ひらめきよりも、豊富なインプットを。イラストレーター赤倉に「デザインの源」を聞いた
インタビュー/原田イチボ
イラストレーター赤倉さんの初個展「Plaisir」(プレジール)が、東京・表参道にある「pixiv WAEN GALLERY」にて2022年6月1日(水)まで開催中です。カフェ風のお洒落かわいい空間で、オリジナルイラストを中心に、過去に手掛けた版権イラストを含む約50点を展示します。
赤倉さんは、キャラクターデザインやキービジュアルの制作を中心に、アパレル、コラボカフェ、グッズデザインなど多岐にわたって活躍しています。オリジナリティあふれるスイーツやファッションのデザインはどのように生まれているのでしょうか? アイデアの源について聞きました。
DTPデザイナーとして会社員を経験
── 現在のpixivアカウントでの初投稿は2014年ですが、絵を描き始めたのはいつ頃でしょうか?
物心ついたときからイラストを描いていました。10年ほど前からデジタルで作画するようになりました。
── 昔からイラストレーターに憧れがあったのでしょうか?
憧れはありましたが、「あわよくば、なれたらいいな」程度で半ば諦めていました。なので、最初はDTPオペレーター(デザイナーやクライアントの指示をもとに印刷物をレイアウトする仕事)として就職しました。新卒の頃にイラストのお仕事をいただいて、それが商業デビューではありましたが、最初は副業と言えるほどの規模では全然なく……。ですが、次第にご依頼が増えてきたので、イラストレーターとして独立しました。
── 会社員としての固定収入を捨てて、フリーランスに転身するのは、かなり大きな決断ですよね。
はい。でも子どもの頃からイラストレーターに憧れていたので、やらずに後悔するよりは、やってみて後悔するほうがいいかなと。会社員としても5年目に差し掛かり、チームの異動などで転職という意味でもちょうどいいタイミングだったんですよね。金銭的な余裕も多少出てきたので、「会社員を辞めてもしばらくは平気だろう」と判断しました。やはりフリーに転身する上で、金銭面は大きな決め手になりました。
「なんでも描きます!」より「これが得意です!」をアピール
── DTPデザイナーの経験は、現在のイラストのお仕事にも役立っていますか?
オペレーターとはいえ、デザイン周りもけっこう担当させてもらったので、当時の経験が今に活かされています。一番目立たせたいものが明確になるように全体の要素を構成する「視線誘導」のやり方は、会社員時代に学びました。先輩にいろいろ教えてもらえる環境で、ありがたかったです。
── デザインの基本を学べる環境だったんですね。
イラストと文字を合わせるデザインのやり方も当時身につけたものです。商品パッケージや雑誌の表紙とかって、イラストや写真に文字が入るじゃないですか。それでもゴチャゴチャしないように見せるのが、慣れないうちは大変でした。今もイラストに文字を組み合わせるのが好きですし、当時教えてもらったことが役立っています。
── 赤倉さんは、イラストレーターとして数多くのコラボ案件などを担当していますよね。会社員を経験して、仕事全体のイメージを持って作業してくれるからこそ、クライアント側もやりやすい部分があるんじゃないかという気がします。
もしクライアントさんにそう思っていただけているなら、すごくうれしいです! 会社員時代でデザイナーとクライアントさんとの連携がいかに大切かを学んだので、「イラストレーターがこういうふうに動けば、仕事全体がスムーズに進むだろう」とある程度想像して動く癖が身についたと思います。
── では、〆切などもきっちり守る?
余裕を持ってスケジュールを組むことは心がけています。それでも予定通りに進まずギリギリになることも多いですが……。ちょっと危なそうだと感じたときは、前もって連絡するようにしています。
── 「危なそうだと感じた時点で先に連絡」というのも、やはり全体の動きをイメージしているからこそという気がしますね。ギリギリまで粘ってみて「やっぱりダメでした」よりは、早めに一言あるほうが、発注する側としては断然ありがたい……(笑)
そうなんですよね(笑)。
── 赤倉さんは公式サイトで、自分の得意な絵柄や好きなものを具体的に明記していますよね。これも発注者目線で「やったほうがいい」と判断したことですか?
はい。「自分はこれが得意です」と世の中にアピールすることは大事だと思います。はじめの頃は「なんでも描きます!」みたいに言っていたんですが、やっぱり苦手分野はありますし、お仕事をいただいたのに、「これは無理です」となる事態は避けたいなと。自分の得意分野を具体的にアピールしたほうが、発注する側にとっても相談しやすいんじゃないでしょうか。
今まで見てきたものを組み合わせてアレンジする
── スイーツを擬人化した「チョコケーキ6姉妹」を始め、ひとつのモチーフをデザインに落とし込む発想に定評があります。普段からインプットを心がけているのでしょうか?
