プロもうなる味。四川料理のスゴい人が味の素社「Cook Do®︎」の開発担当者と話をしてきた【Cook Do®︎対談・前編】

味の素株式会社でCook Do®︎の開発メンバーである塩谷美咲さんと、『メシ通』の連載でおなじみ「四川料理のスゴい人」人長良次さんに、本格中華のおいしさについて語り合ってもらったら、話が盛り上がりすぎて12,000字にもなってしまいました。

エリア日本橋(東京)

本格中華の味を再現するためにこだわっていること

塩谷:味の素株式会社の塩谷(えんや)と申します。Cook Do®︎のマーケティングの全般を担当しています。商品の開発から広告、宣伝に至るまで、比較的幅広く関わっています。とはいえ担当してまだ3年目なので、まさに四川料理などを勉強している最中です。本日は非常に楽しみにしておりました。

 

人長:僕は四川料理をやってるんですけど、一番得意な料理が麻婆豆腐。おうちでおいしい麻婆豆腐をつくるための記事を『メシ通』でやったら、たまたまバズッて、それからいろいろ続けてやらせてもらっています。
僕は「リバヨンアタック」という珍しい名前の四川料理店の料理長をやっています。お昼は、定食屋さんみたいな感じで、夜は中華料理のレストランという形でやってます。

 

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──Cook Do®︎といえば、ご存じ、ご家庭で本格的なシェフの味が楽しめる中華調味料シリーズ。1978年に最初の商品が発売されたので、2024年でもう46歳になるんですね。

 

塩谷:当時の開発者が、本格的な中華料理をぜひご家庭で味わっていただきたいということで開発を始めて。今はどんどん共働き家庭も増えてきて、みなさん忙しくなっています。Cook Do®︎はパウチだけで本格中華が完成するところを目指しているので、そんな忙しい方に使っていただきたいなって思ってます。

 

──そもそもCook Do®︎って、「エビチリ」じゃなくて「干焼蝦仁(カンシャオシャーレン)」と呼んだり、麻婆豆腐も四川式と広東式に分けたりするなどして商品展開しています。「本格中華である」という狙いがとても明確ですよね。

 

塩谷:やっぱり本格中華のシェフの味を再現することは簡単ではありません。いろいろな料理店に伺ったり、プロの方に教えていただいたりするんですが、「このメニュー、おいしいな」って思っても、それを工場で大量につくるパッケージ商品として再現するのは非常に難しくて。
もちろん先輩方が過去からやってきた積み重ねもあります。たとえばプロの料理人が食材に入れる包丁の角度。生姜やニンニクのような香味野菜に入れる包丁の角度を研究して、工場でその刃の角度まで再現。香りが出やすいように工夫しています。

 

▲プロの技や味を解析し、配合や製法を工夫(写真提供:味の素株式会社)

 

人長:食材に入れる包丁の角度にまでこだわっているんですね。でも、そういう企業努力が、46年売れ続けてきた結果につながっていると思うんですよ。一朝一夕でできるもんじゃないし。
僕ら料理人も、就職して1年や2年でこういう料理がつくれるかっていったら、やっぱりそうでもないし。僕は中華料理の料理人を22年やってますけど、まだまだ覚えていかなきゃいけないこととか、勉強したいことがいっぱいある。その積み重ねなんです。

 

塩谷:中華鍋でシェフの方が食材を炒めているときって、すごく高温で食材に熱を通していますよね。でもその温度も、中華鍋の中の場所によって少し違いがある。それをサーモグラフィーで分析して、火入れの温度やタイミングを確認し、シェフが鍋を振る回数を数えたりして、プロのシェフが炒めた感じを工場の釜で再現するにはどうしたらいいかを研究しています。

 

▲中華鍋で食材を炒める際の温度をサーモグラフィーで解析(写真提供:味の素株式会社)

 

