BYODとは
BYODとは「Bring Your Own Device」を略した言葉で、個人が所有するデバイス(パソコン・スマートフォン・タブレットなど)を持ち込んで業務を行う形態です。
企業としてはデバイス購入のコストが抑えられ、シャドーIT(企業が許可・把握していないデバイスやサービス)対策にもなるなどのメリットが得られます。しかし、セキュリティリスクの増大や労務管理が複雑化するといった点がデメリットといえるでしょう。
似たような形態に「CYOD」や「BYAD」があります。「CYOD(Choose Your Own Device)」は企業が選定したデバイスの中から選んで使用すること。「BYAD(Bring Your Assigned Device)」は企業から指定されたデバイスを従業員が購入し、業務で使用する方法です。
BYODの実態
「平成30年版 情報通信白書」によると、BYODを許可している日本企業は20%以下となり、諸外国に比べて最も少ない状況です。
また、総務省が令和3年に実施した「テレワークセキュリティに関する実態調査」では、テレワーク実施企業の中でBYODというキーワードを認知している割合は51.4%と約半数で、意味を理解しているのは28.4%にとどまりました。
テレワークについては、新型コロナウイルスが広がり始めた2020年に導入割合が73.1%まで高まり、従業員規模が大きいほど多い傾向です。テレワーク時に利用を許可している端末は、会社支給のパソコンが最も多く、次いで従業員所有のパソコンとなっています。
通信環境の向上や高性能なデバイスの普及により、オフィス以外での作業が容易になりつつも、セキュリティの確保・対策の維持が今後の課題といえるでしょう。
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企業のメリット
BYODを導入するメリットを企業側・従業員側に分けて見てみましょう。
BYOD導入にあたり、企業側には主に4つのメリットが挙げられます。
コスト削減
1つ目のメリットは、デバイス購入および維持のコストを抑えられる点です。企業が従業員にデバイスを貸与する場合、端末の購入費用だけでなくメンテナンス費用も必要になります。
また、故障時の修理やサポート終了などによる買い替え時の費用も含める必要があり、従業員数が多ければ多いほど費用がかさむといえるでしょう。
BYODでは、従業員が所有するデバイスを使用するため基本的には費用も個人負担です。デバイスに関わるコストの削減が期待でき、紛失のリスクも低減できます。
情シス部門の工数削減
BYODは情報システム部門の負担軽減にも有効です。情報システム部門の業務は、従業員のサポートやサービスの運用保守、ネットワーク構築など多岐にわたります。企業でデバイスを用意する場合、デバイスの選定から各種設定・ソフトウェアのインストールまでさまざまな対応が必要です。
しかし、BYODの導入により従業員個人のデバイスが使用されるようになれば、デバイスに関する対応や問い合わせが軽減されるでしょう。サポート工数が削減されることで、集中して他の業務を遂行できます。
シャドーIT対策
シャドーITの防止も可能です。シャドーITとは企業が把握していない端末やソフトウェア、クラウドサービスのこと。従業員が許可されていないツール・サービスを勝手に使用することで、情報漏洩や不正アクセス、ウイルス感染などのトラブルにつながる危険があります。
BYODで個人所有のデバイスを使用可能にし、きちんとセキュリティ対策を講じておけば、これらセキュリティリスクの軽減にも役立つでしょう。
シャドーITが生まれる理由|リスクと企業がとるべき対策を解説
シャドーITについては「シャドーITが生まれる理由|リスクと企業がとるべき対策を解説」の記事で詳しく解説しています。
多様な働き方の実現
BYODの導入は、ワークライフバランスの実現や従業員のライフスタイルを考慮した柔軟な働き方に対応可能です。近年ではメッセージツールやクラウドサービスの普及により、場所や端末を選ばずに社内システムへアクセスできる環境が整っています。
また、テレワークや時短勤務といった働き方の選択肢も増えました。育児や介護などさまざまな理由でオフィスへの通勤が難しい状況でも、BYODで個人端末を活用できれば退職することなく、自分に合った働き方を選ぶことが可能です。
