欧州の人権団体セーフガード・ディフェンダーズが4月に発表した報告書で、ウイグル人の元日本留学生、ミヒライ・エリキンさんが中国当局に2019年に強制帰国させられたケースが紹介された。日本に住む知人は「彼女は母親を通じて当局に圧力をかけられた。帰国は危険だと警告したのに…」と当時を振り返った。
「故郷の母を助けなければ」
エリキンさんについて語ったのは、千葉県で飲食店を経営するウイグル人のハリマト・ローズさん(50)。エリキンさんは14年に東京大大学院に留学し、ローズさんが子供らのために開設したウイグル語塾の教師を務めていた。「神奈川県の住まいから、ほとんどボランティアで通ってくれた。アニメ好きで、将来は学校の先生になりたいと言っていた」と話した。エリキンさんは当時20代で、おじは欧州でウイグル情勢について発信する著述家だった。
エリキンさんは18年、奈良先端科学技術大学院大学に通い始め、ローズさんは19年春、在日ウイグル人の集まりで再会した。それぞれの境遇を話す証言会だった。エリキンさんは「地元でウイグル語塾を開いた父と連絡が途絶えている。親族が収容され、行方不明になった」と不安な心のうちを明かした。
帰国後収監、翌年「病死」
「故郷に残されたお母さんを助けなければ」と悩むエリキンさんに、ローズさんは「帰国したら危ない」と警告し、日本滞在を続けられるよう就職先も紹介した。だが、エリキンさんは事前連絡もせずに、19年6月に新疆ウイグル自治区に戻った。その後、カシュガルの再教育センターに収監され、翌年病死したと伝えられた。ローズさんは「日本にいたときは、彼女から病気したなどと聞いたことがない」と訴えた。
日本ウイグル協会によると、中国当局はエリキンさんにおじの「口封じ」をさせようとしたが、実現できず、母親を介して帰国を迫ったとみられている。エリキンさんは帰国の飛行機に乗る直前、おじに電話をして「私は、あなたの発信をやめさせることができず、どうすればいいのか分からない。私が帰らないとお母さんも収容されるかもしれない」と話したという。
セーフガード・ディフェンダーズの報告書によると、エリキンさんの葬儀は警察の監視下で行われた。当局は家族に対し、「口外したら収監する」と圧力をかけたという。(三井美奈)