塩谷:たとえば〈回鍋肉用〉の場合、「うま味が強い熟成豆板醤」と「濃厚なコクの豆味噌」は、200度以上の高温で炒められる炒め機を使用して香ばしさをアップ。ニンニクと生姜はより香りが引き立つように低温でじっくりと炒めてから合わせています。
さらに、トウチは低温で炒め、より深みのある味わいに仕上げています。そんな作業を、地道に、地道に、積み重ねながらやっています。

 

人長:すごい、そこまでやっているのか……。

 

塩谷:Cook Do®︎の〈回鍋肉用〉だと、キャベツは2回に分けて炒めていただくようにパッケージ裏面の「作り方」でご案内しています。もし仮に1回で炒めたとすると、やっぱりあの、お店の中華鍋とは違って家庭用のフライパンなので、キャベツに火が通りにくいんですよね。
キャベツ全部にちゃんと火を通そうと思って1回で炒めている間に、どんどんシナシナになっちゃう。回鍋肉ならではのシャキシャキ感がなくなっちゃうので、私たちは2回に分けて炒めることで「シャキッと感」を出そうとしています。

 

人長:そもそもパッケージの裏の、あの小さな面積の中でレシピを伝えなきゃいけない。それってなかなか難しいですよね。僕の麻婆豆腐のレシピって44工程に分かれるぐらい細かくやってるんですけど、Cook Do®︎の商品はやっぱり家庭料理でしょうから、そこまで細かく書けないでしょうし。

 

 

塩谷:Cook Do®︎は、完成までの工程をだいたい3つ前後でまとめないといけないんです。だからどこを書くか、どこなら省けるのかはけっこう悩みながらやってます。

 

──そこらへんを補足するのがパッケージにある二次元コードの1分動画なんですね。

 

塩谷:そうですね。パッケージの手順だけではわかりづらい場合のために、1分間でわかる動画を準備しています。

 

プロの料理人はどうやってメニュー開発をしている?

 

塩谷:今日はせっかくプロの方との対談なので、特にメニュー開発に関して伺いたいと思っていて。
今、Cook Do®︎って中華合わせ調味料の商品だけで29商品あるのですが(※1)、新しいメニューを開発するときに、どんなメニューがお客様に喜んでいただけるかなってアイデアを考えるところでけっこう苦労しています。人長さんはどうやって日々メニュー開発をされていますか。(※1:取材当時)

 

人長:僕は四川料理がベースですが、中国にメニュー開発のために食べ歩きに行ったりするんです。そこで、現地の言葉で書かれたレシピ本を買って、「向こうではこういう食材も使っているんだ」とか考えながら、メニュー開発をしていますね。
お店のアラカルトメニューでは季節感のあるものを入れたり、ちょっと攻めたメニューを入れてみたりとかっていう形で、お客様に飽きられないように、また来てもらえるようにと新しい商品を試しています。

 

塩谷:お客様にあまりなじみのないメニューも、いろいろと試されているんですね。

 

人長:ただ、グランドメニューである麻婆豆腐だとか、酢豚や青椒肉絲みたいな、Cook Do®︎さんも出してるような定番のメニューは基本に忠実に。「これなら間違いないよね、定番だよね」って思ってもらえるような味付けにはしてますね。

 

塩谷:なるほど、なるほど。たとえば麻婆豆腐のような定番メニューでも、時代によって味を進化させることってありますか。

 

 

人長:あります、あります。たとえば僕が麻婆豆腐で使っている豆板醤。3種類をブレンドしてつくってるんですけど、その配合を微妙に変えているんです。「ピーシェン豆板醤」って、ありますよね?

 

塩谷:わかります。ありますね。

 

人長:ピーシェン豆板醤も日本の味噌と一緒で、いろいろな種類や味があるので、それを一つ変えるだけでもずいぶん雰囲気や味わいが変わってくるんです。お店で出す前に自分たちでつくって食べてみて「これは良くなったよね」っていうものは、どんどんレシピを変えていますね。

 

塩谷:勉強になります。Cook Do®︎も、たとえば回鍋肉って発売から46年、ちょっとずつ味を変えるリニューアルを何度かしていて。たとえば、より一層「家族みんな」で楽しめる中華を目指して、よりご飯に合うような味付け感にしてみたり。そういうマイナーチェンジをちょっとずつ繰り返しているんです。