従業員のメリット
BYOD導入による従業員のメリットには、次のような点が挙げられます。
使い慣れた端末を利用できる
まず、従業員が自分好みの端末を利用できる点がメリットです。同じデバイスでもメーカーやOSによって使い勝手は異なります。会社支給の端末が、普段使っているものと違う仕様・操作方法では慣れるまで時間がかかるでしょう。
しかし、使い慣れた端末なら操作に迷うこともなく、効率的に仕事を進められます。生産性の向上にもつながり、従業員だけでなく企業側にもメリットがあるといえるでしょう。
複数台の端末を持ち歩く必要がなくなる
個人端末の利用が許可されれば管理する端末数を減らせます。BYODの導入でプライベートと仕事で別々の端末を持ち歩く必要がなくなるため、管理がしやすいという点がメリットです。
会社支給の端末以外にプライベート用の端末を持ち歩いている人も多いのではないでしょうか。台数が増えればバッテリーや充電器など付属品の管理も必要ですし、紛失や盗難のリスクも高まります。これら管理のストレスや紛失リスクの軽減にもBYODは役立つでしょう。
企業ののデメリット
反対にBYOD導入のデメリットもそれぞれ理解しておきましょう。まずは、企業側のデメリットについてお伝えします。
情報漏洩リスク
情報漏洩や情報改ざんといった危険性があることを理解しておかなければなりません。従業員が所有する端末は、会社で貸与する業務用端末よりもアクセス先が広範囲になります。また、ダウンロードするアプリも多様になりますし、紛失・盗難の可能性もあるでしょう。
不正アクセスやウイルス感染などから、情報漏洩リスクが高まると考えられます。これらのリスクを回避するためには、セキュリティアプリの導入や最新バージョンへの更新などセキュリティに対する適切な対策が必要です。
費用負担のルールを定めづらい
BYOD導入は、費用負担のルール設定が課題といえます。業務に関わる通信料金は企業負担というのが一般的です。しかし、個人所有の端末を利用するため算出が難しい部分でもあります。
一方でBYODは個人端末を頼るという前提のもと、すべての費用は個人負担という考え方もあり、企業によって対応は異なるようです。解決策の一例を紹介しますので参考にしてください。
- 通信料を一部補助する形で手当を支給する
- 端末を管理するアプリをインストールする
- モバイルWi-Fiを支給し、費用は会社負担とする
管理業務が複雑化する
オフィス以外でも仕事ができることから、正確な労働時間を把握できなくなる恐れがあります。また、端末の利用において公私の区別が付きにくい点も課題です。
場所を問わずに仕事ができる点はメリットともいえますが、労働時間の増加につながりやすくなります。労働時間の厳密な管理や残業時間の抑制が勧められている近年では、労務管理が複雑化すると考えられるでしょう。
従業員のデメリット
では、従業員側にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。
仕事とプライベートの区別が付きづらい
プライベートで使用している端末で業務を行うため、公私の区別が付きにくいというデメリットが挙げられます。
例えば、従業員所有のスマートフォンを業務でも利用している場合、休日でも電話が入ってしまう可能性が考えられるでしょう。業務時間外の対応が増えれば、仕事とプライベートの切り替えができずストレスを感じたり、正確な労働時間管理が難しくなったりします。
費用を負担しなければならない
組織内で定めたルールに費用に関する項目がない場合、端末代金や故障時の修理等の費用を従業員が負担しなければなりません。プライベートに加えて仕事でも端末を使うことになるため、使用回数が増え故障リスクが高まります。
パソコンやスマートフォンの精密機器の修理費用は決して安くはありません。BYOD導入時には費用に関するルールをしっかりと検討する必要があるでしょう。
BYODを導入した方がよい企業とは
さまざまなメリット・デメリットがあるBYODですが、どのような企業に向いているのでしょうか。ここではBYODを導入した方がよい企業について説明します。
技術志向が高い企業
IT業界、あるいはテクノロジーを中心として扱う企業は、BYODに向いているといえます。従業員が最新のデバイスを用いたいと考えることが多く、BYODはそのニーズに応えることができるでしょう。
