「ママがやったん?」。長男も、こう母親に問いかけたことがあったという。「やるはずがない」。ぴしゃりと否定されたが、結局、事件から約2カ月後、両親は保険金詐欺容疑で和歌山県警に逮捕された。当日は長男の小学校の運動会。前日に、来てくれるかどうかを尋ねる長男に、林死刑囚が「絶対行ってあげる」と応じたのが、逮捕前の最後の会話だったという。
いじめで乾燥剤入りのカレー
長男の両親は千人以上の報道陣が取り囲む衆人環視のもとで警察に連行された。「林さん、林さん」。午前6時ごろ、自宅のドアをノックする音がして、まもなく警察官が踏み込んできた。テレビをつけると、見慣れたわが家が報道陣に取り囲まれている光景が写っていたことを覚えている。
林死刑囚は同年12月、カレー事件に関与したとして殺人などの容疑で再逮捕。殺人犯の息子という重い十字架を背負うことになった長男を待っていたのは、預けられた養護施設でのいじめだった。同じ施設に入所していた少年らから日常的な暴力を受けたといい、顔に傷ができれば職員らにいじめが発覚することから主に体を狙われ、生傷が絶えなかった。
「ポイズン(毒)」。いじめを受けていた少年らからこんなあだ名で呼ばれることもあったという。給食のカレーに乾燥剤を入れられ、気付かずに食べておう吐したことも。何不自由なく暮らしてきた自分の身に、なぜこのようなことが起きているのか、信じられなかった。