データで見る 東日本大震災・東電福島第一原発事故

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福島の今

2024 福島の今
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福島県内推計人口

福島県における出生数と合計特殊出生率

福島県内の空間放射線量の推移

◆福島県環境放射線モニタリング・メッシュ調査結果等に基づく県全域の空間線量率マップ

世界の都市との放射線量比較

出典:環境省ホームページ ( https://www.env.go.jp/chemi/rhm/r1kisoshiryo/r1kiso-02-05-05.html

避難区域

地域創生 着実に前進 復興、新たなステージへ

 東京電力福島第1原発事故の帰還困難区域のうち6町村に設けられた特定復興再生拠点区域(復興拠点)は2023年11月末までにすべて解除された。避難区域が設けられた県内12市町村は着実に復興し、新たな産業の創出や特徴的な教育の展開など、独自の地域づくりを進めている。

復興拠点の解除完了 道路通行や墓参り自由に

 東京電力福島第1原発事故に伴う富岡町の帰還困難区域(小良ケ浜、深谷両地区)のうち、復興拠点に指定された集会所や共同墓地、幹線道路の避難指示が2023年11月30日に解除された。これにより富岡、大熊、双葉、浪江、葛尾、飯舘の6町村に設けられた復興拠点の避難指示解除が完了した。 6町村の復興拠点の面積と解除日は【表】の通り。

復興拠点の面積と解除日

富岡町で避難指示が解除されたのは小良ケ浜、深谷両地区の6カ所の点的拠点と、アクセス道路計7・2キロの線的拠点。居住できないが、道路の通行や墓参りなどが自由になった。富岡町内では2023年4月1日に夜の森地区を中心とした390ヘクタールで避難指示が解除された。
葛尾村野行(のゆき)地区で2022(令和4)年6月12日に避難指示が解かれた。6月30日に大熊町のJR大野駅周辺などの下野上地区、8月30日に双葉町のJR双葉駅周辺を含む町中心部が解除になった。
浪江町の室原、末森、津島3地区は2023年3月31日、飯舘村の長泥行政区が2023年5月1日にそれぞれ避難指示が解除された。
依然として帰還困難区域のある町村は帰還希望者が古里に戻って暮らせるよう特定帰還居住区域を設定し、計画に基づいて除染を進め、避難指示を解除していく方針。

■ 特定居住区域を設定 帰還困難区域抱える市町村

 依然として帰還困難区域を抱える各市町村は、復興拠点から外れた地域の避難指示解除を可能にする特定帰還居住区域の設定を進めている。  特定帰還居住区域は復興拠点外に戻る意向を示した住民の自宅や集会所、墓地の他、復興拠点や近隣市町村につながる道路、営農する場合の田畑など日常生活に必要な範囲となる。設定範囲や公共施設整備などを盛り込んだ復興再生計画の策定が必要になる。  大熊町は帰還意向を示している全198世帯の宅地を網羅した約440ヘクタールを特定帰還居住区域に認定した。双葉町は先行モデルとして除染や家屋解体を進めている下長塚、三字両行政区に7行政区を追加する。  浪江町は全14行政区の計約710ヘクタールで、帰還希望者全員の宅地や農地を盛り込んでいる。富岡町は小良ケ浜、深谷両地区を中心とした約220ヘクタールを設定した。  葛尾村は村内野行の小出谷(こでや)地区の対象世帯が帰還意向を示した。復興再生計画の策定に着手する。南相馬市は同市小高区金谷地区を設定する方針を固めている。

双葉町
JR双葉駅東側に整備される商業施設の建設予定地=双葉

■双葉町 駅周辺の整備活発化 東側に商業施設

 双葉町の人口は1月末現在、5420人。町内居住者数は103人。  2022(令和4)年8月に避難指示が解かれた復興拠点のJR双葉駅周辺でまちづくりが本格化している。駅東側に飲食店3店舗、大手スーパーのイオンが入る商業施設が整備される。2025年度の開所を目指している。  駅西側に新設された町営住宅「駅西住宅」は現在も建設が続く。今春、全86戸が完成する予定だ。

