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「最低限度の保障ない」憲法記念日、コロナ解雇30歳ホームレスの思い

 憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」

 新型コロナウイルス禍が続き、経済的打撃が長期化したことで、雇用が不安定な非正規労働者にしわ寄せがきている。政府は「自分ができることは自分で」と強調し、今日の生活さえままならない人たちが置き去りにされている。3日は憲法記念日。職を失い、生活困窮に陥る人も増える中、憲法が保障する生存権とどう向き合えばいいのか-。

 4月27日正午、NPO法人「美野島めぐみの家」が福岡市博多区の教会で行った炊き出しには106人が訪れた。うち、ホームレスは57人。高齢者が目立つ中、若い男性の姿もあった。

 男性(30)は派遣切りに遭い3月下旬にホームレスになった。この日の所持金は42円。カレーライスをおかわりし、笑みがこぼれた。「本当に助かる。支えてくれるのは国ではなく、人のぬくもりだと感じます」

 派遣社員として2年半、福岡県内の倉庫で食料品を仕分ける仕事をしていた。巣ごもり需要もあって忙しく「コロナの影響はないと思っていた」。ところが、3月初め、職場でコロナ感染者が出て休業し、そのまま解雇された。4月の家賃が払えなくなり家を出た。

 料金滞納でスマートフォンは通話ができなくなり、連絡先が必要な日雇いの仕事に就けなかった。公園で寝泊まりし、値引きのパンを買って空腹をしのいだ。すがる思いで無料Wi-Fiに接続したスマホで「お金がなくても何とか食べていける方法」と検索。生活保護を知った。

 区役所では「住居を探して」と言われ、不動産業者から炊き出しを教わった。家が決まるまで約3週間、4月30日に保護費を受け取った。家賃を除くと約7万4千円。光熱費や日用品をそろえるとぎりぎりだが、「やっと布団でゆっくり休める」と胸をなで下ろす。

 ただ、割り切れない思いは拭えない。「一生懸命働いていたのに、コロナのせいで仕事がなくなった。家が見つからないと生活保護も受けられない。最低限度の生活を保障されているなんて全く思えません」

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 自分でできることは、まず、自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う。その上で、政府がセーフティーネットでお守りする

 昨年10月、菅義偉首相の就任後初の所信表明演説。野党や困窮者を支援する人から「公助よりまずは自助を求め、自己責任を強要している」と批判された。

 厚生労働省によると、全国のホームレスは3824人(1月現在)で、2003年の調査開始以来最少。福岡県は268人(前年同期は260人)だった。

 一方、「めぐみの家」の炊き出しの参加者は増加傾向で、今年に入り100人を超える日もある。コロナで職を失った30~40代もいるという。瀬戸紀子理事長(76)は「既に困っているホームレスにできる自助って一体何なのか。特に孤立しやすいコロナ禍に自助ばかり強調するのはとても突き放した発言に聞こえた」と違和感を口にする。

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 憲法は生存権の実現を国に求めている。熊本大の大日方信春教授(憲法学)は「コロナ禍のような緊急時こそ、国の役割が問われる」と指摘する。

 菅首相は1月、国会で生活困窮者対策を問われた際に「最終的には生活保護という仕組みもある」と答弁した。厚労省によると、生活保護は申請から受給までは2週間~1カ月程度かかる。大日方教授は手続きを簡素化し、行使しやすい環境をつくるのも「国の責務」と言う。

 「第4波」の到来で終息は見通せず、自助頼みの日々が続く。「ホームレスの自分は周囲から“異質で迷惑な存在”と見られ、なかなか助けてもらえなかった。コロナが長引き、自分と同じ境遇の人が増えたとき、国は手を差し伸べてくれるでしょうか」。苦境を経験した男性の言葉は重い。 (金沢皓介、小林稔子)

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