 

「北極星の味」を探して

 

人長:日本人の味覚って、時代によっても変わってきますよね。

 

塩谷:それは同感です。やっぱりそうですよね。

 

人長:僕が料理人を始めた20年前と比べて、今はみんな健康志向になって、薄味がいいとか、油は少なめがいいみたいな傾向があると思うんですよ。でも、四川料理ってそもそも「油に香りを移す料理」なんですね。
よく「中華料理って油っこいよね」と思われがちなんですけど、実は重さを感じさせないオイルだったり、ラー油だったり、香りづけのため花椒のオイルだったりを組み合わせて使っていて。いかにお客様に「油っこい」って思わせないかっていうのもテクニックの一つだと思うし。

 

塩谷:なるほど。

 

人長:そもそも油がないと、食材の風味や香りがなかなか表現しづらい。やはり中華料理では、油をゼロにはできないと思うんです。ただ、時代によってはちょっと油を変えてみるとか、花椒の香りやラー油の風味を感じてもらえるようにバランスを変えていけば、その時代時代のニーズに合った味付けになってくると思います。

 

塩谷:なるほど。Cook Do®︎でも、味種によってさまざまですが、数年に1回くらい味を見直すタイミングがあって。一般の生活者の方に食べていただいて、統計学的にまとめて、みんなが一番おいしいと思う「北極星の味」がどこにあるのかを分析しながら、それを言語化して、その味に近づける……みたいなことをやっています。

 

──みんなが一番おいしいと思う「北極星の味」! まさに大テーマですね。

 

塩谷:はい。そうなんですよ。

 

ところでCook Do®︎の売り上げトップ商品は?

 

──いろいろな味が親しまれているCook Do®︎ですが、そもそも一番売れている商品はどれなのでしょうか。

 

塩谷:2011年ぐらいまでは、〈青椒肉絲用〉が一番売れていたんですよ。やっぱり中華料理といえば青椒肉絲っていうことで。でも今は、〈青椒肉絲用〉が第2位なんです。実はCook Do®︎中華合わせ調味料の29商品の中で、1位の商品が売り上げの約25%を占めているんです。それが……〈回鍋肉用〉なんですよ。

 

人長:へえ! なるほど、回鍋肉が1位ですか。

 

塩谷:回鍋肉って、豚バラやキャベツなどの身近な材料があればできちゃうんですね。お肉と葉野菜みたいな、冷蔵庫にある食材だけで手軽に調理できちゃうみたいなところがあって。共働き家庭が増えてきた時代背景と、マッチしたんだと思います。

 

人長:回鍋肉をご飯の上でワンバン(ワンバウンド)させるCM、僕もよく覚えてます! あのCMはすごくインパクトがありましたよね。今でも覚えてるぐらいですからね。

 

塩谷:やっぱり簡単に調理できるっていうのが大きいのかなとは思いますね。家にある材料でパパッとつくれて、子どもたちがバクバクおいしく食べてくれる料理。

 

人長:ご飯を何杯もモリモリおかわりできるのがいいんでしょうね。

 

塩谷:Cook Do®︎の中でも、〈回鍋肉用〉は比較的辛くない味付けにしているので、お子様がいらっしゃる方にも多くご愛用いただいています。またCook Do®︎の〈青椒肉絲用〉も、うま味の力でピーマンの苦みをやわらげることができて、「これだったらピーマンが苦手なうちの子どもでも食べてくれました」というお声をいただきます。

 

Cook Do®︎をアレンジして使ってもいいのか問題

▲研究所でのメニュー開発中の一コマ(写真提供:味の素株式会社)

 

──味の素社の社員の方だけがこっそりやっているCook Do®︎のアレンジレシピが実はあるんじゃないかと勝手に思っているのですが、いかがですか。

 

塩谷:アレンジレシピも良いですが、私たちはあのパッケージの裏面の「作り方」を徹底的に研究していて、まずはあの手順どおりに調理していただくのがおすすめです。

 

