「実刑3年ぐらいはいくんでしょ」…闇バイトで浮き彫りになった軽薄無知な20代の実像

強盗事件や特殊詐欺事件の実行犯を、闇バイトで募集された若者が担うケースが目立っている。甘い言葉にだまされる若者がいる一方、犯罪であることを知らされた上で、自らの意思で手を染めるケースも少なくない。特殊詐欺の受け子だと知りながら闇バイトに応じ、大阪府警に逮捕された男は、理由について「ただ、何となく」と説明。一部の若者が持つ犯罪への甘い認識に、専門家は「若いとはいえ、あまりに〝世間知らず〟が多い」と警鐘を鳴らす。

報酬は1回5万円

《犯罪ですが大丈夫ですか?》

通信アプリ「テレグラム」に届いた顔も知らない相手からのメッセージには、バイトの中身が特殊詐欺の受け子であること、そしてそれが犯罪であることが明記されていた。《大丈夫です》。特に迷いもせず、すぐにそう返した。

特殊詐欺未遂事件の「受け子」として逮捕された男(22)が後戻りできない道に足を踏み入れたのは、昨年夏のことだった。

地元の沖縄を離れて大阪の友人宅に転がり込んで1年ほど。月に10万円の飲食店のアルバイト代で生活しながら趣味のスケートボードに没頭した。明日の食事に窮するほど金に困っていたわけではないが、遊ぶ金は欲しい。そんなとき、ツイッターで闇バイトを募る投稿を見つけた。住所がなくても応募ができるという。「割がいい気がして、なんとなく」、そのアカウントに連絡した。

仕事は百貨店社員や銀行員のふりをして高齢者宅を訪ね、キャッシュカードを窃取する特殊詐欺の受け子。提示された報酬は1回5万円だった。

犯罪だと知らされても躊躇(ちゅうちょ)することはなかった。「逮捕されても窃盗だから罪は重くない。刑務所に入ることはまずないだろう」。何の根拠もなく、そう思っていた。

「独りぼっちになった気がする…」

慣れないスーツに袖を通して高齢者宅を訪ね、イヤホンから流れる指示に従って立ち回る。脅されることも、だまされることもなく、毎回5万円を受け取った。頭にあったのは報酬のことだけ。今が楽しければいい。そんな毎日の延長に過ぎなかった。

しかし昨年9月、職務質問を受け、他人名義のキャッシュカードや、トランプが入ったすり替え用の封筒を所持しているのが見つかった。言い逃れはできず、計4事件で逮捕、起訴され、大阪地裁で公判が進む。

拘置所への家族や友人の面会はなく、反省の気持ちを示そうとつづった被害者への手紙も受け取りを拒否された。弁護人からは公判の厳しい見通しを伝えられている。「独りぼっちになった気がする。実刑3年ぐらいはいくんでしょ」。現実の厳しさに初めて直面し、力なくつぶやいた。

世間知らずの若者たち

「どんな罪にあたるかも知らず、逮捕されても簡単に済むと思っている若者が多い」。犯罪者の心理に詳しい関西国際大の中山誠教授(犯罪心理学)はそう指摘する。

闇バイトでは、通常のアルバイトでは長時間働かないと得られない額の報酬が提示され、金欲しさに応募した若者は、逮捕されるとその多くが「簡単に金が入ると思った」「楽に稼げる方法を探していた」などと供述する。

一度でも犯罪に手を染めれば、刑務所で服役する可能性があるだけでなく、その後の人生にも大きな影響を及ぼしかねないが、そのリスクを理解しているとは言い難い。令和4年版犯罪白書によると、受刑者らを対象にした調査で《社会からの信用を失うこと》が犯罪を思いとどまる「心のブレーキ」になると回答した20代は、わずか7・8%。65歳以上で19・3%、50~64歳で16・3%に上ったのとは対照的だ。

中山氏はこうした若者の行動について、「法外な金額を提示されることの意味、つまりそれだけ深刻な結果が待っているということを読み取れていない」と分析。「世の中にそんなに甘い話はないことが分からない、あまりにも世間知らずで社会的に未熟な若者が多い」と危惧する。

大阪拘置所で接見取材に応じた男は「人生を棒に振ってしまった」と悔やみながら、どこか諦めが混じったような口調で続けた。

「やったことは仕方ないんで。責任取るしかないっすね」(中井芳野、小川恵理子)

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