東京で唯一の“盛岡じゃじゃ麺”専門店 おいしく食べるコツと311、コロナを乗り越えた20年の創業ストーリーを聞いてみた

盛岡三大麺のひとつに数えられる「じゃじゃ麺」ってご存じですか? 今回、東京で唯一の盛岡じゃじゃ麺専門店である「じゃじゃおいけん」さんにうかがい、歴史から特長、おいしい食べ方までを教えてもらいました!

エリア三軒茶屋(東京)

 

先日、メシ通編集部から私に寄せられたのはこんな依頼。

 

編集部:鷺ノ宮さんにぜひ取材に行っていただきたいじゃじゃ麺のお店があるんです。

鷺ノ宮:ジャージャー麺? ああ、あの中華麺に肉味噌がのった……。

編集部:いえ、じゃじゃ麺、です。

鷺ノ宮:だから、ジャージャー……。

編集部:じゃじゃ麺。

 

……じゃじゃ麺!?!?!?!?

 

ちょっと皆さん、知ってました? ジャージャー麺じゃなくて「じゃじゃ麺」なる食べ物がこの世に存在することを。調べたところ、なんでもれっきとした「盛岡三大麺」のひとつだというではないですか。マジかー。

 

【盛岡三大麺】
盛岡わんこそば→知ってる
盛岡冷麺→知ってる
盛岡じゃじゃ麺→知らないーーーーー!!!!!!(知ってる人、ごめん)

 

というわけで、今回は東京で唯一の盛岡じゃじゃ麺専門店(2022年10月時点)に取材に行ってきました!

……盛岡じゃじゃ麺、全国的にはまだ知られていないかもしれないけれど、企画として大丈夫かって? 大丈夫です、その存在を知ったが最後、誰もが一度は食べてみたくなるはずだから!

 

創業19年。盛岡じゃじゃ麺専門店「じゃじゃおいけん」

訪れたのは世田谷区上馬にある「じゃじゃおいけん」。三軒茶屋駅から歩いて5分ほどの場所にあります。

 

▲世田谷観音通り沿いにある店舗

 

「こんにちはー」

 

カウンター席のみの店内に入ると、店主の及川憲司さんが出迎えてくれました。

 

 

お店のメニューは盛岡じゃじゃ麺のみで、小盛り(70g、620円)~4人前(560g、1800円)とサイズだけ選ぶことができます。店主のおすすめは大盛り(210g、820円)。「うちはこれ1本でやってますから」という気合が伝わってくるかのよう。では、早速その盛岡じゃじゃ麺、いただきましょう!

 

 

……ほう。

 

見た目はなんともシンプル。白く平たい麺に肉味噌、しょうが、ネギ、きゅうりがのっています。まずはこれをよーーーーくかき混ぜるのが、正しい盛岡じゃじゃ麺の食べ方。お箸で麺全体に肉味噌をなるべく均一に行き渡らせ、ひと口すすってみると……。

 

 

ツルツルッとした平たい麺に肉味噌がしっかり絡んでいて、噛むごとに口の中にうま味が充満していきます。シャキシャキとしたきゅうりやネギ、ピリッとしたしょうがもよいアクセントです。肉味噌は甜麵醬や豆板醤ではなく、日本のお味噌をベースにしたあっさりな和の味わいで、その意外性が面白い。

 

しかし、これでおわりだと思ったら大間違い。盛岡じゃじゃ麺が真価を発揮するのはここから。卓上にあるにんにく、ラー油、ごま油、酢、ブラックペッパー、カレーパウダーといった調味料を使い、自分好みの味に変えて食べるのです!

 

▲充実の味変調味料たち。これだけでワクワクする

 

▲自家製の一升漬け南蛮醤油も(麹と唐辛子の香りが強いため、かけ過ぎには注意)

 

試しににんにくをひとさじ入れてみると……味が化けたー!! たったひとさじなのに、がらりと味わいが変わりました。これは楽しい。

ごま油やラー油といった王道もよいし、カレーパウダーなんて変化球も面白い。なんなら全部混ぜだってOKだ。正解はいつだって自分の心の中に。この世の真理が、ここにはある。

 

 

チータンタン!? そういうのもあるのか

夢中で食べていると、ふと目に入ったのが卓上に置かれた「正しい盛岡じゃじゃ麺の食し方」。「全部食べ終わりましたら(ひと口だけ残してもOK)、そのお皿に生卵を割り入れて箸でといてお店の人に渡してください」とあります。

 

▲卓上にはチータンタン用の生卵が。常温で置かれているのにも、わけがある……

 

卓上のお皿から生卵をひとつ取って割り入れ、ぐるぐるとかき混ぜ、カウンターにいる店主の及川さんに渡すと……。すぐさま「チータンタンです」の声とともにお皿を返されました。

 

えっ……アツアツの卵スープになっとるやないかーーーーい!!!!