──なるほど。

 

 

塩谷:でも、アレンジしてもおいしいです。たとえば〈青椒肉絲用〉だと、牛肉の値段が今日はちょっと高いなと感じたら豚肉を使っていただいてもかまいませんし、他にも「細切りタケノコを準備してください」とは書いていますが、タケノコのかわりにエリンギを使っても、タレがおいしいので、ぶっちゃけおいしいです(笑)。
個人的には〈回鍋肉用〉のタレで焼きそばをつくるのが好きですね。〈回鍋肉用〉の甘味噌が、中華そばに合うんですよ。

 

──人長さん、実際にCook Do®︎を使ってみて良かったアレンジアイデアはありますか。

 

人長:僕もまずは1回、パッケージ裏面の「作り方」どおりに調理してみて、2回目はいろいろとアレンジしてつくってみたんです。たとえば〈干焼蝦仁用〉(カンシャオシャーレン。※エビチリのこと)だったら、それこそもうスーパーのお惣菜コーナーにある唐揚げと合わせて「鶏チリ」にするとか。

 

塩谷:おいしいですよね!

 

人長:あと〈青椒肉絲用〉のタレには、トウチ(豆鼓)っていう中国の調味料を入れて、スーパーの海鮮コーナーにあるボイルホタテと一緒に炒めて食べたら、めちゃくちゃ良かったです。

 

塩谷:〈青椒肉絲用〉のタレにトウチとボイルホタテ……すごく相性が良さそうです!

 

 

人長:要は〈青椒肉絲用〉のタレのベースって、オイスターソースじゃないですか。つまり牡蠣のソースなんで、海鮮系の食材と合うんですよね。さらに、トウチを入れることでうま味が増すはずだと思ってやってみたら、すごくおいしかったです。

 

塩谷:トウチを入れるとは、プロならではの発想ですね。

 

人長:あとは〈麻婆茄子用〉。これも茄子じゃなくて、かぶや下ゆでした里いもなど、別の野菜を使って炒めてもいい。
それから〈酢豚用〉を、お惣菜コーナーの唐揚げと絡めて酢鶏にしてみたりとか。「今夜これをつくるから、この材料を買ってなきゃ」じゃなくて、たまたま冷蔵庫にあった食材とCook Do®︎を上手に合わせて調理する。それこそ家庭の味だなって思うんですよね。

 

──「ホタテのオイスターソース炒め」っていうのは、中華料理にあるんですか。

 

人長:あります。トウチの香りがすごくホタテと合うんですよね。それでまあ、わざわざオイスターソースやら片栗粉やらを用意したりするよりも、Cook Do®︎の〈青椒肉絲用〉のタレを入れればいいじゃんっていう。

 

塩谷:なるほど!

 

──Cook Do®︎なら味ができあがってますしね。

 

塩谷:ありがとうございます。

 

かなり攻めてるCook Do®︎の新作<極(プレミアム)麻辣麻婆豆腐用>の感想

 

──さて、今日はせっかくなので人長さんにCook Do®︎の新商品<極 麻辣麻婆豆腐用>を使ったアレンジ料理をつくってもらいたいと思います。事前に人長さんに「<極 麻辣麻婆豆腐用>でいろいろと調理していただきましたが、いかがでしたか。

 

人長:まずこの<極 麻辣麻婆豆腐用>を最初に食べたときに思ったのは、もう本当に一線を越えてるというか、かなり攻めてる商品だなって。
味見するまでは、なにかやってやろう、ニンニクやら生姜やら、意外な野菜だとかを足したりして、ヒトオサっぽさを出してやろうと狙っていたのですが、実際に食べてみたらびっくり。全然いらないじゃん、これ1個で完璧に構成されているなと思って……ちょっと悔しかったですね(笑)。

 

塩谷:本当ですか、ありがとうございます。

 

人長:僕も以前はよく四川省に行って、いろいろと食べ歩いていたんです。それこそ向こうにもCook Do®︎のような即席の調味料が売っているので、そういうものをいっぱい買ってきていろいろと試したんですけど、どちらかというとそれに近い。まさに現地の味に近い商品だなと思って。
なかなか日本でここまで攻めている商品はないし、これは本当に四川料理が好きなマニアの人には刺さるだろうなって、正直思いましたね。

 

塩谷:非常にうれしいコメントばかり。プロの方におっしゃっていただいて感無量ですね。

 

既存品の<四川式麻婆豆腐用>と比べて、花椒の量は約10倍以上!