■大熊町 大野駅核に再開発 産業や雇用創出に期待

 大熊町の2月1日現在の人口は9942人。町内では住民登録がない居住者を含め、推計1144人が生活している。  2022(令和4)年6月に避難指示が解除された復興拠点のJR常磐線沿線大野駅周辺で、再開発が進んでいる。産業交流施設、コンビニや飲食店が入る商業施設が新設される。いずれも12月の完成を目指している。拠点内には産業団地「大熊中央産業拠点」が完成した。今後、企業進出が本格化し、新たな産業や雇用の創出が期待される。  今年度から町内に戻った義務教育施設「学び舎(や) ゆめの森」には39人の子どもたちが通い、元気に学びを深めている。

■浪江町

 浪江町の人口は1月末現在、1万5109人。町内には2162人が居住する。  JR浪江駅周辺の再開発が本格化する。商業施設や公営住宅などが整備され、2026(令和8)年度のグランドオープンを見込む。  2023年3月に避難指示が解除された特定復興再生拠点区域(復興拠点)内の室原地区には、防災拠点が完成した。4月に供用を開始する予定。備蓄倉庫などを備え、住民の安全・安心につなげる。

■葛尾村 産業再生へ拠点完成 酪農やエビ養殖施設

 葛尾村の人口は2月1日現在、1274人。村内には492人が居住している。  2023年、肥育素牛生産施設や大規模酪農施設が供用を開始した。基幹産業だった和牛生産や酪農の再生に向けて取り組みが進む。  食用バナメイエビの養殖に取り組む「HANERU(はねる)葛尾」が湯ノ平産業団地に整備していた養殖施設が2月に完成した。2025年4月の販売開始に向け、養殖規模を約10倍に拡大。村の新たな特産品を目指している。

葛尾村
HANERU葛尾が取り組むバナメイエビの養殖。新たな特産品を目指している=葛尾

■富岡町

 富岡町の人口は1月末現在、1万1523人。町内では2335人が生活している。  東日本大震災と東京電力福島第1原発事故前、町内夜の森地区にあった温浴宿泊施設「リフレ富岡」の跡地に物販施設と温浴施設の整備が進んでいる。  原発事故の影響で帰還困難区域となっている小良ケ浜、深谷両地区を中心に特定帰還居住区域が設定され、町内全域の避難指示解除に向けた動きが進む。

■楢葉町

 楢葉町の人口は1月末現在、6469人で、約3分の2に当たる4346人が町内で暮らしている。  新年度から全国高校総体(インターハイ)男子サッカー競技がJヴィレッジを拠点に固定開催される。スポーツを軸に、交流人口の拡大が見込まれる。  東京電力福島第2原発の廃炉に向けた事業協同組合が今春にも発足する。地元企業が中心となり、廃炉事業に関する業務を受注する体制を整える。

■広野町

 広野町の人口は1月末現在、4576人で、4150人が暮らす。2021(令和3)年に町民帰還率が90%を超え、住民の帰還が着実に進む。  東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の教訓を基に防災に強い「防災の駅」を整備する。町内3カ所に防災拠点を設け、備蓄倉庫や貯水槽などを新設する。新年度に基本計画の協議に入り、2028年度までの完成を目指している。

■川内村

 川内村の人口は2月1日現在、2276人。村内の居住人口は1887人となっている。  村役場新庁舎の整備に向けた動きが本格化し、新年度は実施計画の策定に入る。2026(令和8)年の完成を目指している。  県道小野富岡線の五枚沢2工区(川内村下川内―富岡町上手岡)内に整備する五枚沢2号トンネル(仮称)の掘削工事が進む。2025年度末までの完了を目指している。

■川俣町山木屋地区

 川俣町山木屋地区の人口は3月1日現在、633人で、居住人口は324人。  「復興の花」として特産化が進んでいるアンスリウムの出荷本数は年々増えている。年間50万本を目指しており、2023年は約33万本だった。  かわまた体験農園は、農業の魅力発信や交流人口拡大の拠点となっている。復興拠点商業施設・とんやの郷では各イベントが催され、地域活性化を後押ししている。

