晩杯屋はなぜ安くてうまいのか?武蔵小山本店に行ってみたらファンに愛される理由が見えてきた

都内を中心にチェーン展開する居酒屋「晩杯屋」。その魅力を探るべく、酒場ライターの塩見なゆが晩杯屋始まりの地である武蔵小山本店に伺いました。

こんにちは、酒場案内人の塩見なゆです。

突然ですが、東京を中心に40店舗を構える居酒屋「晩杯屋」をご存じでしょうか?

お酒×2杯、おつまみ5品ほどオーダーしても2,000円でお釣りが来てしまう圧倒的な安さとクオリティーの高い料理が晩杯屋の特徴です。

こんな価格帯でもうけが出るのか? という値段設定ですが、2009年に武蔵小山に1号店が誕生してから、あっという間に40店舗まで拡大。一体どのような経営方針やこだわりがあるのでしょうか? ※店舗数は2023年4月1日時点

本日は晩杯屋創業の地、品川区にある武蔵小山本店にお邪魔させていただき、酒場ファン視点で晩杯屋の魅力や店舗拡大の秘密を探ってみようと思います!

※かつて晩杯屋1号店があった場所には複合施設ができ、現在は武蔵小山本店として武蔵小山駅近くに移転。

晩杯屋の知られざる誕生秘話

早速、晩杯屋 武蔵小山本店にやってきました。

そして長きに渡り武蔵小山本店で働き続けている鵜澤さんにお話を伺えることに!

晩杯屋の始まりの地には、どんなエピソードがあるのでしょうか? 

塩見なゆ(以下、塩見):鵜澤さん、本日はよろしくお願いします! 晩杯屋のあれこれをざっくばらんに聞かせてください。

鵜澤 美希(以下、鵜澤さん):こちらこそよろしくお願いします。

いきなりですが、実は私、武蔵小山に晩杯屋ができた当初にお客さんとして飲みに行っていたんです。通っているうちに「晩杯屋で働かない?」という話になり、仕込みを担当するパートスタッフとして入社したのが始まりで、いまはエリアマネージャーになりました。まさかこんなことになるなんて……という感じですよね(笑)。

塩見:晩杯屋の全てを知っていると言ってもいいかもしれませんね。移転する前の1号店で働いてみて、どうでしたか?

鵜澤さん:わずか4坪の店舗でしたが、オープン当初は常識を超える安さで話題になっていて、連日満員でした。あまり知られていませんが、晩杯屋立ち上げ前に、バーを営業していたそうです。

塩見:そうなんですか。どんなバーだったのか気になりますね。

鵜澤さん:バーの詳細は私も把握していないのですが、そこで常連客だった土肥と初代社長の金子の2人で晩杯屋を立ち上げたそうです。

塩見:晩杯屋の1号店が生まれた背景には、そんな物語があったんですね。

鵜澤さん:創業者の1人である金子は元自衛官で、退官後に起業するためにさまざまな仕事をしていたそうです。その中に、東京都中央卸売市場で働いた経験がありました。そこで市場で仕入れた食材を低価格で提供する立ち飲み店の着想を得たそうです。

赤羽の某老舗立ち飲み酒場に弟子入りして、酒場の流儀を学んでオープンさせたのが晩杯屋の1号店なんですよ。

塩見:さまざまな経験を活かして出店されたんですね。1号店には狙いやコンセプトみたいなものはありましたか?

鵜澤さん:安さとクオリティーには強いこだわりがありました。市場関係者とのつながりを活かして仕入れた手頃な魚を安く提供する、というスタンスは創業当初から一貫しています。

晩杯屋の失敗と成功

塩見:1号店の成功をきっかけに、晩杯屋は店舗数を増やしていくんですよね。店舗戦略について、当時はどのような考え方をしていたんですか?