 

──<極 麻辣麻婆豆腐用>、私も食べてみたら、もう毛穴がかっ開いてしまって大変だったんですけども(笑)。

 

塩谷:大丈夫でしたか? 辛いのが苦手だったらけっこう大変かもしれないです。

 

──いえ、辛いのは大好きなんですけど、汗かきなもので……(笑)。ところで、特に花椒の質にびっくりしたんです。あのクオリティーの花椒を使用した商品を全国のスーパーに出荷するとなると、調達するだけでも大変だったのではないですか。

 

塩谷:やっぱり麻婆豆腐の中でも今回は「麻辣(マーラー)」麻婆豆腐なので、「麻」の方もしっかり効かせたいなって思って、花椒にはかなりこだわりました。
どうこだわったかと申しますと、この商品のために新たな原料を仕入れています。挽きたての花椒を使用した花椒オイルを見つけて、それを今回は入れています。

 

人長:とにかく香りがいいですし、すごく品質のいい花椒を使われているのがわかります。

 

塩谷:花椒については、厚みのある味わいの“赤花椒”とさわやかな香りの“青花椒”の2種類を使用しています。既存品のCook Do®︎にも<四川式麻婆豆腐用>があるのですが、花椒はその10倍以上入っています。

 

人長:ジュ、ジューバイ!?

 

塩谷:辛さについても、これまでのCook Do®︎の<四川式麻婆豆腐用>は5段階の辛さで4番。今までのCook Do®︎の中では比較的辛めの商品だったんですけど、それの10倍以上の花椒を入れています。

 

人長:<極 麻辣麻婆豆腐用>のパッケージを見たときに、辛さの表示が7ってなっていて、「え、7?」って、びっくりしました。普通、だいたい辛さの度合いって5段階じゃないですか。5段階を突き抜けて7って、オイオイと(笑)。

 

塩谷:おっしゃるとおりで。今までCook Do®︎って、5段階までしか辛さの指標がなかったんです。でも、「いやいや、この辛さは5じゃ表し切れないだろう」って思って。

 

──だはははは!(一同爆笑)

 

塩谷:では6かというと、6よりも辛いと思うので。新設した「7番の辛さ」になっています。

 

本場の麻辣の味に、日本人の舌が慣れてきた

 

──あとはまあ、日本人がこういう味の麻婆豆腐にだいぶ慣れてきたってことはありますよね。

 

人長:僕も21年前、22年前か。東京の白金にある都ホテル(現・シェラトン都ホテル東京)に就職したんですけど、高校生のときに初めて研修に行って、まかないで麻婆豆腐と酸辣湯麺(スーラータンメン)をつくってもらったんですよ。そのときは辛くて辛くて、食べられなかったです。

 

塩谷:へえー。そうだったんですね!

 

人長:なんだこの辛さは! と思って、びっくりしちゃって。高校生だったし、完食できなかったんですけど、辛さって、味覚じゃなくて痛覚じゃないですか。そのうちにその味に慣れてきちゃうと、中毒性もあるんですよね。

 

 

塩谷:あの辛さはクセになりますよね。

 

人長:20年前の日本では、四川料理の麻辣っていうのが、まだそこまで広がってなかったんです。でもだんだん四川料理が有名になって、広がっていって。中国でも、四川省にしかなかった麻辣の味が、今は全土で食べられるんですよね。1年ぐらい前から、韓国でも麻辣の味がブームになっているみたいです。

 

塩谷:麻辣はブームですね!

