ウクライナが汚職撲滅に向けて海外との連携を強化している。外国人から成る独立した専門家グループが近く設置され、捜査当局に助言などを行う見通しだ。日本も要員を派遣する準備を進めている。欧州連合(EU)加盟を目指すウクライナは汚職を「内なる敵」とみなして対策を進めており、当局は日本や欧米の意見も取り入れて捜査技術の向上を目指す。
専門家グループが協力するのは、汚職摘発を専門とする捜査機関「国家反汚職局」(NABU)。詳細な役割は今後決まる。
首都キーウ(キエフ)で6月28日、日本の松田邦紀・駐ウクライナ大使がNABUのセメン・クリボノス局長(40)と会談。松田大使はこの中で、専門家グループに日本銀行出身でウクライナ財務相のアドバイザーを務めた日本人が参加すると明らかにした。専門家グループには米国人らも参加するとみられる。
クリボノス氏は会談で「先進7カ国(G7)の汚職対策への協力に感謝する」と述べ、最近の摘発事例を説明して成果を強調した。
ウクライナでは大型汚職の摘発が相次いでいる。国内外の報道では、1月には15人の公職者が辞職や解雇に追い込まれた。5月には国内の富豪から約300万ドル(約4億3000万円)を不正に受け取った疑いで最高裁長官が拘束され、国内外に衝撃を与えた。
ロシアの侵略が続く中でも、腐敗を放置すればG7の信頼を失って支援に影響が出るとの危機感がウクライナにはある。
ウクライナはロシア同様に「汚職大国」と評されてきた。しかし、親欧米派が政権を握った2014年以降、NABUのほか汚職に特化した検察と裁判所が創設され、腐敗一掃に向けた制度は整った。
「一般市民レベルでの警官の賄賂要求などはこの10年ほどで皆無になった」(キーウの61歳男性)とされ、高官らを巻き込む大型汚職の根絶が課題となっている。
ウクライナでは報道機関やNGO(非政府組織)が汚職の実態を監視しているが、防衛関連部門は透明性に欠け、腐敗の温床とも指摘されてきた。戦時中の今は以前よりも情報公開が制限されている。
国防省や軍、軍需産業の腐敗を監視する市民団体「独立反汚職委員会」のスビトラナ・ムシイヤカさん(37)は「汚職はウクライナの戦争遂行を支援する欧米の意欲を失わせる。戦時中だからこそ、あらゆる資源を効果的に使わなくてはならない」とし、軍の物資調達価格など一部の情報は開示すべきだという見方を示した。(キーウ 佐藤貴生)