■南相馬市小高区

 南相馬市小高区の1月末現在の人口は3840人。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生前の約3割となっている。  市は農業の担い手確保や移住定住促進を目指して「みらい農業学校」を4月に開設する。農業法人や大規模農家で働く雇用就農向けの育成機関で、市内外から15人が入学予定だ。小高区の旧鳩原幼稚園を校舎として活用する。校舎は今月下旬にも完成し、4月中旬には入学式を予定している。  農業者が再教育できる環境も整備する。新年度一般会計当初予算案に学校の管理・運営に係る事業費を盛り込んでいる。

■飯舘村

 飯舘村の人口は1月末現在、4674人。居住人口は1533人。  蕨平行政区で建設が進む木質バイオマス発電施設「飯舘みらい発電所」は7月に稼働する見通しとなっている。2025年春に開業予定の商業施設をはじめ、企業誘致の拠点となる産業団地の整備が進んでいる。  2023年5月に避難指示が解除された長泥の復興拠点では、植樹祭が催されるなど住民の交流が活発化している。

■田村市都路町

 田村市都路町の1月末現在の人口は1946人。帰還率は93・1%となっている。  復興事業が進んでおり、JA全農福島グループが市内都路町で計画する大規模牧場は2024(令和6)年度内に部分稼働する見込み。国内最大級の風力発電所となる阿武隈風力発電所の管理事務所は、間もなく完成の予定だ。市の複合商業施設整備事業は2024年度着工、2025年の完成を目指している。

東京電力福島第一原発事故による避難区域の変遷

2011年 2020年 2022年 2023年

避難生活

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故に伴う福島県内外への避難者数は2024年2月1日時点で2万6277人。内訳は県外が2万279人、県内が5993人、避難先不明者が5人。県外避難者は46都道府県におり、施設別に見ると、親族や知人宅などに身を寄せている人が1万1391人と最も多い。公営や仮設、民間賃貸などの住宅への避難者が8791人、病院などが97人だった。
 県がまとめた県内外への避難者数の推移は【グラフ】の通り。2024年2月1日時点の避難者は前年より1122人減少した。最も多かった2012(平成24)年5月の16万4865人の約16%となり、減少が続いている。
 県内の仮設住宅の入居者は郡山市の3戸4人となっている。

関連死、今なお増え続ける

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故に伴う避難の影響で体調を崩すなどして死亡した福島県内の「関連死」は、2023年11月1日現在で2339人となっている。未曽有の大災害発生から間もなく13年となる現在も古里を追われ、避難を続ける被災者を中心に増え続けている。
 県内の市町村ごとの直接死と関連死の現状は【グラフ・表】の通り。直接死は1605人。震災、原発事故による死者全体の半数超を占める関連死は2023年2月1日時点より南相馬、富岡、川内、浪江の4市町村でそれぞれ1人ずつ増えた。
 2024年1月に発生した能登半島地震でも長期避難による被災者の体調悪化などが懸念されており、福島県関係者が防止に向けて震災発生後の研究の知見などを北陸の被災地と共有している。

直接死と関連死の割合

震災関連の自殺 計119人

 厚生労働省の集計によると、震災に関連する福島県内の自殺者数は2023(令和5)年1月末時点で119人。岩手県は56人、宮城県は63人で本県が被災3県の中で最も多い。

中間貯蔵・環境再生

中間貯蔵施設への除染廃棄物輸送計画

健康 放射線管理

甲状腺検査 放射線被ばくとの関連分析

 原発事故の健康影響を調べる「県民健康調査」のうち甲状腺検査は、原発事故当時に18歳以下だった福島県内の全ての子ども約38万人を対象に、2011(平成23)年度に始まった。2014年度から2巡目、2016年度から3巡目、2018年度から4巡目、2020年度から5巡目と2年に1度の検査が行われている。25歳以上になった対象者は5年に1度の検査になる。
 県民健康調査検討委員会の下部組織に当たる甲状腺検査評価部会は2019年6月、2巡目の結果について、「現時点で甲状腺がんと放射性被ばくの関連は認められない」とする中間報告をまとめ、検討委も報告を了承した。
 評価部会は対象者の検査間隔や検査時の年齢などの要素も含めて、放射線被ばくと甲状腺がん発症の関連性について分析を進める。