── 日本酒とりんごジュースのセット商品で使用されたイラストの、りんごの皮を生かしたデザインのドレスがかわいくて大好きです。どのようにアイデアを膨らませていったのでしょうか?
「バレンタインデー&ホワイトデー」の特別デザインということで、りんごだけではなく、どこかにバラの要素も入れたいなと考えました。うす切りのりんごを巻いたり重ねたりしてバラの形にしたアップルパイを以前見たことがあったので、「よし、それでいこう!」と。ただ、どこにりんご×バラをあしらうべきかは悩みました。帽子にのせてみるのも試してみましたが、いまいち目立たなくて……。考えているうちに、「そういえばフリルをバラのようにしたウエディングドレスを見たことがある」と思い出して、バラを腰元にあしらうことにしました。それが決まった後は、バラのフリルに合わせて全体を整えていった感じです。
── お話を伺っていると、ハッとひらめくというよりも、豊富なインプットをもとにアイデアを組み合わせながら膨らませていくんですね。
直感型というよりは、けっこう考え込むことが多いですね。大体お風呂やベッドの中で、じーっと集中して思考をこねくり回しています。今まで見てきたものを組み合わせてアレンジすることが多いので、そのためにも普段からインプットを欠かさないことを意識しています。
感情移入してもらうために、現実と地続きのバランスを探る
── 赤倉さんの描くファッションは新鮮なデザインでありつつも、奇抜すぎず現実に存在しそうなラインを守っています。そのバランスは意識しているのでしょうか?
イラストを観てくださる方に感情移入してもらいたいので、二次元といえど、現実離れしすぎたファッションにはならないように意識しています。キャラクターたちを「自分のすぐ近くにいるオシャレな女友達」のように受け止めてほしいんですよね。だから、ちょうどいいバランスを常に探っています。
── 現実と地続きのファッションだからこそ、アパレルのお仕事も依頼されるのでしょうね。ところでサンリオとのコラボ企画は、「たしかにポムポムプリンが好きな女子は、こんなファッションをしていそうだ」という説得力がありました。一口にファッションと言っても、幅広いジャンルをカバーしていますね。
私は結構何でも好きなんですよ。今でこそ美少女のイラストを描くことが多いですが、昔は男性キャラをたくさん描いていましたし、フリルたっぷりのファッションを描くのが好きだけど、自分自身の服装はわりとカジュアルな感じで……。雑多にいろんなものが好きなので、それが広く浅くというか器用貧乏というか、「私が本当に得意なことって何だろう」とコンプレックスに感じた時期もありました。でも今は逆に「何でも好き」という性格によって、いろいろな案件に対応できている気がします。
── 「自分ではコンプレックスと思っていたけど、実は長所だった」というのは、仕事に限らず、人生のいろいろな場面でありえることですね。
サイズ感や色の鮮やかさなど情報の大小を意識して配置する
── 赤倉さんのイラストは、ちょっとした小物まで凝ったデザインですよね。細部まで描き込んでも全体がゴチャゴチャしないためには、どんなところに注意したらいいですか?
ラフをしっかりめに描くことですかね。ラフの時点で小物のデザインや配置まで細かく決めて、全体のバランスを把握します。だからラフから清書の段階で線画を変更することは、あまりありません。
── いろいろ描き込んでいくと、どうしてもメインで見せたいものが埋もれてしまいます……。
やはり視線誘導が大事なんじゃないでしょうか。「メインの物の近くには、あまり目立つ物を配置しない」とか「大きい物の近くには、小さい物だけを配置する」とか。物体を情報の塊として捉えて、サイズ感や色の鮮やかさといった情報の大小によって置き場所を決めていきます。
── 描くものによって線の強弱を変えていると聞きました。
特にキャラクターは目立たせたいですからね。主線は太くするけど、その他の顔のパーツは細くしたりして、線に強弱をつけています。全部同じ太さの線で描くのが味になっているイラストレーターさんもいますが、私が描く場合は、線にメリハリをつけたほうが見やすく仕上がります。
── 使っているソフトなど、作業環境を教えてください。
メインのソフトはSAIですが、仕上げにはCLIP STUDIO PAINTを使っています。液晶タブレットはWacom Cintiq 16です。
── 赤倉さんのイラストをよく見ると、使う色の数自体はそこまで多くないですよね。色数を絞っても地味にならないためには、どうしたらいいでしょうか?
