『冠婚葬祭文化論』佐久間庸和著(産経新聞出版・1430円)
初宮祝い、七五三、成人式、結婚式、長寿祝い、そして葬儀、法事。人の一生に関わる儀式には、日本で長年培われた宗教的伝統や民族的習慣が反映されており、その根底には「民族的よりどころ」が流れている―と著者は訴える。
例えば、七五三には幼い子供の霊魂を安定させる通過儀礼としての意味があり、結婚式には男女の魂を結ぶ意味がある。「人生最大の儀式」である葬儀には、心を癒やす役割がある。こうした儀式には、周囲の人々との「縁」を可視化する機能もあるという。
著者は、全国の互助会で組織する「冠婚葬祭文化振興財団」の理事長。本書では、儀式のルーツや意味、意義について名著や古典をひもときながら探っている。その過程で、著者は「『こころ』というものは不安定である。安心させるためには『かたち』、すなわち『儀式』に容(い)れる必要がある」「冠婚葬祭は日本文化の集大成である」という結論にたどり着く。
昨今、伝統的な儀式は簡素化される風潮がある。祖先が大切にしてきたものを、時代の流れだからといって軽視してもいいのか。儀式や行事の多い年末年始に手に取るのにふさわしい一冊。 (卓)