本紙記者2人が緊急事態宣言下に取材対象者らと自宅に集まり、賭けマージャンをしていた問題で、産経新聞社は16日、記者や上司を処分した。処分を検討するに当たり、弁護士を含めた社内調査を実施し、宣言期間中に少なくとも4回、同じメンバーでマージャンをしたこと、終了後はハイヤーで取材対象者を自宅に送りながら取材をしていたことなどを確認した。調査結果を報告します。
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本紙社会部次長、記者(現在はいずれも編集局付)は緊急事態宣言が発令された4月7日から週刊文春の取材を受けた5月17日までの間、取材対象者、朝日新聞社員とともに、マージャンをする目的で7回、都内の記者宅マンションに集まった。
次長と記者は、7回のうち4回は夕方ごろから深夜・翌日未明にかけ、現金を賭けてマージャンをしたと説明。2回は「集まったが、仕事の電話が続くなどしてマージャンにならなかった」としてマージャンはせずに飲食のみだったと説明し、残りの1回については「集まったのは間違いないが、実際にマージャンをしたか、よく覚えていない」と述べている。
マージャンの賭けはいずれも、千点を100円に換算する「点ピン」と呼ばれるレート。4人の間でやりとりした現金は1人当たり多くて2万円程度だったという。
集まった日はいずれも次長が、社を通じて手配したハイヤーで取材対象者宅を経由して帰宅。記者宅から取材対象者宅までの約30分間、次長は車中で取材を行い、帰宅後に取材メモを作成していた。いずれもハイヤーの使用・経路記録で裏付けられ、メモの存在も確認された。
集まる日程は、無料通信アプリ「LINE(ライン)」を通じて、おおむね前月中に4人で翌月ひと月分の候補日を出し合い、調整して決めていた。
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次長は司法担当だった平成20年ごろ、当時は法務省幹部職にあった取材対象者と知り合い、その後、ときどきマージャンに誘われるようになった。その際は、帰りにハイヤーで取材対象者を自宅まで送る間に取材をした。
記者は司法担当だった21年ごろ、次長を介して取材対象者と知り合い、マージャンに参加するようになった。次長が司法担当から異動後は、記者が取材対象者を社のハイヤーで送り、車中で取材した。
次長と記者は5年ほど前、取材対象者とのマージャンの場を通じて朝日新聞社員と知り合った。3年ほど前から、取材対象者と次長、記者、朝日新聞社員の4人でメンバーがほぼ固定化し、月に2~3回、マージャン店で行うようになった。30年9月に記者がマージャン卓を購入し、記者宅で行うようになった。
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外出自粛や3密回避が強く求められた緊急事態宣言中に、なぜ記者宅に集まり、マージャンをしたのか。
次長と記者は調査に「不謹慎だと思ったが、取材したいという思いが勝ってしまった」と説明した。説明によれば、マージャンの最中に取材することはないが、帰りのハイヤー車内で必ず1対1で話を聞ける状況を創出できるため、この機会を逃せないと考えた、という。マージャンをしなくても、帰宅しながらの取材機会は確保できるため、集まることに意味があったとしている。
ただ、次長と記者には、緊急事態宣言下に集まって、マージャンをすることは「不謹慎」「コンプライアンス上、問題」との認識はあり、開催の是非について取材対象者と事前にラインで連絡を取り合った。
取材対象者らから開催に強く反対する声が出なかった上、取材目的であることを優先し、強く断ることができず、前月に調整した日程のまま集まることにした。
当日朝は各自が検温し、体調に問題がないことを確認して集合した。記者宅では窓を開けて換気に努め、手洗いや牌の消毒などを行った、と説明している。
次長と記者は「取材が目的だったとはいえ、緊急事態宣言下に不適切で軽率な行動をとってしまい、深く反省しています」と話している。
■「取材に不透明感」おわびします 取締役(コンプライアンス担当)菅野光章
本紙記者2人が取材過程で、特定の取材対象者と賭けマージャンをしていた問題は、外出自粛を呼びかけていた新聞社の記者の行動として極めて不適切でした。産経読者の皆さまの信頼を裏切る行為であり、深くおわびします。刑事告発もなされておりますが、事態を重大に受け止め、捜査に協力してまいります。
加えて本紙が重大視したのは、新聞記者の取材という行為への信頼感を著しく損ねてしまったことです。記者は共通の趣味のマージャンで取材対象者との距離を縮め、帰宅の途に取材を重ねていました。取材メモも確認されました。取材対象は取材の難しい分野で、情報を入手したい記者にとって取材対象者とのマージャンは、取材の機会を創出できる非常に重要な場でした。それゆえに定期的な機会を持つことに注力した、との趣旨を調査で述べました。
記者が取材対象者との関係で不適切な記事を書いたり、逆に書くべきことを控えたりするなどの問題行為は認められませんでした。
しかし取材目的とはいえ、賭けマージャンは許容されるものでなく、取材対象者との「なれ合いの関係」を印象付け、新聞記者の取材活動に不透明感を与えてしまったと反省しています。
新聞は情報を正確に、早く報じる機能が第一義です。そのためには取材対象に肉薄する努力が普段から必要であると考え、記者たちにもそう指導しています。しかし「肉薄」は社会的、法的に許容されない方法では認められない。その行動自体が情報の収集、取材、報道の正当性、信頼性を大きく損なうことになる。この当たり前のことに対する意識が甘かったと反省せざるを得ません。
今回の問題を機に私たちは襟を正し、編集局の全社員を対象にコンプライアンス研修を実施するなど、社内の記者倫理や行動規範を徹底させていきます。失ったものを取り戻すには並大抵でない努力が必要だと感じています。一歩一歩、皆さまの信頼を勝ち取るべく努力してまいります。