日本近代文学
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論文
  • ──鉄幹に対する曙覧の影響──
    堀下 翔
    2023 年 109 巻 p. 1-16
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー

    本稿は与謝野鉄幹『東西南北』(明治二九)に散見される「歌」という語彙に注目して橘曙覧の影響を論じ、鉄幹歌の自我表現の形態を考察するものである。第一節では父・礼厳と曙覧の交流やそれによって生じた鉄幹の曙覧受容を跡づけ、加えて、明治三〇年代の鉄幹が子規を念頭に置きながら評釈を通じて曙覧を評価してゆく状況があったことを指摘した。第二節では曙覧と鉄幹それぞれの歌で多用される「歌」という用語の特徴を分析し、和歌の言語環境において位置づけた。第三節ではその「歌」の歌が明治三〇年代の新派歌人へと広く伝播していったことを述べ、「歌」の歌が暗示する旧派和歌と新派和歌の表現の質的な差異を考察した。

  • ──象徴主義への接近と逆行──
    河内 美帆
    2023 年 109 巻 p. 17-32
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー

    豊島与志雄は第三次『新思潮』創刊号に掲載した「湖水と彼等」で作家としての第一歩を踏み出し、続いて発表した「恩人」「犠牲」で文壇に認められる。大正初期のこの時期には、象徴主義と目指すところを多分に一致させた新自然主義の理念が文壇を席巻しており、第三次『新思潮』もその影響を受けて創刊された。豊島の上記作品への評価も、象徴主義的な観点にもとづいたものであった。しかし、象徴主義に連なるモティーフを取り入れ、『新思潮』内外の動きに即しているかに見える豊島作品は、その流行から明らかに離れる志向も示している。本稿では、豊島の初期作品における象徴主義の扱われ方をたどり、同時代の文学状況に対するそれらの位置づけを探る。

  • ──『支那事変三千句』のモダン都市表象──
    樫本 由貴
    2023 年 109 巻 p. 33-48
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー

    本稿では、日中戦争期に俳句雑誌『俳句研究』に掲載された戦争俳句アンソロジー『支那事変三千句』を研究対象として、その編集のポリティクスと、実作品の相克を明らかにした。

    編集に携わっていた山本健吉より『支那事変三千句』の実質的な編纂を依頼された俳人の島東吉は、俳句による報国を強く意識していた。しかし、銃後のモダン都市を表すモチーフである、年末年始にかけての戦勝祝賀行事、戦時下における労働などの観点から『支那事変三千句』を読解すると、これを俳句による報国の体現とするには難しい。

    本稿は、このような、ときに編集の意図と相反する内容を含み込むアンソロジーの力学を資料・実作品の検討から明らかにした。

  • ──詩「肋木」と「近代修身」連作詩との関連から──
    岩本 晃代
    2023 年 109 巻 p. 49-64
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー

    本稿では、『体操詩集』(一九三九年)の最後の詩「肋木」(初出原題「近代修身」)に着目し、未完となった『近代修身』に係る詩群(「近代修身」連作詩)との関連から、『体操詩集』の新たな評価を試みた。まず「肋木」の特質について、書誌及び体操教育制度史をもとに明らかにし、詩の解釈を「近代修身」連作詩を踏まえて行った。次に詩語〈近代修身〉について、「体操」と「修身」に関する教育制度史を視座に考察した。以上により「肋木」は戦時下における抵抗詩の一篇であること、村野四郎が〈近代修身〉という詩語によって時代へ抵抗しようとした異色のモダニストであったことを論証した。さらに「肋木」を詩の方法意識が移行していく起点にあたる詩と位置づけ、彼の新即物主義の方法の変容が『体操詩集』の中に見られることを提示した。

  • ──大庭さち子の戦時下テクストにおける〈情動〉の機能──
    副田 賢二
    2023 年 109 巻 p. 65-80
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー

    本稿は、〈情動〉の領域が〈前線/銃後〉における「メロドラマ的想像力」により対象化される様相を、一九三〇年代から敗戦直後の大庭さち子のテクストから考察した。戦時下の週刊誌メディア空間に登場した大庭は、「千人針」「医学」「血」の表象を、女性身体の〈感情〉と〈情動〉と共に描出し、〈前線/銃後〉を超越的に接続する。「花開くグライダー」の「波惠」は、自己を断片化された状態で「八百屋お七」の〈情動〉的空間で「平松」の「狂気」と拮抗し、自らの身体を演劇的に〈情動〉化する。敗戦後には〈情動〉のコードとメロドラマのモード変換が、断片化した「戦地からの手紙」をめぐる意味の綴り変えと女性のセクシュアリティの浮上において遂行され、「戦前/戦後」が架橋される。

  • ──佐多稲子「樹影」を中心に──
    篠崎 美生子
    2023 年 109 巻 p. 81-96
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー

    華僑であり入市被爆女性である「樹影」の柳慶子は、被爆地「長崎」を走る複数の分断線の交点に立つ存在である。慶子が戦後日本のパワーゲームの中で、「長崎人」として認められず居場所を失っていくこの物語は、被爆した華僑の代理表象をなし、慶子を追い詰めた日本社会を撃つ力をもつ。一方でこの小説は、慶子のほかにも語り得ずに死なねばならなかった多数の人の存在も示唆している。彼らのひとりひとりの人生を想起したときに、初めて「樹骨」の群れとしての「樹影」は立ち上げられるのだ。

《小特集 エコクリティシズムとポストコロニアリズムの交錯点》
  • ──向井豊昭「御料牧場」を対位法的に読む──
    岡和田 晃
    2023 年 109 巻 p. 99-116
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー

    本稿ではエドワード・サイードの言う対位法的な読解により、北海道文学史を再考する。具体的な作品としては向井豊昭「御料牧場」(一九六五)を中心に扱い、向井山雄や矢沢信明ら作中にて実名で登場する人物との関わりも論じるが、その前段階として北海道文学の嚆矢とされる国木田独歩「空知川の岸辺」ほか戦前の諸作、北海道文学の研究史、さらには「北海道一〇〇年」に象徴される「開拓」イデオロギーを、セトラーコロニアリズム批判の視点から検証していく。そうすることで、「自然との共生」という常套句のもとに不可視化されてきた、アイヌの強制移住に代表される和人の歴史的加害の位置を探り、今なお続く差別と暴力に向き合うための視座を可視化させる。

  • ──石牟礼道子『苦海浄土』、『みなまた海のこえ』の可能性を読む──
    金井 景子
    2023 年 109 巻 p. 117-134
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー

    本稿は、石牟礼道子が書き遺した『苦海浄土』および『みなまた海のこえ』を分析し、描かれた同時代の状況を参照しつつ、石牟礼道子が「水俣病事件」を戦うために、患者や支援者たちと結んだ「小集団」において、どのような語りが生成され、共同性が結ばれたかについて、辿り直す試みである。その際に、なぜ石牟礼道子が運動の核となるべき「市民」という概念から「死民」という造語を作り出さなければならなかったか、また、人間以外の狐を語りの軸に参与させたのか、水俣病患者や家族といった当事者とボランティアとを「風景を創る」という試みのなかでどのように捉えていたかについて、中心的に論究している。

  • ──福島県の詩人若松丈太郎を通じて──
    加島 正浩
    2023 年 109 巻 p. 135-149
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー

    「人新世」という語が、人文学で用いられるようになって久しく、東京電力福島第一原子力発電所の「事故」においても、当概念を用いた分析が行われている。しかし、地球と人間の関係を問う当概念は、分析に扱う事例を一般化し、「人間」内部を抹消するという欠点がある。そこで、福島県に立脚し、原発「事故」以後も詩を書き続けた若松丈太郎という詩人に着眼する。本稿では、若松の詩の特徴が、行政の言葉遣いへの批判にあることに着眼し、行政の言葉遣いを問題視する必要性をまず明らかにする。そのうえで原発「事故」以後に、双葉町にエコロジカルな空間が開きえたにもかかわらず、行政が言葉を簒奪しようとしたことで、その可能性が潰えたことを明らかにする。そしてローカルな福島県の詩人の仕事を分析することが、「人新世」という概念に基づく分析のみでは零れ落ちる問題を補完できることを指摘し、ローカルな詩人を分析することの意義を提起したい。

  • 小谷 一明, 喜納 育江, 村上克尚 , 大野 亮司, 高 榮蘭, 内藤 千珠子
    2023 年 109 巻 p. 150-169
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー
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