鵜澤さん:1号店で成功した晩杯屋は、大井町や大山などに店舗を増やしていきました。

単純に店舗が広くなれば収益も上がると考えていたので、大山には大型店舗を出店しました。しかし、期待したほどの売り上げにはならず、厳しい状況に陥ってしまいました。

塩見:この低価格とクオリティーで大型店舗を回すのは大変そうですもんね。

鵜澤さん:悪い流れだったと思うんですが、それを断ち切ったのは中目黒店(正式名称は中目黒目黒川RS店)でした。従来の雰囲気を一新しておしゃれな内装にして出店をしました。

これが功を奏して、メディアでも取り上げられるようになり、順調に成長していくことになります。

塩見:確かに中目黒に合った晩杯屋ができたら話題になりそうです。

鵜澤さん:中目黒店の成功を事業拡大のチャンスと考えて、次なるステップに進むことになったのですが、ここで2度目のピンチが訪れます。

2015年に大森に開設したセントラルキッチンが、晩杯屋を再び厳しい状況に追い込んだんです。

塩見:なぜセントラルキッチンが状況を悪くしてしまったんですか?

鵜澤さん:この施設は、1階が加工場、2階に物流倉庫と事務所があり、立派な設備が整っていました。ただ、店舗数に対して設備投資が過剰だったと金子は話しています。

収益が発生しないセントラルキッチンのコストを回収するため、店舗数の増加やフランチャイズ展開に注力しましたが、一気に成長する過程でオペレーションに問題が生じるのは当然のことでした。

現在は、不採算店舗の閉鎖やフランチャイズの一部見直しなどを実施、赤字の原因となったセントラルキッチンも廃止しました。

塩見:店舗拡大って難しいですね。そんな状況から晩杯屋はどう変化していったんですか?

鵜澤さん:2017年頃、金子は当時の株式会社アクティブソース(晩杯屋の運営会社)の企業価値を知りたいと思い、M&Aを仲介する会社に見てもらったそうです。

その内容に注目したのが、丸亀製麺などを運営する株式会社トリドールホールディングスの粟田社長でした。その後、トントン拍子でトリドール傘下になることが決まりました。

塩見:この変化は与える影響が大きそうですね。

鵜澤さん:そうですね。ただ、トリドールから来た現社長の池本は熱心な酒場ファンで、プライベートでも飲み歩くような人でした。池本は晩杯屋の社風を変えるのではなく、むしろ晩杯屋のムードになじもうとしてくれました。

1号店のような晩杯屋のスタイルを維持したまま、店舗数を増やすような方針に変化していったように思いますね。

塩見:でも、なぜ新社長が晩杯屋のスタイルを継承できたんですか?

鵜澤さん:晩杯屋はいまでも社長や決裁者が仕入れに同行して、直接買い付けを行っているんですね。店舗が増えたから効率化するのではなくて、みんなで1号店と同じ動き方をするイメージでしょうか。

またチェーン店ですが、全店共通のメニューを提供することにこだわっていないので、その日の市場の状況を店舗ごとに考えて仕入れているわけです。こうすることで、安さとクオリティーを維持しつつ、晩杯屋のスタイルが継承された店舗が拡大しているんじゃないかなと思います。

塩見:効率を優先するのではなく、あえて1号店と同じ動きをする。面白いです。

鵜澤さん:魚などの食材流通はセントラルキッチンを通さず、直接店舗に届けられるようになりました。

これを実現するために、全店舗の社員が調理研修を受けることで、店舗で魚をさばけるようになっています。

塩見:すごい、チェーン店とは思えないですね。

鵜澤さん:市場で仕入れた新鮮な魚を安く提供する。まさに1号店でやっていたことが他の店舗にも受け継がれているんです。

こうすることで、メニューに並ぶ魚は店舗ごとに内容が異なる数量限定の特別メニューになります。店舗の主体性や独自性が生まれつつ、晩杯屋ファンの方はいろんな店舗に異なる楽しみが生まれる。そうやって少しずつ愛される存在になれているのかなと思ったりしますね。

晩杯屋1号店で働いていたスタッフにおすすめメニューを聞いてみた

塩見:本日はありがとうございました。晩杯屋がどうしてここまで店舗を拡大できたのか、よく分かった気がします。

せっかく店舗にお邪魔しているので、鵜澤さんだからこそ知っている裏メニューやおすすめをいただいてもいいですか?