 

 

チータンタンとはなにか呪文のようですが、漢字で書くと「鶏蛋湯」。つまり「卵スープ」のこと。食べ終わって卵をといた器を渡すと肉味噌と麺の茹で汁を入れて卵スープにしてもらえるというのも、盛岡じゃじゃ麺の楽しみ方なのです。

 

そもそも盛岡じゃじゃ麺は、盛岡にある「白龍(パイロン)」の初代ご主人の高階貫勝さんが戦前に満州(現在の中国東北部) で食べた「炸醤麺(ジャージャンミェン)」をもとに帰国後、盛岡の人向けにアレンジして作ったのが始まりだそう。当初、お店でチータンタンは出していなかったといいます。

ところがあるとき、体調の悪かった高階さんが自分用に卵スープを作っていたところ、お客さんが興味を持ち、食べさせてもらうととてもおいしかったそうで。それが評判になり、盛岡じゃじゃ麺とチータンタンをセットで食べるのが定番になったようです。このチータンタン、「じゃじゃおいけん」では80円という破格のお値段で提供されています。

 

肉味噌のコクにふわふわ卵が合わさったスープ、こりゃおいしくないわけがない! ここにまたまた卓上の調味料をかけて、自分好みの味でいただきましょう。

ちなみに、卵が卓上に常温で置かれていたのは、スープにしたときのふわふわ感を保つため。冷蔵庫に保存してしまうと、割り入れた際に急激な温度変化からむらのある固まり方をしてしまうそうです。

 

 

天文学的数字で可能な組み合わせの味変に、シメのチータンタン。一粒で二度おいしいどころか、食べるたびに新鮮な楽しさと感動に出会えるのが盛岡じゃじゃ麺の魅力と言えるのではないでしょうか。

 

盛岡じゃじゃ麺、可能性の塊が過ぎる……!!

 

思わず白目をむきそうになったところで、店主の及川さんに詳しくお話をうかがってみることにしました!

 

ファッションモデル→盛岡じゃじゃ麺屋店主という異色の経歴

岩手県盛岡市で生まれ育ち、幼い頃から盛岡じゃじゃ麺に親しんできたという及川憲司さん。2003年、26歳の若さで盛岡じゃじゃ麺専門店「じゃじゃおいけん」をオープンしました。

 

 

――なぜ地元の盛岡ではなく、東京でじゃじゃ麺のお店を開こうと思ったのでしょうか?

 

及川さん(以下敬称略):僕、このお店を出す前はずっとモデルの仕事をしていたんですよ。

 

――えぇぇーっ、モデルからいったいなにがどうなってじゃじゃ麺屋さんに……!?

 

及川:地元から上京し、26歳まではファッションモデルの仕事をしていました。当時、同世代のモデルは役者に転向する方が多く、僕もミュージカルに出たりもしましたが、先行きに不安を感じていました。

元々料理が好きで、ゆくゆくは自分のお店を持ちたいという気持ちもあったので、それなら芸能界の仕事を辞めて飲食店をやろうと思ったんです。どんなお店がいいかと考えたときに、自分が大好きな盛岡じゃじゃ麺を仕事にできたら素敵だなと思ったのがきっかけですね。

 

 

――なるほど。ただ、当時は今よりも盛岡じゃじゃ麺について知らない人が多かったのでは? 東京という土地ならではの苦労や工夫はありましたか?

 

及川:東京は世界中のグルメが集まる飲食店激戦区。盛岡じゃじゃ麺は「一回食べてもよさはわからない。二回、三回食べてみないと」とよく言われますが、東京では一度食べておいしくなければ二度と来てもらえない。だから、一度目からおいしく感じてもらうことにこだわって作っています。

 

――たしかにひと口目からおいしかったです! 具体的にはどういった点にこだわっていますか?

 

及川:例えば、麺は製麺所に頼んで、オリジナルレシピで作ってもらっています。最初は製麺所の方ですらじゃじゃ麺を知らなくて、地元の盛岡じゃじゃ麺屋で使われている麺をサンプルとして持っていって、希望を伝えながら試行錯誤して開発しました。地元の盛岡じゃじゃ麺とどこが違うかは企業秘密なので話せませんが……。こればかりは「お店に来て一度食べてみて!」としか言えないですね。

 

▲もちろん、肉味噌のレシピも企業秘密

 

――本場の盛岡じゃじゃ麺を踏襲しながらも、かなり独自のアレンジをされているんですね!

 

及川:はい。そうして19年経つんですけど、今は盛岡の方にうちの麺に似せるお店が増えていると聞きます。真似されていると思うと、もう誇らしくて誇らしくて……。

盛岡では平たいお皿を使うんです。なので、スープを入れるとこぼれたりして危ない。それを見ていて「あ、これも変えたいな」と思って、うちではどんぶりを使うようにしたんです。すると深さがあるので麺を混ぜやすいし、スープも安全に受け渡ししやすい。そうしたら、盛岡でもどんぶりを使うところが出てきました(笑)。

 

――へえぇー。そんな逆輸入のような現象も……!

