サービスマネジメントを取り巻く4つの変化
(a)顧客との関係性の変化
1つ目の変化は、ビジネスの変化によって生じた企業と顧客との関係性の変化です。従来は「モノ」に企業が価値を定め、顧客に販売するという考え方が主流でした。しかし近年では、すべての経済活動を「サービス」として捉え、サービスの価値を企業と顧客が共に作り上げるという考え方に変わりました。この新しい考え方は2004年にRobert F. Lusch と Stephen F. Vargoによって提唱された「サービス・ドミナント・ロジック(Service-Dominant Logic)」です。
これにより、企業と顧客は「モノ」を売って終わりという関係性から、「サービス」を通じて顧客と継続的に価値を追求する関係性へと変わりました。また、DXもこの関係性の変化の中で価値を再定義するという考え方です。
(b)サービス構築手法の変化
2つ目の変化は、サービスを作り、維持(運用保守、ITSM)していく手法の変化です。前述のとおり、企業と顧客は継続的に価値を追求する関係性となり、企業は顧客にとっての価値を常に満たし続ける必要が生じました。
1つ目の変化が起こる前は企業が価値を定めていたため、価値の変化は緩やかであり、定められたものを正確に構築するウォーターフォール手法がサービスの構築や維持には最適でした。しかし、1つ目の変化が起こった後では価値の変化が急速化し、変化への迅速な対応が可能となるアジャイルやDevOps、DevSecOpsなどの手法がサービスの構築や維持に有効なケースが増えました。
(c)コンピューティングインフラの変化
3つ目の変化は、サービスを支えるコンピューティングインフラの変化です。パブリッククラウドをはじめとした仮想サーバやコンテナ、サーバレスといった新しいコンピューティングインフラが誕生し、物理サーバの利用からこれらの技術へと移行する場面が増えました。
新しいコンピューティングインフラが誕生する以前に物理サーバを用いていた時代には、人力でコンピューティングインフラの状態をドキュメント化していましたが、新しいコンピューティングインフラではインフラの状態をコードとして管理するIaC(Infrastructure as Code)という手法を用いることが増えました。
(d)サービスマネジメント組織の変化
4つ目の変化は、サービスマネジメントを実施する組織の変化です。従来はサービスを構成する要素同士の関係性が強く、「密結合」の状態でした。この状態では一部の要素に変更を加える際にも他の要素との関係性を確認し、必要に応じて他の要素も変更する必要がありました。しかし、価値の変化に素早く対応するために「疎結合」の状態を目指すケースが増えました。
さらに、疎結合のサービスでは意思決定の速度を上げるために変更の承認を分権化することもあります。従来の変更承認フローでは責任者が包括的に変更を承認していましたが、分権化された組織では承認者を要素ごとに配置したり、技術要素とビジネス要素に分けて配置したりすることがあります。
ITILの3つの変化とサービスマネジメントを取り巻く4つの変化との関係性
前回、ITILv3からITIL4への変化として以下の3つを挙げました。
- (1)IT目線からビジネス目線へ
- (2)価値提供から価値共創へ
- (3)ライフサイクルからバリューチェーンへ
「(1)IT目線からビジネス目線へ」と「(2)価値提供から価値共創へ」について
IT目線や価値提供のままでは「(a)顧客との関係性の変化」に対応できません。企業はサービスを通じて顧客と継続的に価値を追求する必要がありますが、ビジネス側の要望をIT側が待っていたり、一方的に価値を押し付けたりしていては、顧客と価値を共創する関係性を構築することはできません。
「(3)ライフサイクルからバリューチェーンへ」について
固定化されたライフサイクルのままでは「(b)サービス構築手法の変化」や「(c)コンピューティングインフラの変化」、「(d)サービスマネジメント組織の変化」に対応できません。
たとえば、DevSecOpsではセキュリティ対策をより上流の段階に組み込むため(セキュリティのシフトレフト化)、サービスライフサイクルで定められているサービストランジションの流れを変える必要があります。また、コンテナ技術ではIaC及びCI/CDツールを用いて問題が発生したコンテナを自動復旧させるなど、サービスオペレーションの段階の流れを変える必要があります。さらに、変更が分権化された組織でもサービストランジションの流れを見直す必要が生じます。
このようにサービスマネジメントを取り巻く4つの変化に適合するため、ITILの3つの変化が起こったのです。
おわりに
今回は前回ご紹介したITILのアップデート内容の背景にある変化についてご紹介しました。しかし、読者の皆さんの中にはすべての変化を受け入れることが最適でないと感じる方もいるかもしれません。
次回は今回の内容を踏まえて、個々のサービスをどのように最適化していくべきか、これからのサービスマネージャーが何を実施すべきか、DXとの関連性も含めて詳しく解説する予定です。
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