27日投開票の衆院選で、多くの党が高校授業料の無償化を公約に掲げている。子育て費用の軽減を図り、教育格差の解消も図る狙いがあるが、先行する東京都や大阪府では、私立高への希望者が増え、公立高が淘汰されると懸念する声も上がっている。一方、低所得の世帯では、修学旅行費など、授業料以外の負担が重いという指摘もある。無償化の「副作用」にも目を向ける必要がある。
私立高の希望者が増加
今年度から私立高校も含めた「完全無償化」を目指す大阪府。無償化により、私立高を選ぶ傾向が強まる一方で、公立高は再編の波が押し寄せつつある。
府は平成24年4月、3年連続で定員割れとなり、その後も改善が見込めない府立高を再編対象とする関連条例を施行した。令和5年度までに募集停止が決まったのは19校、9年度までに7校程度が追加で募集停止に踏み切るとみられる。府教育委員会は「生徒数の減少などに伴う適正配置を進めるため」などと説明する。
だが、高校受験の事情に詳しい安田教育研究所の安田理代表は、府立高再編が進む理由について、「名門進学校は別として、無償化で保護者や生徒が『偏差値の低い公立高に進学するなら面倒見がよく、特色のある私立高の方がいい』という考えが増えたからだろう」と指摘する。そのうえで、全国一律で高校授業料の無償化が導入されれば、「公立高の淘汰は全国的に広がる可能性がある。その結果、私立高に進学する余裕のある世帯と、経済的に公立しか選択肢にできない世帯との間で、むしろ教育格差が拡大する」と懸念する。
修学旅行や制服代で重い負担
もう一つ、無償化には別の課題が生じる懸念もある。千葉工業大の福嶋尚子准教授は「無償化になるのは授業料」と指摘する。「公立高に通う生徒の場合、1年間の教育費総額のうち授業料は平均で6分の1程度。制服や定期代、修学旅行費など授業料以外の負担が大きく、無償化はほんの一部にしかならない。授業料以外の費用負担に目を向けるべきだ」と話す。
これまでも世帯年収910万円未満(両親のどちらかが働く、高校生1人、中学生以下1人の4人家族)の場合、政府の「高等学校等就学支援金制度」は公立高の授業料として年11万8800円を支給し、実質的に無償となっている。
ただ、非課税世帯ではないものの、経済的に苦しい世帯などは、支援金制度を活用した授業料無償化の恩恵を受けているが、それ以外の学校教育費の自己負担が重くのしかかる。文部科学省の調査によると、無償の授業料以外の教科書代、修学旅行費、通学費などを含めた公立高校の学校教育費は年平均約25万円程度に上る。
都立高校2年の男子生徒(17)はパートで働く母親と妹と暮らすが、授業料以外の負担をカバーするため、毎日、アルバイトに明け暮れる。制服や教科書は卒業生から譲り受けたが、限界がある。一度は野球部に入部したが、遠征費を工面できず退部した。修学旅行も断念したという。体調不良のときでも「バイト代がもらえないから働くしかない」とこぼす。
経済的困窮世帯の生徒らを支援する認定NPO法人「キッズドア」の渡辺由美子理事長は「高校授業料が無償化されたのは良いことだが、困窮世帯にとって授業料以外のお金の負担が大きいことを理解してほしい。制服や教科書代などの教育費に加え、その日の生活費も必要だ。現金給付などの支援も合わせて考えてほしい」と訴える。