 現在、甲状腺検査は6巡目の検査を実施している。
 1~5巡目と、25・30歳の節目検査を合わせると、がんの確定は274人、がんの疑いは54人となった。前回公表の2023年6月末と比べると、5巡目で確定が7人増え、疑いが3人減った。25・30歳の節目検査はがんの確定が25歳で17人、30歳で3人、がんの疑いが25歳で6人、30歳で2人だった。
 県が検査対象者らに今年度実施したアンケートで、検査を受診する理由は「異常がないと分かると安心できる」「放射線への不安がない」が上位を占めた。

県民健康調査甲状腺検査の流れ 

県民健康調査甲状腺検査の流れ (2023年6月30日現在)
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放射線の悩み減 妊産婦調査

 県民健康調査検討委員会によると、震災直後の電話相談で高い割合を占めていた「放射線の影響や心配に関する悩み」は年月が過ぎるごとに減少している。近年では「母親の心身の状態に関すること」「子育て関連のこと」の割合が上位となり、産後うつなどのメンタルヘルスに関連した悩みが増えている。
 「うつ傾向あり」とされた人の割合は、原発事故直後の2011年度の27・1%から年々減り、2018年度には18・4%に下がった。
 同委員会はうつ傾向は低下傾向にあるものの、放射線の影響に不安を持つ妊産婦がまだ一定数いることは今後も注視していく必要がある-とする報告書をまとめた。県に対しては、調査結果を踏まえた相談対応や支援を継続して行うことを提案している。

受診率は低下傾向 県民健康調査(詳細調査)の受診率の推移

処理水・廃炉

処理水東電「計画通り」

 東京電力は2023年8月24日、福島第1原発処理水の放出を始めた。半年余りが過ぎ、現在は今年度最後となる4回目の放出を進めている。一方で、放射性物質を含む廃液を作業員が浴びるなど、第1原発構内では作業中のトラブルが相次ぐ。廃炉作業は最難関とされる原子炉格納容器内の溶融核燃料(デブリ)の取り出しはいまだ始まっていない。

希釈後の処理水
3回目の放出で海底トンネルにつながる下流水槽に流れ込む希釈後の処理水=2023年11月2日午前10時30分ごろ(東電提供)

海洋放出開始から半年 2023年度放出量3万1200トン

 福島第1原発処理水の今年度最後となる4回目の放出は、順調にいけば、今月中旬に配管に残った処理水をろ過水で押し流し、約7800トンの放出が完了する。今年度の初回から4回目までの放出量は合わせて約3万1200トンとなる。2023年8月24日の放出開始から半年余りが経過。東電は「計画通りに放出できている」と評価している。  政府は国際原子力機関(IAEA)による包括報告書などを踏まえ、国内外で一定の理解を得たとして新たな風評被害の発生を懸念する漁業者らの反対を押し切る形で放出に踏み切った。東電は多核種除去設備(ALPS)で浄化されない放射性物質トリチウムを含んだ処理水を国の基準の40分の1(1リットル当たり1500ベクレル)未満になるように海水で薄め、海底トンネルを通じて原発の沖合約1キロで放出している。今年度の放出量は【表】の通り。

福島第1原発処理水の海洋放出
放出時期 放出量
初回 2023年8月24日から19日間 7,788トン
2回目 2023年10月5日から19日間 7,810トン
3回目 2023年11月2日から19日間 7,753トン
4回目 2024年2月28日から17日間程度 約7,800トン
※4回目は予定

2024(令和6)年度は計5万4600トンを7回に分けて放出する。  東電は海洋放出に伴う目立った風評被害は起きていないとの認識を示すが、中国などは日本海産物の輸入停止措置を続けている。

