早期会談を断念
石破茂首相は、南米訪問に合わせた、ドナルド・トランプ次期米大統領との早期会談を断念した。トランプ氏側が、民間人が米政府の外交問題で外国政府と交渉することを禁じた「米ローガン法」を踏まえ、「大統領就任前に外国要人と会談しない方針」を伝えてきたという。
正直、「安倍晋三元首相とは扱いが違うな」と思った。
バラク・オバマ政権の末期の2016年11月、当時の安倍首相はニューヨークのトランプ・タワーで、翌年1月に大統領に就任するトランプ氏と1時間半会談し、その後の盟友関係を築いた。今回もトランプ氏は、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領とは会談している。
トランプ氏は側近から、「石破首相は、安倍氏の政敵だった」「少数与党の首相であって、リーダーシップを発揮できない」と伝えられているのではないか。トランプ流の「ディール外交」を考えると、今回の対応は事実上、「(石破首相は)交渉相手としては不十分」「あなたとは会う状況にはない」と通告されたように思えた。
米国は、日本唯一の同盟国である。衆院の過半数を占める勢力がない「宙づり国会」では、誰が首相になっても外交は厳しい。
日本の政界では、麻生太郎元首相が4月に訪米して、トランプ氏と通訳なしで約1時間会談している。日本の国益のためにも、麻生氏の力を借りながら、トランプ氏と関係を構築していくしかない。
さて、国民民主党が、国民負担の軽減策として掲げた「年収103万円の壁」撤廃を、多くの国民が支持している。これは29年間も据え置きされ、パートの人たちの働く意欲を奪い取ってきた。国民の手取りを増やして、労働力を確保するためにも、実現を目指すべき政策だろう。
こうしたなか、国民民主党の玉木雄一郎代表が、総務省が地方自治体側に反対の表明を要請するなど、「(妨害)工作を行っている」とテレビ番組で明らかにした。
同党の主張通り、「103万円の壁」を178万円まで引き上げると、国、地方で7兆~8兆円程度の減収が見込まれるとはいえ、行政機関としてやり過ぎではないか。
これは「0か100か」の話ではない。自公与党と野党各党、総務省、地方自治体が話し合って、国民と企業のためにも落としどころを探るべきだ。「宙づり国会」の中で、政治を前進させるには、前向きな意見集約を図っていくべきだろう。(前大阪府知事、前大阪市長)