 

人長:麻辣って、どんどん発展していってるんです。日本でもこの20年でぐっと認知度が上がってきたと思うし。だからこそ、今の時代に合っている味付けなんじゃないですか。20年前だと、この商品はなかなか難しかったかもしれないですよね。

 

塩谷:みんながこの味に慣れてきたってのはありそうですね。私も辛いものってもともとは得意ではなくて。初めてこういう麻婆豆腐をいただいたとき、すごく辛いなと思ったんですけど、商品開発していく中で何十回、何百回と食べてきて、今はもう大好きぐらいに変わりましたね。

 

「よし、やっちゃえ」という社内のムード

 

──Cook Do®︎といえばファミリー層向きというイメージがある中で、<極 麻辣麻婆豆腐用>はかなり振りきった味ですよね。

 

塩谷:「万人に愛されなきゃいけない」みたいな意識が今までのCook Do®︎にはあったんですけど、万人に愛されることも、捨てました(笑)。

 

人長:う〜ん、潔い!

 

塩谷:とにかく麻婆豆腐好きの方に、「これおいしいね、うまいね」って言って食べてもらえる。ただそれだけをひたすらに目指したものです。本場の麻婆豆腐の味をとことん研究したものなので、本格度に関しては相当に頑張ったところではあります。

 

──その方向って、もしかしたらお客様を選んでいく判断のようにも思えますが、なぜそこに踏み込めたのでしょうか。社内にそういう雰囲気があったとか?

 

塩谷:やっぱりCook Do®︎って、おかげさまでファミリーの方には比較的たくさん買っていただいているんですけれど、若い方や単身の方に届け切れてないっていう課題があったんですよ。そういう、Cook Do®︎に接してこなかった新しいお客様にもぜひ使ってほしいという目標がありました。

 

人長:辛いものが好きな層には、相当刺さるんじゃないですか。

 

塩谷:やっぱり麻婆豆腐って、中華合わせ調味料の中では一番市場も大きいビッグメニューなんですね。
その麻婆豆腐っていうビッグメニューで、今までにない尖(とが)ったものを開発したら、新たにCook Do®︎を使ってもらえるんじゃないかってところから始まったんです。最近、会社の雰囲気も「よし、やっちゃえ」みたいな……そういうチャレンジ精神があって。

 

──「やっちゃえ」ですか(笑)。

 

塩谷:なんでしょうね。最近は「どんどんやってみれば?」という空気で。けっこう踏み込めたとは思ってます。

 

──ははあ。そういう社内の雰囲気って、ダイレクトに出てくるものなんですね。これからも攻めた商品が出てくると期待しています。

 

塩谷:今後も攻めた商品を世に出すべく、鋭意頑張ります!

 

麻婆豆腐は「食べながら風味がどんどん変わっていくからおいしい」

 

──Cook Do®︎の公式ページにある開発秘話 ã‚’読むと、「高級四川料理がおいしいのは、食べながら風味がどんどん変わっていくからだ」という仮説を立てたうえでこれを開発されたっていうことですけれども。そこに行き着くまでも、たぶんいろいろなご苦労とか発見があったと思うんですよ。 

 

塩谷:私たちも麻婆豆腐好きに喜んでもらえる麻婆豆腐の「コア」を探しに行く必要があったので、いろいろな麻婆豆腐を食べに行きました。
そこで思ったのは、高級四川料理店の麻婆豆腐って「味に波がある」んですよね。口に入れた瞬間と、喉を通るときと、そして飲み込んだ後と。

 

人長:すばらしい見立てです!

 

塩谷:その「味の波」がおいしさのポイントだって仮説を立てたんですけど、それをパウチの中で表現するのが難しかったんですよね。たとえば、お砂糖を多めに入れると味がまとまるというか、味が「丸まる」ようなことはあるんです。「味の波」がちょっと緩和されるっていうんですかね。
ただ、そうしたら逆に麻辣感が弱まってしまうっていうところがあって。最終的にはあえて味をまとめすぎないっていう方向にしました。たとえば、この商品には砂糖を入れていないんです。

 

──ははあ、砂糖を入れて味をまとめないという判断をされた。

 

