米アマゾンは10月8・9日(現地)、テネシー州ナッシュビルで物流分野の将来を紹介する「Delivering the Future 2024」を開催した。
LNEWSでは、アマゾンジャパンの招待で、現地取材に参加した。
取材・執筆・撮影:永田達也
目次
1. Delivering the Future 2024とは
「Delivering the Future」は、国内外のメディア向けに2022年にボストンで初めて開催され、物流・ロボットを中心とした最新技術を披露するイベントだった。
2023年にはシアトルで開催され、年を重ねていく毎に範囲は拡大し、3回目となる「Delivering the Future 2024」には、世界18か国からテレビ・新聞等のメディアが集結、日本からは、テレビ・テック系メディア等とLNEWSの計9社が参加した。
内容は、最新技術に加え、米国内食料品の配送、ファーマシー、サスティナビリティ領域等のキーマンも登壇し、アマゾン物流センターのナッシュビル「MQY1FC」の現場見学、将来を見据えた様々なイノベーションが2日間に渡り披露された。
<物流センター「MQY1FC」の敷地内に大規模なキャンプ会場を建設>
<イベントのオープニングでは、ワールドワイドアマゾンストアのダグラス・J・ヘリントンCEOが登場(左)>
→目次に戻る
2.新ソリューション「VAPR」、EV配送車に10万台
各セッションの内、非常に興味を惹かれたのが、AIを搭載した新しいソリューション「VAPR(Vision-Assisted Package Retrieval)」だ。
従来の配送方法では、車両を停車し、商品群の入ったトートバッグの中から、配送する荷物の住所を確認、取り出し、その後次の配送場所に備え、整理するという手順だったが、VAPRでは、トートバッグから車内の荷台に配達すべき商品群をランダムに置き、二次元コード等を読み取り、配達すべき商品だけに緑色の「〇」を、それ以外の荷物に赤色の「×」の光を照射する。
「〇」の商品だけをピックし、配達するだけで済むため、従来の作業に2分から5分かかっていたのが、導入後、1分ほどで完了し、大幅な時間短縮、効率化を実現する仕組みだ。
アマゾンの輸送チームは、ドライバーと一緒に現場で何百時間と過ごし、様々な実証実験を行い、ドライバーの肉体的・精神的労力は67%軽減し、1ルートあたり30分以上の時間短縮を確認したという。
複数の納品先への配送では、手作業の場合、狭い配送車の中で細かな配送情報を元に商品をピックアップし整理するのは手間と経験が必要になるが、VAPR導入によってこの問題がほぼほぼ解消される。
このリビアン製EV配送車は今年7月現在、米国全土に既に1万5000台以上、 2030年までに10万台を配備する計画で、VAPRは2025年初頭までに、内1000台に導入する予定だ。
→目次に戻る
3. アマゾン物流センター、ナッシュビル「MQY1FC」のロボット活用
後半は、ナッシュビルのアマゾン物流センター「MQY1FC」の見学。
ここでは、日本導入未定のAIシステムが採用したロボットが、日本で開催された「amazonプライム感謝祭」と同様の「Prime Big Deal Days」の真っただ中で活躍していた。
センターでは1日50万個の商品を出荷しており、ロボットが従業員の働きを助け、商品を効率よく捌いていた。
<出荷される商品が勢いよく運び出され、紙包装で適正サイズに梱包>
<ロボットアーム「Robin」>
出荷の際、複雑な仕分けの大きな助けとなっていたのが、小型ロボットアームの「Robin」。
無造作に包装された商品を掴み、荷物を回転させてラベルをスキャンし、郵便番号がわかると荷物をロボットキャリアに仕分けるが、破れや裂け目、判読できない住所が見つかった場合は、コンベアまたは移動ロボットを介して荷物を従業員が処理できるように移す。単純作業ではあるが、人間が全て行えば大きな手間になる。その細やかな対応を繰り返すことにより、日々の作業効率に大きく貢献している。