 

及川:塩分を減らしているのもそう。盛岡に昔からあるじゃじゃ麺屋のものは、もう少ししょっぱいんですよ。これも東京で僕がやってから、地元でお店を出した若い人たちが取り入れて塩分を減らすようになった。初めのうちは周りからよく「じゃじゃ麺屋って自由にしていいんだ!」って言われました。盛岡は横のつながりが強いので、暗黙の了解で「自由にやっちゃいけない」みたいなものがあったと思うんです。でも、遠く離れた東京で僕がそれを始めちゃったものですから、盛岡でも心理的な部分で規制緩和されたんじゃないでしょうか。

 

▲棚には岩手の名産品も並ぶ

 

――実際、東京でお店を出されているというのは、盛岡じゃじゃ麺のPRにもなっていると思います。

 

及川:ええ、その通りです。ここで食べたお客さんが興味を持って「盛岡三代麺を制覇しに行きます」と言ってくれたり、「今度盛岡に行くんですが、おすすめのじゃじゃ麺屋さんはありますか?」と聞いてくれたり。そのときはいつも、同級生だった高階くんの実家である「白龍」をおすすめしています(笑)。そんなふうに、盛岡の観光誘致にも貢献していると思います。僕自身が盛岡じゃじゃ麺が大好きで、多くの人に知ってほしい気持ちがありますから。

 

――そこまで大好きな盛岡じゃじゃ麺。及川さんにとって一番の魅力はどこですか?

 

及川:ズバリ、毎日味が違うところ。その日の気分で味変が楽しめる。

 

――おすすめのアレンジは?

 

及川:僕のおすすめは、ラー油、ごま油、にんにく。でも、決まりはないので、地元の人たちはそれぞれのこだわりで自由に楽しんでいますね。

 

 

――現在(2022年10月時点)、盛岡じゃじゃ麺の専門店は東京ではこちらだけだと聞きました。「じゃじゃおいけん」さんが20年近く続いている秘訣はなんだと思いますか?

 

及川:ブレないことじゃないですか。お金もうけの前に、まず盛岡じゃじゃ麺が好き。だから、この20年の間に新型コロナウイルス感染症の流行や震災などもありましたけど、ブレずにやってこられた。それに、僕には他のお店に負けない絶対的な自信がある。いわゆる食通と言われる人たちが本場盛岡のじゃじゃ麺屋を全部食べ歩いたとしても、その中でもきっと上位に入るという気持ちがあります。それがたぶん、東京でずっと続けられている理由にもつながっているんじゃないかと思います。

 

▲及川さん直筆の書。味は十人十色

 

及川さんとお話ししていて感じたのは、あふれんばかりの盛岡じゃじゃ麺への愛。大好きだからこそ、麺はもちろん、肉味噌やラー油などの調味料にいたるまでいっさいの妥協がありません。だから、誰が食べても最初の時点からおいしいのです。

 

さらに、ここに加わる「味変」と「チータンタン」で満足度も格上げ。皆さんもきっとこのうえなく幸せな気分でお店を後にすることでしょう。

 

まずはぜひ、一度お店に行って、食べてみてほしい! そうしたら自然とまたお店に足が向くことになるはず。現に私がすでに再訪したくなっています。どうしよう、わが家から三軒茶屋駅ってけっこー遠いんですけど!

 

おまけ

「じゃじゃおいけん」では、創業当初からお持ち帰りメニューも販売。今回、私も買って帰りました。「全部入り」は麺、肉味噌、きゅうり、ネギ、にんにく、しょうがが入って1人前630円(2人前より注文可能)。麺は自宅で茹でる生麺タイプです。

 

▲家族で食べるように3人前購入しました

 

お店のInstagramのリール動画「お客様のおうちじゃじゃ」を見てみると、皆さん、さまざまなアレンジでおうちじゃじゃ麺を楽しんでいる様子。私もみょうがをちょい足ししてみました!

 

▲自宅で作ってみた盛岡じゃじゃ麺。味変の幅はお店で食べるより広がるかも!?

 

肉味噌は多めに入っているので、残った場合はアレンジして楽しみましょう。及川さんのおすすめは「お餅+肉味噌」。作ってみたら予想以上のおいしさでした。

 

▲オーブンで焼いた餅に肉味噌をそのままつけて食べる。それだけなのにこのおいしさ!

 

                               (おわり)

 

お店情報

じゃじゃおいけん

住所:東京都世田谷区上馬1-33-11
電話番号:03-3418-5831
営業時間:水曜日~日曜日
昼の部 11:30~14:30(ラストオーダー14:15)
夜の部 17:30~21:00(ラストオーダー20:45)

定休日:毎週月曜日、火曜日(祝日の場合営業翌日休業)、年末年始・お盆

www.hotpepper.jp

書いた人:鷺ノ宮やよい

鷺ノ宮やよい

三重県出身。旅行代理店、編集プロダクションを経て2009年よりフリーライターとして活動中。学生時代に池波正太郎の小説やエッセイを読んで、食べ物の魅力を文章で伝えることに惹かれる。これまで雑誌やウェブサイトなどで携わったグルメ関係の記事は100本以上。三度の飯より食べることが好き。激辛ジャンキー。慢性眼精疲労。

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