等身大の中国市場を理解する市場開拓に向け、十分な知的財産保護対策を

2024年11月27日

中国では、政府が知的財産制度の整備を進めており、専利権侵害紛争の行政処理件数が増加傾向にある。一方で、販売形態が小口化、模倣品販売手法の巧妙化が引き続き進行し、摘発が難化した面もある。模倣品対策としては、早期の商標出願や業界団体との連携が効果的だろう。

知的財産政策・制度の整備が進む

2023年の国際特許出願(PCT出願、注)件数を国籍別にみると、中国が引き続きトップだった〔6万9,610件(前年比0.6%減)〕。また、出願件数上位15位のうち7社が中国企業だった(表1参照)。

表1:PCT出願件数上位15社(2023年)(△はマイナス値)
順位 出願人 国・地域 出願件数 前年比(%)
1 華為技術(ファーウェイ) 中国 6,494 △ 15.5
2 サムスン電子 韓国 3,924 △ 10.6
3 クアルコム 米国 3,410 △ 11.5
4 三菱電機 日本 2,152 △ 7.2
5 京東東方科技集団(BOE) 中国 1,988 5.5
6 LGエレクトロニクス 韓国 1,887 5.2
7 エリクソン スウェーデン 1,863 △ 13.7
8 寧徳時代新能源科技(CATL) 中国 1,799 576.3
9 広東欧珀移動通信(OPPO) 中国 1,766 △ 10.0
10 NTT 日本 1,760 △ 6.6
11 中興通訊(ZTE) 中国 1,738 17.5
12 パナソニックIPマネジメント 日本 1,722 △ 3.0
13 維沃移動通信(VIVO) 中国 1,631 7.7
14 小米科技(シャオミ) 中国 1,603 75.6
15 NEC 日本 1,592 11.5

出所:世界知的所有権機関(WIPO)2024年3月6日付プレスリリース記事

また、文部科学省科学技術・学術政策研究所が発表した「科学技術指標2024」でも、国・地域別の論文数の1位は引き続き中国だった(表2参照)。

表2:国・地域別論文数(2020年~2022年の平均)(△はマイナス値)
順位 国・地域名 論文数 前年比
(%)
1 中国 541,425 16.7
2 米国 301,822 △ 0.2
3 インド 85,061 12.2
4 ドイツ 74,456 1.5
5 日本 72,241 2.1
6 英国 68,041 0.2
7 イタリア 61,124 6.2
8 韓国 59,051 3.5
9 フランス 46,801 0.5
10 スペイン 46,006 3.1
11 カナダ 45,818 1.0
12 ブラジル 45,441 1.0
13 オーストラリア 42,583 1.7
14 イラン 38,558 2.1
15 ロシア 33,639 1.9
16 トルコ 33,168 10.1
17 ポーランド 27,978 4.7
18 台湾 23,811 8.5
19 オランダ 23,144 1.3
20 スイス 16,723 1.6

注:論文の生産への貢献度を見る分数カウント法を用いた集計。
前年比は2019年~2020年の平均値との比較。
出所:文部科学省科学技術・学術政策研究所
「科学技術指標2023」、「科学技術指標2024」

これらの資料から、中国企業などが研究開発力や技術力を向上させている一面が垣間見えてくる。近年、品質の高い模倣品を製造する中国企業が増えてきた。同時に、自社ブランドを擁する中国企業が日系企業に競合しているという声もある。

一方こうした中で、中国企業自体が模倣品に悩まされるケースが目立つようになった。加えて消費者保護も重要だ。このような観点から、中国政府は知的財産政策・制度の整備を進めている。例えば現状、専利権(発明特許権、実用新案権、意匠権)や商標権に侵害があった場合、行政(地方知識産権局など)による救済・解決手段がある。次の写真は電子玩具「たまごっち」の商標権侵害について、行政が摘発した様子だ。


模倣品製造現場(バンダイ提供)

模倣品在庫(バンダイ提供)

模倣品(バンダイ提供)

