可視化と裁判員裁判の導入により捜査現場でも、黙秘前提の捜査を進め、DNA型鑑定や防犯ビデオ映像の解析など動かぬ証拠が重視される。「供述」を引き出す重要性が相対的に薄らいでいる感は否めない。
平成に入り、刑法犯の認知件数は14年の約285万件をピークに急減。検挙率は18年に3割台に回復後、横ばいだ。数字上は治安は回復している。だが、事件の真相を解明して治安の向上を担う警察活動の中で、容疑者本人から犯行の動機や経緯に関する供述を得る取り調べの占める位置が重いのは変わらない。
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「全面可視化」「黙秘前提」…。激変期を迎えた捜査環境下、深い取り調べの結果得られる自白によってなされる事件の核心部分の解明が阻害されるのではないか-。そんな懸念は警察にもある。
元警察庁長官、吉村博人(よしむら・ひろと)氏(68)は勇退した21年の秋、「文芸春秋」に取り調べの全面的な可視化に反対する一文を寄せた。警視庁と大阪府警で刑事部長、警察庁では刑事局長を歴任。事件を通して時代を見取り、犯罪捜査から社会の変化を感じてきた。