鵜澤さん:もちろんです。ではお話に出ていた刺身なんてどうでしょうか? 豊洲市場から届いた新鮮なカンパチがおすすめです。さばくところから見ていってください。

塩見:いいんですか? ありがとうございます!

鵜澤さん:晩杯屋のカンパチの刺し(250円)です。最近、ワサビを本ワサビに切り替えたんですが、小さな改善が進められています。

※カンパチの刺しは仕入値によって310円になる場合もございます。

塩見:魚をさばくところを見せていただきましたが、この鮮度とクオリティーで250円はすごいですね。全く臭みもなく、もっちりとした食感で本当においしいです。本ワサビもうれしいですね〜! 晩杯屋は本当に呑兵衛のツボを知り尽くしていますよね。

鵜澤さん:ありがとうございます。裏メニューですが、野菜天(150円)を注文した方にはプラス50円で天つゆをお出しできるんですが、常連の方はよく注文されますね。

塩見:天つゆが注文できるんですね。晩杯屋の野菜天は揚げたての状態で出てくるので、頼まれているシーンをよく見ます。卓上の塩と天つゆの両方でいただけるわけですね。

鵜澤さん:はい、天つゆは全店舗で用意しているので、どこでも注文可能ですよ。

鵜澤さん:あと、珍しい組み合わせで言うと、煮込み(玉子入り)(190円)に塩チーズ(190円)を合わせる常連さんがいましたね。煮込みにチーズを入れて、とろけるチーズ煮込みにするという技です。おいしいみたいですよ。

塩見:煮込みとチーズですか!? それは面白い組み合わせですね。

これは確かにおいしいですね! 煮込みにチーズという発想が面白いです。ほどよくとろけて煮込みのうま味をまとったチーズがいいですね。

鵜澤さん:個人的なおすすめはアラ汁(110円)ですね。魚を店内でさばくようになって加わったメニューなんですが、さまざまな魚のアラをふんだんに使っていて、お客様からも好評です。日々魚が替わっていくため、内容はさまざま。意外な高級魚が入っていることもあるので、ぜひ締めに頼んでほしいです。

塩見:これまでのお話を聞くと、このアラ汁は頼んでおきたい一品ですね。

塩見:おすすめとお酒を頼みましたが、2,000円以下でしっかり楽しめました。鵜澤さん本日はありがとうございました!

鵜澤さん:こちらこそありがとうございました!

晩杯屋始まりの地に行ってみて分かったこと

晩杯屋の始まりの地で取材させていただいたことで、晩杯屋のアイデンティティーを感じることができました。

直接市場に出向いて、安くて新鮮な魚を仕入れて提供する。そんな創業当初のこだわりが失われなかったから、店舗拡大が成功したように思います。

晩杯屋のこだわりを知っておくと、手頃な価格で刺身をつまみに飲みたいときに非常に役立ちそうですね。

また、晩杯屋は2022年から関西での出店を進めており、今後も物件が見つかり次第、店舗数を拡大する方針なんだとか。大阪でも豊洲で培った関係性を活かして鮮魚を仕入れていくとのことで、関東と変わらないクオリティーを楽しめそうです。ぜひ関西の方も晩杯屋に行ってみてください。では。

お店情報

晩杯屋 武蔵小山本店(仮店舗)

住所:東京都品川区小山3-24-10
電話番号:03-3785-7635
営業時間:11:00〜23:30
定休日:無休

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書いた人:塩見なゆ

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酒場案内人(飲食・酒類専門ライター)。東京都杉並区・荻窪生まれ。 得意分野は街と酒。 新宿ゴールデン街に通ったお酒好きの両親を持つ。両親が飲んでいた瓶ビールに憧れて成長する。趣味からはじまった酒場めぐりは、次第に仕事になっていく。

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