商標権侵害による行政摘発の様子
(バンダイ提供)

2011年には「専利行政法執行行政弁法」が、2015年にその改正法が成立。施行に伴い、専利権侵害紛争案件の行政処理件数が増加した。従来は、商標権侵害模倣案件の方が多かった。しかし、2017年に逆転。2023年時点では、専利権侵害紛争6万8,000件(前年比18.8%増)に対し、商標権侵害模倣案件が3万5,100件(同11.8%増)だった。

さらに近年の動きとして、(1) 2025年までの目標などを示した「第14次五カ年規画期間での国家知的財産権保護と運用規画」の発表(2021年3月)、(2)改正専利法の施行(同年6月)、(3)「知識産権強国建設綱要(2021~2035年)」の発表(同年9月)、などがある。

しかし、日系企業が中国で事業展開する際には依然として、模倣品、冒認出願などの問題に直面する。また、インターネットの普及や電子商取引の急速な発展に伴い、模倣品のもたらす被害が世界中に拡散している。中国は模倣品の供給元の1つなので、模倣品対策はこれまでにも増して重要になっている。

模倣が巧妙化

またその取引形態も、個人購入が主流になった。それに伴い、取引の小口化が進行。模倣品の水際で差し止めることも、難しくなっている。

また、引き続き模倣が巧妙化している。例えば、(1)模倣品製造を分業化する、(2)摘発時の損害を最小化するため、在庫を最小化しておく、(2)商標権侵害を避けるため、ノンブランドで販売する、(3)ノンブランド品を販売時における商標付与、といった手口が横行。侵害対象も、商標権害から、専利権へ高度化した。ネット販売時には正規品の写真を掲載しながら、受注後に模倣品を納品するケースもある。近年では、ライブコマースやSNS〔微信(WeChat)など〕を利用した取引も目立つ。こうして、摘発はさらに難しくなってきた。

商標出願を忘れずに

中国では、本来の権利者に先んじて商標を冒認登録するケースが後を絶たない。その対象にはもちろん、日系企業を含む諸外国企業の権利を含む。

冒認出願でも登録されている以上、中国では権利として効力を持つ。本来の権利者企業でも商標を使用すると、登録された範囲内で商標権侵害の責任を問われかねない。このような冒認権利に対しては、無効審判請求などの対抗手段がある。しかし、実際に権利を無効化することなどは容易でない。また、費用も時間もかかる。

冒認対策の中で最も重要なのは、こうした冒認商標の被害を見越し、先んじて商標出願しておくこと。これら権利は、登録されて初めて、模倣品に摘発や損害賠償請求などの行使が可能になるからだ。

ここでとくに注意すべきことは、出願を自社名義にしておくことだ。例えば、自社ではなく現地代理店を商標登録出願人にした場合、代理店の変更が困難になる恐れがある。そして周辺製品についても、積極的に商標出願することを検討すべきだ(ブランドの知名度、展開計画、予算などが考慮材料になる)。例えば、衣服の商標を出願するなら、25類(服装など)のほか18類(かばんなど)など関連する他区分でも商標出願する。

模倣品というと、いわゆる「偽ブランド品」を思い起こす向きも多いだろう。しかし中国では、そこに留まらない。模倣の被害に直面するのは、あらゆる分野にまたがる。日用品(化粧品、食品など)からBtoB製品(産業機械、化学品、ベアリングなど)、サービス産業(飲食店など)に至るまで、実に幅広い。

通常の場合、中国にビジネス展開することを決めた時点で、中国での商標出願を同時並行で進めるのがよいだろう。ここで言う「ビジネス展開」には、展示会や商談会に試しに参加してみる程度のことを含む。こうした場では、自社のハウスマークや製品のブランド名が多くの人の目にさらされる。すなわち、冒認されるリスクが高まることになる。となると、遅くともそうしたイベントに出展する前には、出願を済ませておきたい。越境電子商取引(EC)を開始し、中国が仕向け地に含まれる場合も、同様だ。さらに現在はグローバル化が進み、ECやSNSなどを通じて容易に日本の情報を得られるようになった。となると、中国で使用可能性のある商標なら日本出願と同じタイミングで、中国で出願しておくのが望ましい。