例えば、インテルでは2010年からBYODを推進しており、生産性向上を実現しています。
参照:[事例1]「1人当たり1日57分」の効率化を達成したインテル | 日経クロステック(xTECH)
フレキシブルな働き方を推進している企業
リモートワークやフレックスタイムなど、場所や時間に縛られない働き方をサポートしている企業もBYODとの親和性が高いといえます。
働き方の多様化が認められるようになった近年では、従業員がそれぞれ最適な環境で仕事をすること、ライフスタイルに合った働き方を取り入れることが重要です。
自由度が高いBYODは、このような働き方に大きなメリットをもたらすでしょう。
従業員の自主性を重視する企業
創造性やイノベーションを重要視する文化を持つ企業の場合、従業員自身が選んだデバイスを使用させることで、その能力を最大限に引き出すことができるかもしれません
デンソーでは、「会社は環境を用意する。どのように行うかは本人自身の判断」という考えのもと、従業員自身の判断でテレワークの選択が可能です。また、効率的に働けるかどうかを軸にデバイスの選択も委ねられ、働き方の多様化や業務効率化を実現しています。
参照:iOSデバイスをBYOD導入して“働きがい革新”を推進|MacFan
コスト削減を目指す中小企業
コストを削減したい企業にとってもBYODは有効で、初期投資や運用コストの軽減が期待できるでしょう。
BYODのメリットの項目でもお伝えしましたが、従業員数が多ければ多いほど費用はかさみます。端末の購入代金だけでなく、ソフトウェア更新や故障時の修理、サポート終了による買い替えなども費用として考えなければなりません。
とくに中小企業やスタートアップ企業にとって、BYODは大きな経済的メリットになるでしょう。
グローバルに展開している企業
グローバル展開している企業にもBYODは向いています。多国籍で活動している企業の場合、地域にあわせたデバイスを従業員に選択させることで、最適な通信手段やアプリを利用することが可能です。
ただし、EU圏ではプライバシー保護の法規制が厳しく、国ごとに法令は異なるためセキュリティ面や法律をクリアする必要があります。
BYOD導入時のポイント
BYOD導入では環境を整備することが重要です。ここからはBYOD導入時のポイントを2つ紹介します。
MDM等のシステム導入
1つ目のポイントは、管理システムの導入です。主に「MDM」や「MAM」といったツールが挙げられます。
MDM(Mobile Device Management)は、端末そのものを管理するシステムのこと。複数端末を一元管理でき、遠隔操作によるリモートロックやデータ削除も可能です。Webフィルタリングなどの機能制限もできるため、情報漏洩対策としても有効といえます。
MAM(「Mobile Application Management)は、端末にインストールしたアプリを管理するシステムです。アプリのインストール制限やアプリ内のデータ削除など、アプリのみ遠隔操作が可能になります。
個人用と業務用のアプリを分けて管理できることから、プライベートを確保できる点がメリットといえるでしょう。
利用ルールの策定
2つ目のポイントは、利用ルールの策定です。トラブルを防止するためにもガイドラインを作成し、従業員へ周知を徹底させましょう。例えば、以下のようなルールが挙げられます。
- 利用可能な端末の種類
- 利用を許可する範囲
- 費用負担に関するルール
- 保護すべき情報の範囲
- 紛失・盗難時の対応
- 規程違反時の処罰
また、セキュリティリスクへの意識向上も大切です。従業員に対して定期的に教育を行い、セキュリティポリシーを十分に理解してもらうように努めましょう。
まとめ
個人所有の端末を業務に利用する「BYOD」について解説しました。BYODにはコスト削減やシャドーIT防止といったメリットがある一方で、セキュリティリスクが増大するなどのデメリットが挙げられます。
対策としては管理システムの導入、ガイドラインの作成が必須です。また、従業員へセキュリティリスクに関する教育を実施することも重要でしょう。
日本のBYOD導入率は海外に比べ少ないのが現状です。しかし、テレワークや多様な働き方の拡大により、今後増加する可能性は大いにあるのではないでしょうか。
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