塩谷:もう、あえてまとめない、と。そのうえで味のバランスを調整するのに苦労しました。

 

人長:僕がつくる麻婆豆腐も、砂糖は入れていないんですよ。僕の場合、甘みを出す部分はザージャンっていうひき肉の甜麺醤と、あとは豆腐。この2つで甘みを出しているんです。たまに麻婆豆腐に砂糖を入れているお店もありますけど、やっぱりマイルドな味になりますよね。なので、そこの部分は一緒だなと感じました。
それと、うちの麻婆豆腐に使っている花椒は四川省のもので、青の花椒オイルを入れています。そこもちょっとかぶる部分があるなと思って。

 

塩谷:青の花椒を使うと、さわやかな香りが立ちますよね。

 

人長:本格的な麻婆豆腐には青の花椒のさわやかさが欲しいんですけど、粉にすると粉っぽさが出てしまう。それがいやだったので、そこはあえてオイルを使用して。あと、提供する直前にかける赤の花椒で、シビレを表現しています。僕の場合は、オイルと粉を分けて使っています。

 

豆腐を「下ゆで」することがポイント

 

──あと、ここが大事だなって思ったのが、豆腐の「下ゆで」をやることをちゃんとパッケージの裏の「作り方」で書いてくれているところですね。あれ、やるとやらないで仕上がりがまったく違うじゃないですか。

 

塩谷:豆腐の湯通しですよね。大事なポイントだと思います。

 

──なので、豆腐の湯通しについてはマストの工程として強調して書いてもいいんじゃないかとさえ思ったんです。

 

人長:家庭の調理器の火力だと、やっぱり豆腐が温まる前にタレが煮詰まってしまうので、豆腐の湯通しをした方がいいんですよね。お店で1人前だけつくるときは湯通ししないですけど。

 

塩谷:1人前の分量の豆腐なら、すぐに火が通るからですね。

 

人長:そうです。うちは朝の仕込みで豆腐を20丁、一度湯通ししています。じゃないと、豆腐20丁なんてなかなかすぐに温められないので。お店のオペレーションでは湯通しする場面、しない場面があるのですが、ご家庭で調理するときは絶対に湯通しした方がいいですよ。それだけでまったく味が違うと思う。

 

▲パッケージ裏の「作り方」はこちら

 

塩谷:いちおう、パッケージ裏に「POINT」っていう形で表記しています。おいしくお召し上がりいただくために、湯通しすることがおすすめです。

 

人長:これを買う人は、そういう細部にこだわりたい麻婆マニアな人だと思います(笑)。

 

塩谷:「湯通しなんてめんどくさい」とか「時間がかかる」というご意見もあるかなと思ったんですね。でも、実際はそこまで手をかけて調理してくださってる方が多く、しかも「その方がおいしい」っておっしゃっていただいていて……。

 

──そうか。普通はパッケージ裏の「作り方」にマストの工程が増えると「めんどくさそう」という印象になってしまいますね。

 

塩谷:そうなんです。やっぱり簡単につくりたいっていう方も一定数、いらっしゃるのかなと。最初はもう、すごい尖った方だけを狙ったんですけれど。
おかげさまで比較的、幅広い方に買っていただいているので、引き続きパッケージ裏の「作り方」をどう書くかについては試行錯誤していきます。

 

手づくりしづらい料理を身近なものにしたい

──手づくりしづらい料理を身近なものに、ご家庭の方に、っていうのはまさに人長さんが『メシ通』の記事でやってきたことと共通する部分があると思うんです。料理経験が少ない人でも家庭で上手にできるように……という部分で、苦労したり考えたりしたことはありますか。

 

人長:僕の場合は、あんまりそういうことは考えなかったです。

 

塩谷:そうなんですね。

 

人長:最初、お店で提供している四川料理をどうにかして家でつくれないかなと思ったんですよ。
でも、アメ横だとか中華街に行って食材を買ってくるはめんどくさい。スーパーやコンビニで買える範囲のもので、どうにかしていろいろと試作していく中で、家でもできるな、やりやすいなっていう方向で考えながらレシピを開発しました。