また、中国の商標権の効力が及ぶのは中国本土限りということにも、要留意だ。すなわち、台湾はもちろん、香港・マカオにも及ばない。それら地域でも商標権取得が必要な場合、それぞれで出願手続きしなければならない。なお特許庁では、中小企業などを対象に、外国出願にかかる費用の半額を助成している(各都道府県などの「中小企業センター」などが窓口)。こうした制度を活用するのも、有益だろう。

図:中国における著作権登録件数
中国における著作権登録件数は、2014年は約121万件、2015年は約164万件、2016年は約201万件、2017年は約275万件、2018年は約346万件、2019年は約419万件、2020年は約504万件、2021年は約626万件、2022年は約635万件、2023年は約892万件と年々増加傾向にある。

出所:国家版権局「全国著作権登記状況的通報」からジェトロ作成

中国で著作権登録件数が多い理由の1つに、著作権登録証書が権利保有の初歩的な証拠として利用できることがある。そうした証拠は、権利行使や冒認対策などの場面で有用だ。

著作物というと、芸術性の高い創作物をイメージしがちだ。しかし、比較的シンプルなデザイン(キャラクター図形やロゴマークなど)や、工業的デザイン(製品パッケージ、ラベルなど)も、著作権登録の対象になり得る。著作物を多く保有する日系企業は、著作権登録を検討してもよいだろう。例えばコンテンツ、アパレル、ソフトウェア開発などの分野で、中国でよく利用され模倣される可能性のある著作物を登録することは有益性が高そうだ。

業界団体の活用を

企業では、単独で得られる情報が限られている。また、模倣品対策や権利行使は費用が高額になることが多い。しかも模倣品は次から次へと出てくるため、負担が大きい。

こうしてみると、同業他社や業界団体と連携するのは益が大きい。それだけでなく、模倣品業者にプレッシャーを与えることができる。また、中国の政府当局やECプラットフォームなどとの交流や意見交換の機会も得られやすくなる。 この観点から、業界団体を2つ紹介しておく。

国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)

模倣品・海賊版など、海外での知的財産権侵害問題の解決に意欲を持つ企業・団体が業種横断的に集まった組織。(1)産業界の意見を集約する、(2)日本政府と連携を強化する、(3)国内外の政府機関などに対し、一致協力して行動する、(4)知的財産保護を促進する、ことなどが、その目的。2002年4月に設立された。

IIPPFでは、地域・テーマごとにプロジェクトを設置。海外政府機関・税関、プラットフォーマーなどとの意見交換や、勉強会、セミナー、啓発活動などを実施している。


IIPPFのロゴ(出所:IIPPF)

IIPPF中国PJ定例会合の様子
(ジェトロ撮影)

IIPPFのアクションに関するロゴ
(出所:IIPPF)

中国IPG

中国知的財産権問題研究グループ(中国IPG/Intellectual Property Group in China)は、在中国日系企業・団体による組織。知財問題の解決に向けて取り組むことを目的にしている。

主な活動としては、(1)全体会合、(2)専門委員会、(3)ワーキンググループなどがある。(1)は通常、年3回開催。メンバー間の情報交換や各種講演を同時に企画している。また、(2)では特定テーマについて検討。(3)は、所属業界ごとに情報交換するのが狙いだ。知財関連法令などに関して、政府の意見募集に対応することもある。


IPGロゴ(出所:中国IPG)

中国IPG会合の様子(ジェトロ撮影)

注:
1つの出願願書を条約に従って提出することによって、特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)加盟国であるすべての国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度。
執筆者紹介
ジェトロ・青島事務所
赤澤 陽平(あかざわ ようへい)
2008年、ジェトロ入構。生活文化産業企画課、ジェトロ盛岡、ジェトロ・北京事務所、知的財産課などを経て2022年10月から現職。