<ロボットアーム「Cardinal(カーディナル)」>
黄色い「Robin」に対して、白いロボットアーム「Cardinal(カーディナル)」は、最大23kg弱の重い荷物を持ち上げたり、回転させたりできる。AIとコンピュータービジョンを使って山積みの荷物から出荷すべき商品をピックアップし、コンテナに積み上げていく。
<完全自律の運搬ロボット「Proteus」(プロテウス)>
人と協調して働くロボット「Proteus」(プロテウス)が活躍していた。AGVの一種に見えるが、大きく違うのが完全自律型モバイルロボットだということ。正面の顔の様なセンサー部分が、人や障害物を認識、危険ならば一時停止し、安全が確認されれば再稼働する。
プロテウスは、人間と同じような経路で、搬出口で出発を待機しているトラックまでコンテナを運んでいく。唯一人間と違うのは充電しなければならないことぐらい。
充電は2時間おきにする必要があるが、自動で一番近くの空いているドックでバッテリーチャージする。
アマゾン・ロボティクスのタイ・ブレイディ チーフテクノロジストは、「最新の物流センターならば、従来と比べ25%速い処理を見込んでいる」と説明する。
→目次に戻る
4. 物流センター「MQY1FC」は安全第一
アマゾンの物流センターやロボティクス関係のキーマンは幾つかのキーワードを並べる際、必ず最後に<安全性>が重要だと口を揃える。ブレイディ チーフは、ロボットはあくまで、人と機械の連携を支援するもので、人間の力を信じ、ロボット工学の中心に人間を置いていると話す。
<『MQY1は安全第一』 作業場の最初に入ったところに大きく掲げられている>
ロボットに職を奪われるというネガティブな話があるが、アマゾンはこのロボットの導入により、700を超える新しい職種が生まれ、毎年数万の雇用を創出していると、強調している。
まだまだ細かい作業の正確さ等は人間の手先には敵わないし、ロボットが不調になった時、修理するのは人間。
人間から働くことを奪うのではなく、働くことを助け、新たな仕事を創出することが、ロボットの正しい使い方と理解できた。
現在MQY1では、今回紹介しきれていない【ヘラクレス・ペガサス・ドライブ】など含め、様々な役割をこなす、6000を超えるロボットシステムを所有しており、プロテウスは現在150台、そしてロビンやカーディナル以外に、数十の最新設計ロボットアームが稼働している。
名称:MQY1FC
所在地:ナッシュビル郊外(6060 Golden Bear Gateway, Mt. Juliet, Tennessee)
延床面積: 29万7289m2(8万9929坪)、各階5万9457m2(1万7986坪)
構造:地上5階建て
→目次に戻る
■ナッシュビルとは?
ナッシュビルと聞いて、どの様な街かと直ぐに想像できる人はそう多くはないだろう。実際私も、他社メディアのアメリカ駐在員も、初めて来たという人ばかり。アメリカ本土、南東のやや中央に位置し、日本企業も進出しており、日産やブリヂストンはネーミングライツを取得したスタジアムもあり、両社とも米国全体の事業統括拠点としてのオフィスを構えている。
滞在時の日中の気温は東京とほぼ一緒の25℃前後だが、湿度が非常に低く、乾燥肌の人は要注意(私は非常に快適に感じたが)。滞在期間中、雲は一回も見ておらず、常に青々とした空がより快適な気持ちにさせてくれた。
音楽、特にカントリーミュージックの中心地とされており、すぐ近くの大通りには、ライブハウス、カントリーブーツやカウボーイハット等のショップがひしめいている。日本だと耳障りにならない程の音量で”音”を流している場所(商業施設や、ホテル内等)でも、ここでは大きめの音量で誰かしらの”歌”が流れている。そんな環境だからか、陽気な人が多く、ホテル・飲食店の従業員は基本笑顔。(了)
取材・執筆・撮影 永田達也