高圧噴射前後の堆積物の状況

デブリ取り出し開始断念 10月までの着手目指す

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から間もなく13年となるが、1~3号機の原子炉格納容器内に残るデブリの取り出しには至っていない。  東電は1月下旬、今年度中に予定していた2号機からの取り出し開始を断念し、今年10月までの着手を目指すと発表した。作業を安全に進めるためにロボットアームの精度をより高める必要があると判断した。東電はアームの改良を進めつつ、まずは過去の調査で使用実績があり「確実に(デブリを)取れる」というパイプ型装置を使い、取り出しに挑む。

デブリ取り出しに向けた作業が進む2号機
デブリ取り出しに向けた作業が進む2号機=2月28日

 2号機のデブリ取り出しを巡っては、アームの投入口となる格納容器の貫通部のふたのボルトが想定以上に固着し、東電は開放作業に苦戦した。2023年10月中旬にふたを全開にできたが、ビニール製のケーブルなどが溶けて固まったとみられる堆積物で覆われていることが判明。今年1月上旬から低圧と高圧の水を使って除去作業を進めている。東電は「アームを諦めたわけではない」としている。  1~3号機のデブリの総量は約880トンに上る。2025(令和7)年度以降の着手を見込む本格取り出しに向けては原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)のデブリ取り出し工法評価小委員会が検討を進めている。従来想定してきた空気中で取り出す「気中工法」、建屋全体を構造物で囲って水没させる「冠水工法」、充塡(じゅうてん)材で固めて削り出す「充塡固化工法」の3候補が挙がっている。更田豊志委員長(前原子力規制委員長)は「どれも一長一短」との認識を示している。  1号機では格納容器内の内部調査を実施している。これまでの調査で原子炉圧力容器を支える土台「ペデスタル」がほぼ全周にわたり損傷し、鉄筋がむき出しになっていることが分かっている。

デブリ取り出し工法イメージ

■ 第2原発燃料搬出2027年度開始 2042年度末完了目指す

 東京電力福島第2原発では、1~4号機の使用済み燃料プールからの燃料取り出しが2027(令和9)年度に始まる。東電は1号機から作業を進め、2042年度末までに全4基からの搬出完了を目指す。  1~4号機の燃料プールには使用済みと未使用を合わせて約1万体の燃料が残っている。搬出作業は2027年度開始の1号機に続き、2028年度に4号機で始める。2、3号機の取り出しは2031年度以降になる予定。取り出した使用済み燃料は乾式キャスクに収納し、構内に新たに整備する貯蔵施設で保管する。

■ 追加賠償支払い開始 対象者17万人連絡取れず

 東京電力は、福島第1原発事故の国の賠償基準「中間指針」の見直しに伴い2023年4月、古里が避難区域に設定された人や自主的避難対象区域などに居住していた人たちの精神的損害などに対する追加賠償の支払いを開始した。当初は請求受け付けの体制が十分に整っていないという課題があったが、2月22日までに対象者約148万人の7割に当たる約106万人への支払いが完了した。  専用の相談ダイヤルやウェブでの申し込み受け付けを開始した当初、高齢者を中心に電話での問い合わせが殺到。開始から2カ月の支払率は2%弱にとどまるなど申請は滞った。その後、受付の人員を増やすなど改善策を講じ、2月22日現在で請求書の発送受け付けは9割近い約131万人に達した。  ただ、依然として17万人近い対象者と連絡が取れないなどの状況となっており、東電は情報発信強化などに引き続き努める。

■ 処理水海洋放出関連の損害賠償請求が増加 1月末時点で約2千件

 開始から半年以上がたった処理水の海洋放出に関連する東電への損害賠償の申請は徐々に増えている。1月末時点で約2千件の賠償に関する問い合わせがあり、東電は具体的な被害が確認された事業者など約850件の請求書を発送した。支払額は少なくとも約370億円に上る見通しとなっている。  原発事故による賠償の総額は2023年12月末時点で個人、法人など合わせて約11兆1379億円となった。

