英エコノミスト誌が予想する、Wintelの終わり

2010年8月2日

政治経済誌の英エコノミストが、「Information technology in transition. The end of Wintel」(ITの変化の時。Wintelの終わり)という記事を掲載しています。

fig Information technology in transition: The end of Wintel | The Economist

クラウドコンピューティングとモバイルコンピューティングの台頭によって垂直統合が始まっており、マイクロソフトとインテルが市場を独占する時代は終わるのではないか、というのが記事の主旨。

Wintelに代わり、8社ないし9社の巨人が戦う市場へ

Wintelに対する脅威は、クラウドとモバイルという、マイクロソフトとインテルのどちらの支配も及ばない技術によって作られた、とエコノミスト誌は書いています。

The Wintel marriage is now threatened, oddly enough, by technological progress. Processors grow ever smaller and more powerful; internet and wireless connections keep speeding up.

Wintelが脅かされているのは、奇妙なことに技術の進化によるものだ。より小さくて強力なプロセッサの進化や、インターネットとワイヤレス接続の高速化だ。

This has created both centripetal and centrifugal forces, which are pushing computing into data centres (huge warehouses full of servers) and onto mobile devices—businesses that Microsoft and Intel do not dominate.

これらが、求心力と遠心力の両方を作り出した。それは、コンピュータをデータセンターに集中させることと、モバイルデバイスであり、それらはマイクロソフトやインテルの支配が及ばない領域である。

こうしたクラウドとモバイルの登場は、垂直統合を促進すると分析しています。その例として、アップル、グーグル、シスコなどが挙げられています。

Apple, whose products have always been more integrated, is building a huge data centre and also offering web-based services. Google has developed Android, an operating system for smart-phones.

アップルの製品はつねに統合度が高まっており、同社は現在巨大なデータセンターを建設中で、Webベースのサービスを提供している。グーグルはスマートフォンのOSとしてアンドロイドを開発した。

Cisco, the world’s largest maker of data-networking gear, has started to sell servers. That spurred HP, a vendor of these machines, to push into the networking business. Oracle, which sells business software, bought Sun Microsystems, a computer-maker, last year.

世界最大のデータセンター向けネットワーク機器メーカーのシスコはサーバを売り始めた。これは、サーバベンダであるヒューレット・パッカードをネットワーク機器ビジネスへ向かわせることになった。ビジネスソフトウェアを販売してたオラクルは、昨年コンピュータメーカーのサン・マイクロシステムズを買収した。

そしてマイクロソフトもこうした垂直統合の流れに対応すべく、クラウドに進出すると同時に、モバイル領域ではインテル以外の選択としてARMとの関係を深め、一方でインテルもモバイルではノキアやオープンソースのMeegoなど、マイクロソフト以外のパートナーとも協力関係を深めていくため、両社は徐々に疎遠になっていくだろうと予想しています。

そしてエコノミストの記事でもっとも興味深かったのは、一番最後の段落です。Wintelの時代の後には、垂直統合を実現した8社から9社の巨大ベンダが市場で競うことになるだろうとのこと。

Instead of being dominated by two monopolists, the market will be fought over by eight or nine more or less vertically integrated giants. Oracle, Cisco and IBM will vie for corporate customers; Apple and Google will scramble for individuals (see table). IT, like the world, is becoming multipolar.

2社の独占に代わり、市場は8社ないし9社の、垂直統合された巨人による戦いとなるだろう。シスコ、IBMは企業向け市場で競い、アップルとグーグルは個人向け市場を奪い合うだろう。

エコノミストが挙げた8社とは、アップル、グーグル、マイクロソフト、インテル、HP、IBM、オラクル、シスコでした。

垂直統合が台頭する理由は

なぜクラウドやモバイルの進化が垂直統合へ結びつくのでしょうか。肝心の理由を、エコノミストの記事は次のようにあっさりと書いています。

For these new forms of computing to work well, the different layers must be closely intertwined.

(クラウドやモバイルのような)新しい形のコンピューティングがよく機能するには、異なるレイヤが緊密に折り重なっていなければならない。

Publickeyで昨年の6月に公開した記事「オープンシステムの幼年期の終わり」では垂直統合が登場した理由として、オープンシステムが発展した結果さまざまなベンダから多くのソフトウェアやサービスが登場したことで、それらを適切に統合することが難しくなってしまったためではないかと書きました。

そこで登場してきたクラウドも垂直統合の一種であり、オラクルによるサン・マイクロシステムズの買収は垂直統合の時代の象徴であると書きました。

ですからエコノミストが予想する、Wintelは徐々に疎遠になり、それとは別に垂直統合されたベンダが台頭してくるだろうというシナリオには同意します。

しかし、垂直統合された8社ないし9社の巨人が市場で戦い合うほどに合併や淘汰されていくという結論には懐疑的です。多くの顧客はオープンシステムを経験しており、垂直統合による単純な囲い込みにも反発するでしょう。

クラウドからモバイルまで垂直統合されたソリューションを提供できるのは確かに8社程度の限られた企業に限られることになるでしょうが、それ以外にもさまざまな選択肢を提供するベンダが数多く市場に生き残る余地はあるはずです。何よりもクラウドやモバイルデバイスは、企業の大小に関係なく競争を可能にするプラットフォームでもあるのですから。

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Junichi Niino(jniino)
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