猫から見たK-POP

ガールグループ中心に思ったこと書いてます。

FIFTY FIFTYの再起「SOS」

 

社員数20名程度の中小事務所アトラクトから2022年暮れにデビューした4人組ガールグループ・FIFTYFIFTYが2023年に発表した唯一のシングル「CUPID」は、KPOPの歴史に残る世界的ヒットになった。

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KPOPグループとしてビルボードHOT100への史上最短での進入を記録し最高位は17位、そして27週連続チャートインという数字は歴代KPOPガールグループの中でも最長となり、GLOBAL200ではトップにも立った。

そんなFIFTYFIFTYは当然2023年を通して「CUPID」で多くの番組や授賞式に登場し華々しい舞台を披露することが期待されていた。しかし快進撃を始めた矢先のグループは、ある騒動により一転して消滅危機に見舞われることになった。

今でこそ一連の混乱の発端はプロデューサーと外部企業が組んだメンバーの引き抜き工作だったと知られるようになったけれど、当初は会社とメンバー&PD側双方の言い分が鋭く対立し、事態が法的紛争に至ったことでグループは音楽活動どころではなくなってしまった。

やがて事件の概要が明らかになった後、PD側に付いたメンバー4名中3名が契約解除となり、アトラクトの名誉は回復されたもののFIFTY FIFTYはほぼ一からの再出発を迫られることになる。

 

そのような経緯を辿ったグループだけに、メンバーを補充する形で再始動するとアナウンスされて以降、その動向に注目が集まっていた。世間は確かにアトラクトに対して同情的になったが、KPOPグループとして立ち直れるのかはまた別の話。その意味で9月20日と予告されたカムバックは常にも増して重要だったが、FIFTY FIFTYはミニアルバム「LOVE TUNE」で堂々と復活を果たした。

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FIFTY FIFTYの流麗な音楽は、ビジュアルのインパクトを重視しつつ耳に残るフックを多用し、クセが凄いことを良しとするKPOPの態度とは一線を画する。KPOPを聴かないような人の音楽空間にも寄り添える存在とも言え、その方針は波乱を経ても変わらず一貫している。今回のアルバムの先行公開曲「Starry Night」も今回のタイトル曲「SOS」も、そのアイデンティティを守るものになっている。

「CUPID」のヒットは中小の奇跡と表現されることが多かった。しかし話を聞いてみるとその大成功はアトラクトによって周到に準備された計画の帰結でもあったことが分かる。最初から英語圏の聴衆と市場に的を絞り、ビルボードのヒット曲を片っ端から聞きまくって音楽の方向性を戦略的に定め、レコーディングにおいてはメンバーに英語の発音を徹底させたという。「CUPID」の成績は奇跡的ではあっても単なるまぐれ当たりではなかった。そのクオリティは本作でも堅持されている。

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新しくなったFIFTY FIFTYのメンバーについて見てみると、スウェーデン国籍ということで注目を集めたアテナ、YOUTUBEで音楽活動をしている所をスカウトされたハナ、そしてILLITを生んだ「R U NEXT」に出演していたイェウンとシャネルが新メンバーとして加わった。初期メンバーからただ一人残ったキナは以前ラップ担当だったものの今回からはボーカルにも参加。五つの音色はFIFTYFIFTYの新たな魅力を形成している。

 

個人的には「R U NEXT」出身の2人がメンバーに加わったことは、言わばILLITと親戚関係になったようなもので、今この時期にメンバーが再編成されたことがFIFTY FIFTYにとって良いタイミングだったと思えた。あのとき惜しまれつつ落選したシャネルが、転換点を迎えたFIFTY FIFTYに加わってボーカルの重責を担っている光景は世の巡り合わせを感じさせる。

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IZMの記事で元メンバー3人が会社と袂を分かった中で唯一戻って来たのがキナだったことについて、それが偶然ではなかったことをうかがわせるアトラクトのチョン・ホンジュン代表の言葉が印象深かった。そして最近のインタビューでは彼女のおかげでFIFTY FIFTYを維持できたとの言葉も述べられている。現在も著作権の帰属を巡って争っている「CUPID」については、音源やCDでの提供は難しいが公演で歌うことは可能で、デビュー作の再録音も進められているという。

一連の騒動においてアトラクトにそもそも非が無かったことを思えば、KPOPシーンの健全性を守るためにはその名誉が回復されるだけでは足りず、不当に奪われた将来を取り返すためにグループの復活が必要だった。そう考えると「LOVE TUNE」を伴って戻って来たFIFTY FIFTYは美しいだけではなく、KPOPの秩序を守ったという意義もあったように思える。