色数を絞るのは、会社員時代の名残です。当時は3色にまで絞っていました。今はさすがに3色よりは多いですが、着色作業の前に使う色をある程度決めておきます。「補色(互いの色を最も目立たせる組み合わせのこと)」を身につけると、色の選び方も変わるんじゃないでしょうか。たくさんの色を使ったり、全部に鮮やかな色を使わなくても、アクセントカラーを上手く取り入れるだけで一気に華やかな印象になりますよ。
── 赤倉さんのような人気イラストレーターでもスランプに陥ることはあるのでしょうか……? スランプになったときは、どうやって脱出していますか?
私は定期的にスランプになっていますよ……!(笑) そういうときは、描いているものに少しでも新しい要素を取り入れるようにしています。主線がボヤけて見える「版ズレ」加工が流行っているから試してみよう、とか。新しいことに挑戦すると気分も変わるし、少し成長した気持ちになれるので、モチベーションが上がります。あと、さっき「気になったデザインはメモ代わりにラフを描き起こしている」と言いましたが、普段からそのような習慣があると、何か行き詰まったときも「自分はこれだけの枚数を描いてきたんだ」と心の支えになってくれます。
── 女の子をかわいく描くために、どんなところを意識していますか?
柔らかそうな髪質にはこだわっています。髪を描くときは、毛の流れ方や束感、後れ毛などを何度も調整しています。
── 女の子をかわいく見せるポーズなどはありますか?
特にバストアップのときは、顔の近くに手を置くようにしています。手はネイルなどもあってパーツとして華やかですし、アクセサリーのような感覚で捉えています。ポーズを決めるにあたって資料として自撮りすることも多いので、スマホのアルバムは絶対他人に見せられません。これは絵師あるあるだと思います(笑)。
「pixiv WAEN GALLERY」で個展を開催するのが夢だった
── 今回の個展の見どころや、こだわりを教えてください。
イラストのメイキング映像です。制作過程を動画で初めて公開しました。完成間近まで文字の綴りを間違っているところまで、包み隠さず見せています!(笑) あとは内装ですね。ミントグリーンの壁紙とかワゴン風の物販テーブルとか、カフェっぽい雰囲気のかわいい空間に仕上がっています。私の願望を全て実現していただいて、担当者さんには感謝の一言です。
── 個展のタイトルである「Plaisir」(プレジール)には、どんな思いが込められていますか?
こちらは「楽しみ」や「気晴らし」を意味するフランス語です。ご来場いただいた皆さんの気持ちを少しでも上向きにすることができればと思い、このタイトルに決めました。「pixiv WAEN GALLERY」での個展開催に憧れていたので、夢が叶った気分です。自分自身もタイトルのように個展を楽しみたいと思っています。
── レモンタルトのヘッドドレスが印象的な個展のメインビジュアルは、どのように生まれましたか?
なかなかの迷走を経て、このメインビジュアルにたどり着きました(笑)。初めは「主人公っぽいから」と赤をメインカラーに、イチゴをモチーフにしたイラストで考えていたんですが、なかなか私らしい配色にならなくて……。そこで、昔から好きな題材であるレモンを使うことにしました。この女の子のキャラクター、エマちゃんは、昔から何度も描いていて思い入れがある子です。
── 今後の目標はありますか。
赤倉初個展「Plaisir」開催中!
pixivとツインプラネットが共同運営するギャラリー「pixiv WAEN GALLERY by TWINPLANET × pixiv」にて、赤倉さんの初個展「Plaisir」が開催中です。
オリジナルイラストに加え、ホロライブやサンリオとのコラボなど、赤倉さんがこれまで手がけてきたイラスト約50点を展示しています。ストライプ模様が印象的なカフェ風の内装など、空間づくりにも赤倉さんのこだわりが反映されています。立体的にイラストを楽しめるレイヤードグラフや、和紙風ポスターなど、素敵な限定グッズもご用意してお待ちしております。
開催期間:2022年5月13日(金)~6月1日(水)
定休日:なし
入場無料
所在地:東京都渋谷区神宮前5-46-1 TWIN PLANET South BLDG. 1F
営業時間:12:00~19:00
グッズのWEB販売も!
BOOTHにて個展販売グッズの一部をご購入いただけます。赤倉さんのイラストを使ったかわいいグッズをぜひゲットしてください。