黄色張羅。


「大丈夫です大丈夫です。大丈夫ですハイ」
ってジュゲムジュゲムみたく100回くらい言われたので、

そうか。大丈夫なのか。ならば。
そう信じて いざ試着したのですが、
ちょっとも大丈夫じゃありませんでした!




あれは確か夏の終わりくらいだったかな。
なんつーかね、ちょっとした断捨離っていうかね、

トキメク物(残す)とトキメカナイ物(捨てる)を
袋に分けてね、

間違って全部捨てた時がありましてね。

もうね、トキメキを返せつってね。
トキメキっつーか、普段着を返せってね。

で、服が結構なくなったわけなんですが。


この3月まで、割と粘った。
2着の長袖を6か月くらい着まわした。
もう、着まわし術もここまできたら、術うんぬんより度胸の問題で。
まわすっていうか、もう2択ですから。

で、なんか周りもね、薄々感づいて多少のザワツキはあったわけですけど、
コートさえ羽織っておけばオッケーみたいなとこあって。

あと、マフラーなんかで言えば、もう5本あって。なぜか。
親の仇くらいに、これでもかって5本。
首元のオシャレだけは完璧に演出しました。



そんな感じで、だましだましやってきたんですけど、
「まだいける!」っていうこっちの見込みを裏切って、
服サイドの方から白旗が上がりました。
もー参った、と。
ずっとオレのターン、と。

えっと、こちらね、長袖ってね呼ばれてますけどね、
袖はね、確かにちょっと長めだけどね、言っても7分なの。7分丈。
正直ね、秋服なんですよ。秋担当。短いで有名のあの秋。
まさか、冬を越えようとしてくると思わなかった。
見て、ここの生地。テロッテロなの。
半袖にちょっと毛が生えたようなのが秋服なのね。
ほんと雪とかね、朝の冷え込みが3度とかね、
秋でどうにかできる範囲はとっくに越えてっから。とのこと。


いやいやいや、今更、もう3月ですよ。
あと1ヶ月で春ですよ。
君ならできる。
って励ましてきたわけですが。

このまえ電車で、コートの中から飛び出してきた1本のほつれを見つけてね。
まあ、ほつれもするよねって、何も考えず引っぱったらですよ、

あれ・・うそ・・こんなの初めて・・

ってね、もう全然ほつれが途切れないわけです。
引ける引ける。オキアミ漁くらい、引ける。

え、やだ、すごい、大漁。なんつって、漁師気どりで引いてたら、
コートの中で、服がだいぶ変わり果てた姿になってたよね。
丈の短さだけで言えば、クマのプーさんくらい攻めた服になってたよね。


そんなわけで、
この時期にして、長袖を買いにと、しぶしぶデパートに行ったわけです。
ラス1の長袖を着て。


大抵どこに行っても、もれなく気遅れする方なんですけど。
もう挨拶代わりかってくらいササッと気遅れすることができるんですけど、
デパートの洋服売り場なんつったら、
もうちょっとした舞踏会みたいになってるわけですよ。
針のむしろのようにキラキラしてるわけ。

もう「気遅れ」で一曲できそうなくらい気が遅れたんですけど、
とりあえず心を落ち着けてから店に飛び込んでね、
あとはほら画商かなってくらいフムフムみたいな雰囲気出して、
わかってる感じで服見てたわけですけど。

何ていうかな、そんな私への一種の警報なのかな。
店員さんがね、1着でも服を触ろうもんなら、
「そちらいいですよねー」
って言ってくるわけ。

隣を触ろうもんなら、
「そちらも売れてるんですよー」
って言ってくるわけ。

もうね、びっくりして、すぐ服から手を離しちゃうのね。
全然服見れてないのに。
でもやっぱよく見たくて、負けじと頑張って掴んだままでいると、
もう呪文みたいな勢いで、すごい喋ってくるの。唱えてくるの服の良さを。
わわわー!って手を離すと、また一旦止むわけ。

で、また、おそるおそる手を伸ばすと、
「そちらは今、私も着てるんですけどー」
つって。

もう服に手を伸ばすたびに「そちらは」「そちらは」っつーね、
怒涛の「そちラップ」が合いの手なしに続くわけ。
君に感謝とかするまで多分続くわけ。


そちらがそうくるならと、こちらも人見知りの持てる力を全て発動しまして、
この狭い店内で店員さんを巻いてやろうと、
もうね死角へ死角へと回り込んでやったわけです。
それを地の利を生かして逆に追いこまれたりして。

まあ店員さんと私によるちょっとしたボンバーマンみたのを、たしなんだよね。10分くらい。


そんな中、一瞬にして目を奪われた。
荒野に咲いた一輪の花。

(これ、可愛い・・・)


なんか抜群に黄色い!
抜群に黄色いけど、その黄色を帳消しにするくらいの可愛さ。
や、でも、やっぱ黄色いかっ?!

