作ったといわれる。
立花氏は今回の問題の過程で「永野氏から連絡を受け、言うべきことはしっかり言った方がいいと話した」と取材に明かした。永野氏は立花氏との関係について「電話でのやり取りはあったが、相談はしていない」と語った。(藤原由梨)
女性問題巡り解散は異例
不信任決議を受けた首長が議会を解散させるケースは全国でも見られるが、女性問題で解散にまで至るのは異例。有権者の負託を受けた議員を任期途中で失職させるだけに、重い決断といえる。
総務省によると、市区町村の首長に対し議会が不信任案を可決した事例は、平成26年度~令和4年度で10件。このうち7件で首長が議会を解散し、改選後の議会で再度不信任案が可決され失職したのは5件となる。
不信任決議の理由の多くは行政の混乱や議会との関係悪化などだ。奈良県宇陀市では令和2年、市が保有する宿泊施設の指定管理を巡り、市と議会が対立。当時の高見省次市長は不信任決議を受けて市議会を解散し、改選後に再度不信任を決議され失職した。
一方、群馬県みなかみ町では平成30年、当時の前田善成町長のセクハラ疑惑で町議会に不信任案が提出され、1度目は否決されたものの、2度目の提出で可決。前田氏は町議会解散に踏み切り、こちらも改選後に再度不信任決議を受けて失職している。
岸和田市では来年1月26日告示、2月2日投開票の日程で市議選実施が決まった。市選挙管理委員会によると、昨年4月の統一地方選で実施された市議選の費用は約7300万円。担当者は「人件費や資材価格が高騰しており今回はさらに膨らみそうだ」とみる。(山本考志)
やらなくてよい選挙になる恐れ
地方自治の仕組みとして首長も選挙で選ばれているため、議会側が簡単に不信任決議案を成立させるのは適切ではない。そのために、不信任決議には3分の2以上の議員が出席し、その4分の3以上の賛成が必要という高いハードルが課せられている。
今回の市長の問題は個人的なものではあるが、首長は地方自治体を代表する立場だ。市長にふさわしいのかどうかという点で、少なくとも議会側としてはふさわしくないと判断し、決議要件のハードルをクリアして不信任を可決した。議会側の判断には説得力があるといえる。
岸和田市議選は昨年4月に行われたばかりで、まだ2年以上任期が残っていた。議会解散による改選後の市議会では、過半数の賛成で不信任を決議でき、その場合は市長は失職して、市長選が行われることになる。そうしたことを考えると、やらなくてもよい市議選をやることになる恐れがあるのではないか。(聞き手 前原彩希)