次世代エネ「グリーン水素」、拠点化目指すスペイン・カタルーニャ州 日本企業の技術にも注目

グリーン水素を生産する機械を用いて計画を説明するMMMの幹部=2023年12月14日
グリーン水素を生産する機械を用いて計画を説明するMMMの幹部=2023年12月14日

二酸化炭素(CO2)を排出しない次世代燃料として注目されるグリーン水素。バルセロナを中心としたスペイン・カタルーニャ州は、石油化学や自動車産業で培った技術などでグリーン水素供給網を構築し、欧州の脱炭素社会化をリードしたい考えだ。そこで関係者が注視するのが日本企業の動向。同州幹部は日本の水素技術に「世界でも有数だ」と期待を寄せる。

石油のノウハウ

再生可能エネルギー由来の電力を使用して生産し、その過程でCO2を排出しないグリーン水素は、脱炭素社会実現に重要な役割を担うとされる。各国ではグリーン水素への転換を目指したさまざまな施策が進行。スペイン・カタルーニャ州も欧州におけるグリーン水素の供給拠点を目指している。

同州の海の玄関となる港湾都市タラゴナは、石油化学産業の拠点として発展。こうした歴史的経緯を踏まえ、パイプラインを活用した欧州各国へのグリーン水素配給を視野に入れる。手始めに2035年ごろまでに隣国フランスへの配給を始めたいとしている。

また、タラゴナの港は、南アフリカなどから輸出された石炭をイタリアなど南欧に運ぶ中継基地にもなっており、海運によるグリーン水素の配給が可能なことも強みだ。今年中の稼働を目指したグリーン水素製造プロジェクトも進む。

水素供給網構築を目指すスペイン・カタルーニャ州。その中心となるタラゴナの港=2023年12月13日
水素供給網構築を目指すスペイン・カタルーニャ州。その中心となるタラゴナの港=2023年12月13日

自動車産業の変化

「自動車業界が大きく変化している。自分たちも変わる必要があった」と話すのは、バルセロナの自動車関連メーカー、MMM(エムエムエム)グループの幹部。同社は自動車エンジンの周辺部品などを手掛けてきたが、昨年、グリーン水素製造への参入準備をスタートさせた。

メタノールを原材料とした生産もすでに開始。大量の電力消費が必要な上、現代社会に不可欠な存在となっているデータセンターなどへの活用を検討しているという。

バルセロナのQEV(キューイーヴィー)は、高級車から商用車まで、複数の水素自動車を製造している自動車メーカー。欧州内のほか、スペイン語圏の南米諸国にも輸出している。特に南米は高地が多いが、同社幹部は「厳しい環境でも問題はない」。水素自動車の弱点とされてきた寒冷地での走行に自信をのぞかせ、更なる販路拡大を視野に入れている。

ヨットでSDGs

「グリーン水素の供給拠点化」という目標に向けて同州が重要視するのが、今年9月にバルセロナで開催される世界最高峰のヨットレース「アメリカズカップ」だ。

大会運営には世界中の有名企業が参画。風力を使ったレースはSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みをPRする格好の舞台で、各企業による脱炭素・水素技術などの見本市ともいえる。

中でも、選手の救助などレースをサポートするボートは、日本を代表する自動車メーカー・トヨタの水素技術を活用。大会関係者は「大会を機にバルセロナの海のインフラを脱炭素化したい」ともくろむ。

日本の技術に期待を寄せるカタルーニャ州政府貿易投資事務所理事長のアルベルト・カステラノスアルベルト・カステラノス氏=2023年12月12日、スペイン・バルセロナ
日本の技術に期待を寄せるカタルーニャ州政府貿易投資事務所理事長のアルベルト・カステラノスアルベルト・カステラノス氏=2023年12月12日、スペイン・バルセロナ

同州企業労働省次官で、州政府貿易投資事務所理事長のアルベルト・カステラノス氏は取材に対し「(州全体で)幅広くグリーン水素への投資を得たい。今後もトヨタの技術協力を期待している」と話した。(大泉晋之助)

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