あの黄色が引き寄せると言われた金運ですら、
寄って行くのにちょっとマゴつくくらいの黄色さ。

でも、その黄色がささいなことに思えるくらいの可愛さ。
可愛さ、黄色さ。


私はもう、その服の魅力と若干の黄色さに、とりつかれてしまったのです。


そうして足を止めていると、
チェックメイト!とばかりに店員さんが寄って来て、
「こちら、すっごく黄色いですよねー。黄色お好きなんですかー?」
つったので、

「いや、黄色は好きじゃないんですけど、この服は可愛いなと思って。
 でもやっぱ黄色いですよね」
つったら、

「あ、でも、実際着てみると案外馴染む感じで、そんなに黄色さは目立たないというか」
みたいなことを言ってきたわけです。


もうね、こんなに揺るがない黄色をね、なんかもう、どさくさにまぎれて
「馴染む」つってきたわけですよ。
「目立たない」とすら言っちゃったわけですよ。

じゃあ、着てみましょう、そこまで言うならってなって。

まあ、大丈夫大丈夫言われながら試着室に入ったわけですよ。


で、試着しようとしてたら
「試着される際、フェイスカバーの着用だけお願いします」
みたいなこと言われたのね。

フェイスカバー。

これ、女性特有かもしれないけど、
服試着するとき化粧が服につかないように、
なんか薄い布の袋みたいのを頭に被るのね。

でさー、私さ、そんなのね、全然慣れてないから、
もう、言われた時点でね、すぐに被ったわけ。
薄い布を。

したらさ、薄い布だから、薄ーく向こうが見えるわけで、
その中で手探りで黄色を手に取ったわけですよ。

黄色の首のまわりに2個くらいボタンがあったんだけど、
もうそんなのも気づかずにね、
一気に黄色に飛び込んだわけ。夢中で。

もー驚くくらい、頭が出ないわけ。
こんなに出ないのなんて胎児以来っつーくらい出ないわけ。
10分の1も出てないわけ。
産婆だったら一旦お茶しに行くくらい出てない。

こんな出ないことあるー?って思ってね、
もうね、右回り左回りと必死に回転しましたよ。

したら、まあ鼻くらいまで出た。

鼻が出てね、その下が出ないって、
私の凹凸どうなってんの?って思ったんだけど、
20年くらい前に「クッキングパパ」みたいな似顔絵描かれたことがあって、
あいつ絵心ねぇなーって思ってたけど、もうね、20年の月日を経て、実証した。
あいつ、絵心 超あった。容赦はなかったけど。


で、クッキングの部分を埋没させたまま、腕だけでも通そうと思ったんだけど、
もう狭っ!ここも狭っ!

つーか、こんなに狭いことある?
顔と片腕だけで、服ん中きっつきつなの。
とにかく右腕を!と思って伸ばすんだけど、
ゴムゴムの〜とか言ってみたんだけど、

はい、微塵も伸びない。
ファイナルファンタジーのサボテンダーみたいな態勢のままファイナルを迎えました。


その間も「お客様、着た感じどうでしょうかー?」
って1000回くらい聞かれてるんですけど、
分刻みで聞かれてるんですけど、

着れてない。
頭すら全部出てない。

昔、このかけ声に踊らされて、試着中に服を破ったことがある私は、
このくらいで動じるわけにはいかないのです。

肩幅がね、多少ね、女子としてはガンダムくらいあるので、
肩さえ何とか収まれば、加藤も行きまーすって、きっと飛びたてっから。
しばしお待ちを。ご歓談を。
そしてどうにか、コックピットまで。

で、どうにか両腕もぐりこませ、必死に頭を捻じって、
最終的にはフライングゲット!みたいな感じで着れたのです。


着てみて、驚いたというか、まあ、そうだよねっていうか、
黄色いです。
むしろ着たほうが、より黄色い。
標識みたい。

あと、まあピッチピッチね。
布越しの肉の躍動感がスゴイ。

着た瞬間から、もう脱ぎたい。

まあ2分くらいは頑張ったよね。
もう肩とかね、とっくにおかしくなってるわけ。
現役を退くレベル。
あと、決定打としてはあれだね、一試合投げ切ったくらいの汗ジミかな。
フェイスカバーをゆうに超えてたもんね。


買いました。
このまま着て行きますつって。

で、上から黄色を覆うようにコート着て、
足早に会計して服屋を立ち去りました。


家に帰ってから、10分くらいかけて、
穴から脱出するみたいにやっとの思いで服を脱いで、
もうショーシャンクの空に!つって黄色を投げ捨てて、
歌いながら寝ました。


そして、今日、服屋にラス1の長袖、置いてきたことに気付いたのです。