20カ国・地域(G20)首脳会議の取材で滞在したブラジル南東部リオデジャネイロのホテルの受付で、ファベーラ(貧民街)の観光案内を見つけた。先輩から「犯罪組織の巣窟で、警察も手を出せない」と聞いていた危険な街。いつの間にか安全になったのかと、恐る恐るツアーに参加した。
行き先は、22万人が暮らすホッシーニャの丘。バイクの荷台に乗る「モト・タクシー」で頂上近くまで駆け上がり、飲食店のテラスから全景を眺めた後、歩いて丘を下った。ガイドによれば、「7割の人は海岸リゾートのホテルや飲食店などで働き、生活はかなり改善してきた」という。
確かに、路地に面した家々の窓から見える内部は小ぎれいだ。地元出身の芸術家の画廊や、子供らによる歌と音楽に合わせて舞うように闘うスポーツ「カポエイラ」の実演を楽しんだ。
ただ、観光コースには写真撮影を禁じられた区間があった。ガイドは「犯罪組織の事務所があり、トラブルになるのを防ぐためだ」と説明した。終盤、欧州からの参加者が一時迷子になり、ガイドが血相を変えて捜し回る場面もあった。
その夜、夕食を共にしたブラジルの警察官は「私ならツアーに参加しない。身分がばれたら、無事に帰れない」と話した。やはり安全な街になったわけではなさそうだ。(平田雄介)