 

──そうですね。本格的なものになるほど食材や調味料をどこでそろえるか、厄介な問題になりがちですね。

 

人長:やっぱり、食材や調味料の集め方だと思うんですよ。僕のレシピにはだいたい、ニンニクや生姜を使うんですけど、市販のチューブのものでいいよって言っているんです。生のものを買っても、全部使いきれずに冷蔵庫の中でカピカピになったりすること、よくあるじゃないですか。
だったらもう、市販のチューブのニンニクでいいじゃんってことにして。そういう部分でのハードルは下げたかったんですよね。

 

塩谷:手軽さも大事、ということですね。

 

人長:やっぱりCook Do®︎がありがたいのは、甜麺醤とか豆板醤とか、たくさんそろえてちょっとずつ使わなきゃいけない調味料がワンパッケージになっているというところですよね。

 

Cook Do®︎は「手抜き料理」なのか

 

──何年か前、ネット上で「家事に理解のない夫が、配偶者の料理を手抜きだと責める」という話題があって。そこでCook Do®︎が手抜き料理の代表ワードみたいに使われたことがありました。これは逆に、世間で一番知られている合わせ調味料がCook Do®︎だった、ということの証左であるとも思います。

 

塩谷:私は、Cook Do®︎は自炊だと思います! もちろんイチから豆板醤、甜麺醤を使った料理もおいしいと思いますし、それを否定するわけじゃないんですけど、それができない場合もあると思うので。
もっと「Cook Do®︎は自炊だよ」って、自信を持ってほしいなって、すごく思いますね。私も担当する前からCook Do®︎を使っていますけど、普通に自炊だと思って料理していました。材料を切ったりする手間もあるんですよ。

 

──そうですよね! 

 

塩谷:それって、けっこうな「ひと手間」なんですよね。食べてくれる相手がいて、細切りしたり、ざく切りしたり、なんだかんだで材料を準備して、しかもフライパンまで出して炒めたり。それって、ちゃんと料理だなって思っていて。そのことはもっと、普及させていきたいなって思っていました。

 

▲人長さんのレシピ本を塩谷さんにプレゼント

 

──「料理で一番楽しいところをお客様に提供している」みたいなことですよね。

 

塩谷:そうなんです。まさにそれが私たちの哲学でもある「楽しいところをお客様に」っていうことなんです。めんどうくさい部分は先にこちらで準備しておきました、最後の仕上げはお任せしますので、あとは料理をどんどん楽しんでください、という。そこはCook Do®︎が、大事にしているところですね。

 

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次回予告!

次回は「四川料理のスゴい人」人長さんと「Cook Do®︎の中の人」塩谷さんのコラボ企画、後編です。次回は人長さんがCook Do®︎<極 麻辣麻婆豆腐用>を使ったアレンジ料理をご紹介します。

Cook Do®︎がつくった本気の麻婆豆腐が、プロの料理人によるアレンジでどのように変化するのか、しないのか。

プロ対プロ、本格派同士の「辛口コラボレーション」をお楽しみに!

 

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▼【味の素KK】「Cook Do®」公式ホームページ

www.ajinomoto.co.jp

 

▼人長良次さんの本

sansaibooks.stores.jp

 

お店情報

リバヨンアタック

住所:東京都中央区日本橋室町3-4-4 OVOL日本橋ビルB1F
電話番号:03-3548-0840
営業時間:月曜日~金曜日: 11:30~15:00 (料理LO. 14:30)、17:30~23:00 (料理LO. 22:00 ドリンクLO. 22:30)
第2・第4土曜日: 17:00~22:00 (料理LO. 21:00 ドリンクLO. 21:30)
定休日:土曜日(第1・第3)、日曜日、祝日

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撮影:平山訓生

書いた人:鷲谷憲樹

鷲谷憲樹

フリー編集者。ライフハック系の書籍編集、専門学校講師、映像作品のレビュアー、社団法人系の広報誌デザイン、カードゲーム「中二病ポーカー」エバンジェリストなど落ち着かない経歴を持つ器用貧乏。

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