■ 廃液飛散事故、汚染水漏えい…揺らぐ信頼 求められる慎重さ

 東京電力福島第1原発で2023年10月以降、作業員が放射性物質を含む廃液を浴びたり、放射性物資を含む水を建屋外に漏らしたりするトラブルが相次いでいる。県民の東電に対する信頼が揺らぐ事態で、作業にはミスを犯さない慎重さが求められている。  2023年10月、作業員が汚染水から大半の放射性物質を取り除くALPSの配管洗浄中、放射性物質を含む廃液を浴びた。直後から作業を休止しているが、東電はホースの固定位置やタンクに差し込む長さなどを見直し、今月中旬にも再開するという。  2023年12月には、作業員が全面マスクを外す際に放射性物質の付いた手が顔に触れて内部被ばくするトラブルが発生した。  今年2月には高温焼却炉建屋外壁にある排気口から放射性物質を含む水約1・5トンが漏えいした。東電は、作業員が汚染水の浄化装置と排気口をつなぐ配管の弁が開いていることを見落とした「人為ミス」と釈明。県は原因究明と再発防止を申し入れた。東電は作業手順書の記載が現場の実態に沿っていなかったことが漏えいの一因として、現場の声を手順書に反映させるための取り組みを進めている。

農林漁業

農業産出額 2年ぶりに増加

 県内の農業産出額はいまだに東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生前の水準に回復していない。2022(令和4)年はコロナ禍からの需要回復、不安定な国際情勢に伴う物価高などを背景に2年ぶりに前年から増加したが、2年連続で2千億円を下回った。

グラフ_県内農業産出額

 農業産出額の推移は【グラフ】の通り。2330億円だった2010(平成22)年は青森県に次ぐ東北2位だったが、震災と原発事故が発生した2011年は前年比479億円(20・6%)の減少。2020年には震災後最多の2116億円まで戻ったが、コロナ禍による米価下落などで2021年に再び2千億円を割った。順位は2011年以降、東北4位となっている。  本県の農業産出額のうち3割をコメが占める。産出額の回復にはコメだけに頼らない生産体制の構築が重要で、県やJAグループ福島は園芸作物の栽培促進に力を入れている。JAグループ福島は「ふくしま園芸ギガ団地構想」を進めており、キュウリやピーマンなど県内各JAの代表作物の団地化が本格化している。

林業産出額 震災前上回る 県産材価格上昇背景に

 県内の林業産出額の推移は【グラフ】の通り。2022年は138億9千万円で、前年に比べ19億4千万円(16%)増加した。都道府県別順位は前年から三つ上がり、9位となった。一時は75億1千万円まで落ち込んだが、徐々に回復し、2010年の129億6千万円を初めて上回った。

グラフ_県内林業産出額

 県は不安定な国際情勢を背景とした輸入木材の不足による県産材の価格上昇などが要因とみている。  産出額は回復した一方、林業振興に向けた人材確保が大きな課題となっている。県は林業人材育成拠点「林業アカデミーふくしま」などを通し、人材確保・定着を進めている。

水揚げ量6530トン、震災以降最多 段階的に拡大目指す

 県内沿岸漁業は現在、本格操業へ向けた移行期間に入っている。各漁協は国の「がんばる漁業復興支援事業」の助成を活用するなどして段階的に水揚げ量を拡大していく方針だ。数年かけて東京電力福島第1原発事故前の操業体制や水揚げ量などに戻すことを目指している。  2010(平成22)年以降の水揚げ量(相馬双葉、いわき市、小名浜機船底曳網の3漁協の合計値)の推移は【グラフ】の通り。2023(令和5)年の県内沿岸漁業の水揚げ量(速報値)は6530トンとなり、震災と原発事故発生以降最多を更新した。

グラフ_県内沿岸漁獲量の水揚げ量

 2023年8月、原発事故に伴う処理水の海洋放出が始まった。風評が懸念されたが、「常磐もの」を中心とした県内漁業を応援する動きが全国に広がった。  県漁連の野崎哲会長は「(処理水による)影響はないと捉えている。全国の皆さんに応援していただき感謝している」とし、「(水揚げ量を)今年は原発事故前の6割ほどに回復させたい」と話している。

