主張

死亡ひき逃げ事件 公訴時効撤廃を検討せよ

「逃げ得を許しているのが今の法律。逃げた時点で殺人に匹敵する」と訴える、遺族の言葉が胸に強く響く。

未解決のまま公訴時効が成立した死亡ひき逃げ事件は、全国で過去10年間に少なくとも計82件に上ることが、産経新聞の取材で明らかになった。驚くべき多さであり、その何倍もの、理不尽に泣く遺族の悔しさ、悲しさ、怒りがある。

死亡ひき逃げ事件の時効撤廃を急ぎ検討すべきである。

ひき逃げ事件の多くは道路交通法違反(救護義務違反)罪に問われ、時効は7年だ。被害者が死亡した場合は自動車運転処罰法違反(過失致死)罪に問われ、時効は10年で、2つの罪に同時に問われても時効は最長10年となる。

救護義務違反は故意犯であり、過失致死は過失犯である。「犯人が逃げているのに、なぜ過失と断定できるのか」とする遺族の疑問は、至極もっともである。

より刑罰が重い危険運転致死罪の時効は20年だが、被疑者が飲酒や薬物の影響下で運転したことや、運転技能を有していなかったことを証明しなくてはならない。被疑者が逃亡している限りは適用が難しいという大いなる矛盾を抱えている。遺族らが「逃げ得」と批判する所以(ゆえん)である。

殺人、強盗殺人などの凶悪犯罪については、平成22年4月に施行された改正刑事訴訟法で時効が撤廃された。その際、死亡ひき逃げ事件についても検討されたが、撤廃は見送られた。

小学4年だったサッカー好きの小関孝徳君は平成21年9月、埼玉県熊谷市の市道で書道教室から自転車での帰途、2台の車にひかれ、死亡した。

「ひき逃げ」の犯人は今も捕まっていない。28年に道路交通法の時効が成立し、令和元年には自動車運転過失致死罪の時効が迫ったが、埼玉県警は時効成立直前に捜査容疑を危険運転致死に切り替えた。特異な例で10年延びた時効も11年には期限がやってくる。

孝徳君の母親、代里子さんは昨年、死亡ひき逃げ事件の時効撤廃を求める約9万人分の署名を国に提出した。今年3月には埼玉県議会が同様の撤廃を国に求める意見書を全会一致で可決した。

代里子さんはブログで、犯人にこう呼びかけている。「諦めません。真実を聞くまでは、犯人と私には終わりはないのです」

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