「強制捜査に入りますが」記者に特殊詐欺電話か IP電話から「出頭」要請

特殊詐欺グループは「自治体職員」「銀行員」「弁護士」など、さまざまな業種をかたって被害者を欺いていく(写真はイメージです)
特殊詐欺グループは「自治体職員」「銀行員」「弁護士」など、さまざまな業種をかたって被害者を欺いていく(写真はイメージです)

記者の私用スマートフォンに特殊詐欺とみられる電話がかかってきた。警察と名乗る男が使っていたのは、「050」から始まるインターネットを介して通話を行うIP電話の番号だった。警察庁によると、令和5年の特殊詐欺は過去10年で最多。総務省では、犯人グループに電話番号を提供する事業者への規制を強化しようと、法改正を視野に電話番号制度の見直しを進めている。

乱暴な口調に

5日午前8時45分、取材先に向かうため、家を出た直後に私用の携帯電話が鳴った。電話を取ると、中年とみられる男が電話口でこういった。「長崎県警の者ですが、今お時間よろしいでしょうか」。

法に触れるようなことは身に覚えがない。ましてや長崎は平成28年に旅行で訪れたことがあるだけだ。ただ、IT業界を担当している身として、メールアドレスやパスワードに流出に伴ってなりすましの被害を起こり、不正アクセスなどで悪用されたかもしれないと可能性が脳裏をよぎった。

相手の真意を探ろうと男の話を聞くことにした。男は「捜査2課であなたのことを調べています。長崎県警にお越しいただくことはできますか」と出頭を求めた。

横浜市に住む記者は「(物理的に離れているので)行けません」と即答した。それを拒否と受け取ったのか、次第に男の口調は乱暴になっていった。

あっけにとられながらも、のらりくらりと相手の出方をうかがっていたが、相手がこちらの氏名や住んでいる場所に言及することはなかった。相手は記者の個人情報を把握していないのか、どうも話がかみ合わない。

金銭要求せず、一方的に通話切断

「そんな態度でいいと思っているんですか。強制捜査に入りますがいいんですね」などと脅し文句を早口でまくし立て、男は結局〝用件〟を伝える前に語気を強めて、通話を切ってしまった。特殊詐欺の電話では、最初に警察や総務省の職員などを自称した人物から、通話相手が次々と変わり、金銭の要求へと発展する手口が知られる。今回は、こうした次の段階に進むことはなく、男の目的は分からずじまいだった。

かかってきたのは050で始まる11桁の電話番号だった。インターネットを介して通話を行うIP電話の番号で、携帯電話でも固定電話でも使える。番号が簡単に取得でき、通話料が安いことから営業活動に使う企業もある。一方、番号からは電話の設置場所が特定できないため、特殊詐欺にも悪用されている。

先約の取材が一段落した午後、かかってきた番号に折り返してみたが、NTTドコモの「この電話番号が使われていない」とのメッセージが流れるだけだった。ドコモによると、同社の携帯電話から使われていない番号にかけたときに流れるガイダンスだという。相手側が番号を解約したのか、何らかの手口でこちらからの着信をブロックしているのかは判別できなかった。

長崎県警捜査2課に問い合わせると、記者に対する嫌疑はないと伝えられた。晴れて〝無実〟の身となり、正式な相談として受理してもらった。長崎県警をかたる詐欺電話が集中していることはないらしく、男がなぜ長崎県警を名乗ったのかも分からなかった。

認知件数は過去最多

警察庁によると、令和5年の特殊詐欺の認知件数の確定値は前年比1468件増の1万9038件と直近10年間で最多を更新した。架空料金請求詐欺は、認知件数が2276件増の5198件で、被害額も38億6000万円増の140億4000万円と急増している。

総務省は特殊詐欺に使われると分かっていながらIP電話を提供する悪質な通信会社が存在するとして、事業者の認定を厳格化する方針だ。7年の通常国会での法改正を目指している。

慌てず録音を

取材などを通じて、警察を身近に感じることのある記者でも、警察からの電話に一瞬身構えてしまい、録音することを失念してしまった。詐欺電話という確証が持てず「万が一、本物かもしれない」と動揺してしまったのだ。

スマホは通話中でも画面を操作でき、簡単に通話内容を録音できる。不審な電話がかかってきたときには、一端落ち着くためにも、端末を一度耳から話して、録音ボタンに手を伸ばすことをお勧めしたい。(高木克聡)

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