県産食品の輸入規制 徐々に減 米英など撤廃 7カ国・地域に縮小

 東京電力福島第1原発事故発生後、放射性物質による汚染の懸念から、県産食品の輸入規制が世界各国・地域で導入された。一時は55カ国・地域まで膨らんだが、米国が2021(令和3)年、英国が2022年に撤廃するなど徐々に減少。2024年3月現在、中国やロシアなど7カ国・地域まで縮小した。  2023年8月には欧州連合(EU)をはじめ、アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタインの5カ国・地域が相次いで県産食品の輸入規制を解いた。県はEU加盟のスペインでテストマーケティングや商談会を展開し、県産加工食品の販路開拓を進めている。  一方、福島第1原発からの処理水放出開始を受け、中国による日本産水産物の全面禁輸措置が続く。県は政府と情報交換に努めながら、県産食品の安全性や品質の高さ、おいしさを丁寧に伝えていく方針だ。

最先端の産業

エフレイ本施設整備本格化へ JR浪江駅周辺と連携視野

エフレイとは

 福島国際研究教育機構(F―REI、エフレイ) 本県をはじめとした東北の復興を実現し、日本の科学技術力・産業競争力の強化に貢献する「創造的復興」の中核拠点として、国が2023(令和5)年4月に設立した法人。

①ロボット②農林水産業③エネルギー④放射線科学・創薬医療、放射線の産業利用⑤原子力災害に関するデータや知見の集積・発信―の5分野で世界最先端の研究に取り組む。

 浪江町に新設されるエフレイの本施設整備が今後、本格化する。復興庁は施設整備の方向性や設計条件を盛り込んだ施設基本計画を決定。現時点で本部施設や研究実験施設などの主要施設の延べ面積は合計約8万3900平方メートルと試算し、大規模な実験設備を配置する固有実験施設などを含めるとさらに増える見通し。浪江町が再開発を進めるJR浪江駅周辺との連携を視野に、敷地東側を開放する。

F―REI

 配置計画は【図】の通り。敷地東側を「連携・交流ゾーン」とし、研究者と地域住民らが交流できるよう誰でも自由に出入りできるようにする。食堂や売店などを備えた建物を置く。周辺の住宅地への圧迫感を抑制するため、建物の一部は可能な限りで低層とする。  「研究施設ゾーン1」とする敷地中央部に研究室や会議室の入る施設を集約する。敷地北側は「研究支援ゾーン」として研究者が短期宿泊できる施設を設ける。  敷地西側と南側は「研究施設ゾーン2」とし、ロボット分野や放射線科学・創薬医療、放射線の産業利用分野などで必要となる特殊な実験施設を整備する。大型機器などを配備するため、洪水対策として敷地をかさ上げする。  復興庁は2024(令和6)年度中にも設計を始める。2030年度までに順次、施設の供用を開始する計画だ。

■ 福島イノベーション・コースト構想 被災地発展の核 「青写真」見直し含め議論へ

 福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想は、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で被災した浜通りに新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトとして進められている。  2019年策定の指針「産業発展の青写真」に基づき、地域に企業立地が進んだ一方、福島ロボットテストフィールド(南相馬市・浪江町)での「空飛ぶクルマ」の試験拠点化、再生可能エネルギー分野のサプライチェーン(供給網)形成などが新たな課題となっている。  2023年11月には構想の進み具合などを国や県、市町村などが点検する法定分科会が4年ぶりに開かれた。内堀雅雄知事は構想の具現化をさらに進めるため、次回会合で「青写真」の見直しも含めて議論したい意向を示し、国側も一致した。青写真の見直し、新たな計画策定などが想定され、今後、詳細を詰める。

