三浦日記

音楽ライターの日記のようなもの

三浦的2022年ベスト・アルバム5選――洋楽編

1. The 1975 - Being Funny in a Foreign Language

2年間もベストアルバムを選んでこなかったことを本当に申し訳なく思っている。でもそんなことを言っている暇はないんだ。とにかく今は前に進み続けなくちゃいけない。まず初はThe 1975の『Being Funny in a Foreign Language』。2022年は彼らのライブを観に行った。「SUMMER SONIC 2022」で、彼らはそこでヘッドライナーを務めていたんだ。昼過ぎくらいまではこのアートワークみたいな曇り空だったけど、そこからどんどん雲が増えて、雨が降り出してきた。それでもエキサイティングなライブだったのは変わりないよ。彼らは翌年も日本にきてくれた。「The 1975: At Their Very Best」っていうツアーでね。その時はこのアルバムの曲をたくさん演奏してくれた。この2回のライブのときはまだみんなマスクをしていた時期だったっけ。来日の直前にポッドキャストでマシューが日本に関する余計なことを言って、何となく変な感じになったこともあった。ああ、アルバムの話をすっかり忘れていたよ。本作は11曲目の最後と1曲目がつながっていて、ずっとループして聴ける。フリージャズだとか1980年代のAORっぽいアプローチが、モダナイズされて取り入れられていてすごくバランスがいい。43分の収録時間でここまで充実感のあるアルバムは、最近だとなかなかないんじゃないかな。

 

2. Muse - Will of the People

次に選んだのはMuseの4年ぶりのアルバム『Will of the People』だ。彼らはもう長いこと日本に来ていない。え、2017年からだって?贅沢は言わないから、そろそろどこかのフェスに来てほしいものだね。さて、アルバムなんだけど、彼らのクリエイティビティの高さにはいつも驚かされるよ。毎回コンセプトと音楽性が変わっているんだけど、しっかりと彼らのアイデンティティが保たれているのがホントに素晴らしいところだ。ジャケットも素晴らしい。「Will of the People」のMVで銅像が倒されるシーンがあるんだけど、それがそのままジャケットになっている。で、その銅像はメンバー3人の顔になってるんだぜ。クレイジーだよな。この曲ももちろんいいんだけど、後半の「Kill Or Be Killed」から「We Are Fucking Fucked」の流れが特に最高だ。オーセンティックなMuseサウンドって感じで、聴いていて安心感がある。前作の『Simulation Theory』はエレクトロな部分が強調されていたけれど、本作は少しだけその部分が抑えられてロックな部分が前に出てきている。「Euphoria」はベストトラックだと思うんだけど、彼らは一度もライブで演奏していないみたいなんだ。まったく、人生はそううまくはいかないね。

 

3. SZA - SOS

3枚目はSZAの「SOS」。2022年はこのアルバムもよく聴いたアルバムの一つだ。どの曲もメロディラインがすごくいい。サウンドは基本的には2020年代以降のトラップビートを踏襲したスタイルで構成されているけれど、中にはそこから離れた曲もあったりする。「Gone Girl」は最初に聴いたとき1980年代のR&Bからのエッセンスを強く感じた。それこそDaryl Hall & John Oatesのようにね。リリックをみてみたら彼らの「She's Gone」の〈You better learn how to facе it〉がサンプリングされていて確信したよ。ああ、この直感は間違いじゃなかったんだってね。本作からは2000年代前半のアーティストのエッセンスも感じる。「F2F」はアヴリル・ラヴィーンのようなアプローチだ。エモーショナルギターサウンドでありながらも、ポップにアレンジされている。ラスト1分を聴いたらそのことがわかると思う。その次の「Nobody Gets Me」もアヴリルのバラードソングのようなテイストを強く感じた。この作品に限らず、2000年代のリバイバル的な流れはこのあとも数年は続いていくだろう。ちなみに印象的なアートワークは、1997年に撮影されたダイアナ妃からインスピレーションを受けて製作されたそうだ。

 

4. Avril Lavigne - Love Sux

4枚目はアヴリル・ラヴィーンの『Love Sux』。この作品は多くの人が待ち望んでいた作品だと思う。というのも彼女の絶頂期の2000年代の頃のセルフカバーのような、それくらい原点に舵を切っているんだ。「Bite Me」と「Love Sux」を最初に聴いたときはホントに驚いた。『Let Go』や『The Best Damn Thing』の頃にタイムスリップしたんじゃないかってね。けれども、ノスタルジーじゃないんだ。今のアヴリルが表現できる最もエキサイティングな形のパンクがそこにはあったんだ。1990年代から2000年代にヒットしたスケートパンクは今、20年の時が経ってリバイバルしている。興味深いのは、それがパンクじゃなくてヒップホップを聴いているリスナーにも響いているってこと。Green Day、Blink 182、Sum 41、そしてアヴリル・ラヴィーン――。それからこの作品は今のティーンエイジャーのリスナーに対するアンサーのように聴こえるんだ。「まだまだこういう作品は作れるんだ。そして、いくつになってもあの頃のようなパンクは歌えるんだ」ってね。37歳になった彼女がキャリアに安住することなく、そして、若さに頼ることなく、クレイジーな作品を生み出してくれたことが何よりもうれしいよ。

 

5. The Smile - A Light for Attracting Attention

最後はThe Smileの『A Light for Attracting Attention』。Radioheadのメンバーであるトム・ヨークとジョニー・グリーンウッド、そしてSons of Kemetのトム・スキナーで結成されたThe Smile。Radioheadは2018年以来活動をすっかり辞めてしまったが、これはそのサイドプロジェクトの最高傑作だと思う。近年のソロ作品というよりは、2007年くらいの『In Rainbows』から地続きのようなイメージ。それがすごくいい。分かりやすいというか、非常にシンプルである。日本でいえば、エレファントカシマシの宮本が別メンバーでバンドを組んだら案外良かった、みたいな感じだろうか(実際Ken Yokoyamaあたりとやってほしいものである)。奇しくもエレカシも2018年以降、アルバムを出していない。Radioheadとエレカシ、どちらが先に出すのか見ものだ。おっと、口調が普通に戻ってしまったよ。海外のインタビュー文体を真似するのは、とてもクレイジーな試みだったと思う。時にはタフに感じることもあったけど、何とか5枚のアルバムを紹介できて良かったよ。この調子で2023年以降の作品もどんどんやっていこうと……え、このスタイルは今回限りだって?しょうがないな。それじゃあこの辺りで失礼するとしよう。