女子の大学進学率はこの10年で10ポイント近く伸び、令和4年度に53%となった。それでも、男子の59%を大きく下回っており、性別によって教育機会が左右されている現実が見えてくる。進学率は大都市圏とそれ以外の地域との隔たりも著しい。性別と出身地。地方在住の女子生徒は2重の格差に直面している。
乏しい保護者の期待
女性の活躍を促す近年の思潮もあずかり、女子の大学進学率は平成19年度に40%を超え、30年度に50%に達した。急速に環境が改善されているのは事実だが、全国から学生を集める難関大の状況をみると楽観もできない。
東京大では、この春に実施した入試の合格者に占める女子比率が過去最高となった。それでも22%にとどまる。京都大や早稲田大などでも男女格差が顕著に表れている。
性別に伴う学力差がないことは多くの調査データが示している。ジェンダーと教育を研究する宮崎公立大准教授の寺町晋哉は「『4年制大学へ進学してほしい』という保護者の期待は子供が男子よりも女子の方が低いなど、女子が4年制大学へ進学するプロセスにはさまざまなハードルが存在している」と語る。
女子生徒にはジェンダーをめぐる有形、無形のバイアスが加えられる。それが進学に不利な環境を生み出しているのだという。
首都圏一極集中
もう一つの格差が大都市圏とそれ以外の地域を隔てる壁だ。大学進学率(令和4年、短期大学を含む)が最も高い東京(71%)と最も低い沖縄(44%)の差は27ポイント。地方の女子生徒は性別と地域という2重の格差にさらされている。
東大の女子学生と卒業生でつくる「さつき会」が一昨年、昭和30年以降のOGに出身高の所在地を尋ねたところ、東京が圧倒的に多く、神奈川、愛知、埼玉、大阪、千葉と大都市圏が上位を独占した。調査を主導した同会の金澤亮子は「首都圏一極集中といっても過言ではない。地方からはよほど強い意志がなければ受けられない」と話す。
地方から都市圏へ進学するには家賃や生活費など相応の負担が必要となるため、家庭の経済状況にも左右される。寺町は「地域格差の解消に比較的安価な県人寮の充実など公的なサポートが不可欠だ」と指摘する。
ただ、大学進学がさらに増えれば、次は大学院進学率という新たな学歴をめぐる格差が注目されるようになるだろう。
格差は果てしない。
寺町は「こうした格差をことさら強調する議論はときに『大学に進学しなければならない』という考えを呼び込む」と指摘。その上で「進路選択が開かれた社会を目指すと同時に、その進路選択を選ばなかった人、あるいは選べなかった人も安心して暮らせる社会を模索するという観点も大切にしたい」と話した。
「男だったら…」東大女子の苦心
「格差って本当にあるんだなあ、って。大学に入って、それを痛感したんですよね」
小雨が降る26日、東京大法学部3年の澤茉倫(まりん)(21)は本郷キャンパス(東京都文京区)のシンボルである「赤門」を見つめながら2年前を振り返った。
入学直後のことだ。選択する外国語別に分けられた27人のクラスに、女性は5人しかいなかった。うち2人は留学生。「クラスの半数は東京の高校出身だった。しかも、都内にある同じ私立男子校の卒業生が何人もいて驚いた」。同郷の学生はいなかった。
日本海に面した人口9万人足らずの福井県坂井市の出身。地元の公立小中学校に通い、隣接する福井市にある県立高校に進んだ。
勉強は教科を問わず得意だった。成績が上がると、ますます好きになった。裁判官になるのが小学生のころからの夢だ。
「最高学府で学びたい。日本一の大学で勉強したい」。高校2年のとき、進路調査の第1志望に「東京大学」と書いた。しかし、両親と祖父母、家族全員に反対された。
「県外へ出すのは心配」「地元でいいじゃない」「女に学問は不要」「結婚できなくなる」
結局、最後まで賛成してもらえなかった。「私が気持ちを曲げなかったので、家族が根負けした感じですね」。予備校には通わず、奨学金を得て東大文科Ⅰ類に現役合格した。
早期卒業制度を使って1年早く法科大学院へ進みたいという。充実した日々を送るなかにも、不公平さは、今もぬぐえていない。
「もし、私が男だったら、東京に生まれていれば、ここまで来るのにもっと苦労は少なくてすんだのかな…」 =(敬称略)