■ 東北大、阪大も進出を計画 人材育成後押し

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の被害を受けた双葉郡には今後、複数の大学の研究拠点が進出する。学生や研究者らが集い、復興に関わる人材育成やまちづくりを後押しする。  東北大は浪江町に研究拠点を整備する。数年後の完成を目指す。町内に立地する福島国際研究教育機構(F―REI、エフレイ)や国内外の大学、企業との産学官連携を見据え、福島・国際研究産業都市(イノベーションコースト)構想が進む浜通りの地域課題解決や活性化につなげる。  大学は今後、拠点の整備場所や規模、機能などを町と検討していく。現時点で国内外の学生や研究者らが集い、研究を進める場所となるのを想定している。一定期間滞在し、浪江町を中心に、浜通りの復興や再生に向けた取り組みを考えて実行し、新たな産業創出や帰還促進、生活環境向上などにもつなげたい考えだ。  大阪大は大熊町にキャンパスを設ける。町内下野上にある清水建設の仮事務所跡で、町が同社から譲渡を受け、8月から大学職員が常駐する。当面は環境放射線を学ぶ研修センターや、低線量の放射線が生物などに与える影響を調べる研究拠点とする。町を訪れた学生らが一時的に滞在し、学習を深める場とする。年間約200~300人の利用を見込んでいる。  核物理研究センターなど大学の3部局も研究などで関わる見通し。数年後には町内の別の場所に新設し、学生が通学できるようにする計画。エフレイとの連携も視野に入れ、地域の産業創出や企業誘致、交流人口の拡大に寄与する構想だ。

■ ロボテス 関連78社が新規進出 来訪者10万4200人に

 南相馬市と浪江町の福島ロボットテストフィールド(ロボテス)は2018(平成30)年の一部開所から、ロボットなどの産業集積に向けた中核拠点として活用されている。浜通りには震災以降で現在まで78社のロボット関連企業が新規進出しているという。  社会実装に向けた試験環境が整備され、今年1月までの来訪者数は約10万4200人、活用事例は935件。施設の活用や浜通りへの進出企業はドローン関連が半数以上だが、近年は宇宙関連も増えている。2月1日現在で17団体が研究室に入居中だ。

浅野撚糸 独自繊維技術、双葉から発信

 岐阜県に本社を置く浅野撚糸は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの本県復興に貢献しようと、双葉町の中野地区復興産業拠点に進出した。2023年4月に双葉事業所「フタバスーパーゼロミル」を開所し、糸をねじり合わせる「撚糸(ねんし)」の製造を手がける。糸を使い、町の復興を願って作ったタオル「ダキシメテフタバ」や、「エアーかおる」は県内外で人気を集めている。

浅野撚糸の双葉事業所
2023年4月に双葉町に開所した浅野撚糸の双葉事業所。カフェやイベントスペースを備え、地域の交流の場となっている

 撚糸は「スーパーZERO」と名付けてブランド化し、国内外で特許を取得した。事業所内で製造し、震災と原発事故の被災地に新たな産業を生み出している。  今後は海外展開も見据えている。吸水性に優れる撚糸は海外の有名ブランドからも注目を集め、4月以降は中国やベトナムなどにも出荷する計画だ。浅野雅己社長は「双葉で製造した糸を世界に発信し、復興を広くアピールしていきたい」と決意する。  事業所にはタオルを販売するショップの他、カフェやイベントスペースも備え、地域の関係人口拡大や住民の交流促進などにも寄与している。

南相馬のアルカリス「次世代」コロナワクチン製造 2026年以降の稼働目指す

 南相馬市原町区の医薬品受託製造「ARCALIS」(アルカリス)は、世界に先駆け国の製造販売承認を受けた次世代メッセンジャーRNA(mRNA)の新型コロナウイルスワクチンを受託製造している。  2023年7月に原薬製造工場を完成させた。12月には製剤製造工場建設に着工、2026(令和8)年2月以降の稼働を目指している。次世代mRNAのワクチンを南相馬市で一貫して生産できる体制が整う。  原薬は年間最大5キロ、ワクチン換算で約10億回分の生産が可能で、国内はもとよりアジアなど海外への供給を視野に入れている。