【記事のポイント】▼消費者の購買決定プロセスは大きく変化している▼「インスタ映え」するメニュー開発を▼人材不足解消には「人を採用しやすい業態か、人手のかからない業態」しかない▼可能性のある業態は、海鮮を主力にした客単価2000円の大衆酒場 2017年8月29日~31日、東京ビッグサイトで開催された「外食ビジネスウィーク2017」。外食業界向けの7つの専門展が同時開催となる本展示会には572社もの企業が出展し、また多数のセミナーが開催された。 今回の記事では(株)船井総合研究所フードビジネス支援部マーケティングコンサルタントチームリーダー渡邊晃貴氏によるセミナー「成長し続ける居酒屋企業が打つべき次の一手と成長戦略」から、居酒屋業界の現状とその対応策についてのポイントを抽出する。■「Share=共有」の心理をくすぐる、インスタ映えするメニュー開発を 居酒屋業界は他の外食業界に比べると低調が続いている。これは食の安全性への関心の高まりや、「ブラック企業」という言葉とともに増加した居酒屋チェーンの大量閉店に加え、大手チェーンよりも個人経営店を好む客層の増加、またSNSやWebサイト、グルメ番組による飲食店情報の急増など、顧客心理や取り巻く環境の変化によるものと見られている。 中でもSNSやWebサイトによる情報量増加による影響は大きい。消費者の購買決定プロセスは従来の「AIDMAの法則」(Attention=注意、Interest=興味、Desire=欲求、Memory=記憶、Action=行動)から「AISASの法則」(Attention=注意、Interest=興味、Search=検索、Action=行動、Share=共有)へと変化していることに注目必要がある。 特にAISASの中でもSearch(検索)とShare(共有)は最近耳にすることの多い「インスタ映え(写真SNSのインスタグラムに投稿するための見栄えの良い写真)」に大きく関係してくる。そのため、写真映えする商品開発をする企業も少なくない。 例えば愛知県豊川市の海鮮レストラン『刺身・海鮮炭焼・寿司 北海道』では、トレンド商品であるローストビーフと自社の強みである海鮮(いくら)を使った「ローストビーフいくら丼」を開発したところ、月間1000食を販売するという盛況を見せている。また誕生月の会員には「ズワイガニのジョッキ詰め放題」を提供したところ、20%オフのクーポン付DMを送るよりもコストを抑えつつ来店数をアップさせることに成功したという。 このように「キャッチーでインパクトの強い商品・サービスにより、消費者の“食べたい”よりも“写真を撮りたい・体験したい”という欲求を満たすことで、他店との差別化をすることが可能」と渡邊氏は話す。■人材不足解消は「人を採用しやすい業態か、人手のかからない業態」しかない 飲食業界最大の課題が人手不足。飲食業界の有効求人倍率は3倍という数字が出ており、採用・定着は非常に困難な状況だ。では人手不足を解消するためにはどうすればよいか。「人を採用しやすい業態を選ぶか、人手のかからない業態を選ぶしかない」と渡邊氏は強調する。 まず「人を採用しやすい業態」の一つとして、最近よく耳にする「バル業態」を渡邊氏は例に挙げた。滋賀県のある肉バルでは2店舗に230件の採用応募があったそうだ。また愛知県の海鮮を主力とした飲食企業では採用のために海鮮バルを出店したところ居酒屋の3倍ほどの応募があったという。バルやカフェのような業態は応募者にとって「かっこいい・おしゃれ」というイメージがあるため採用に強い。このように業態によって採用力は大きく異るため、採用しやすい業態を選ぶことが必要だということがわかる。 次に「人手のかからない業態」について注目しているのが焼肉の鶏バージョンである「鶏焼き」だという。最近よく見かける焼き鳥は実は生産性が低い業態。一本百円前後の焼き鳥に一本一本串打ちをするのは非常に効率が悪い。そこで串打ちを必要とせず、原価の低い鶏肉を提供する「鶏焼き」がベストなのだという。 もちろん客単価を上げることも忘れてはいけない。鶏肉はヘルシーなイメージが強いため、女性客や中高年層の来店が見込める。そこで女性客でも頼みやすいワインや、中高年向けに高級な日本酒を用意する。また鶏を一羽買いして希少部位をメニューとして提供することで単価アップを狙うなど、工夫が必要というわけだ。■海鮮を主力にした客単価2000円の大衆酒場が流行る 今後成長するための業態として渡邊氏は「海鮮を主力にした客単価2000円の大衆酒場」を提案。そもそも成長のためには「低価格」「専門性」「空白マーケット」の3つの条件が必要だという。たしかに『鳥貴族』や『串カツ田中』『丸亀うどん』などはこれらの条件を満たしており、順調に業績や店舗数を伸ばしている。安くても価値を感じさせる専門性があれば差別化は可能であり、結果として集客につながるという好例だろう。 また近年の女性による飲食費の増加を受け、女性客をターゲットにした「海鮮バル」も競合が少ないことから狙い目の業態だという。海鮮バルは肉バルに比べ原価率が低く利益率が高い業態であり、また女性集客による市場活性化やバル業態による採用・生産性の課題解決などさまざまなメリットがある。 最後に渡邊氏は「いかに空白マーケットに参入するか、いかに時流に乗った業態を作りだすかが成長のための最大のポイントであり、そこに自社独自の強みや新商品開発による付加価値の提供、SNSの影響力・爆発力を活用した集客方法などをプラスした戦略を打ち出すことが必要」と締めくくった。