反抗期ムスメと母子家庭ママの子育て論 ──「嫌がらせ弁当」はなぜこんなに共感を呼んだのか

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映画化までされたベストセラー・エッセイ 

販売累計20万部のお弁当にまつわる大ベストセラーが映画化され、この6月28日から全国公開が始まった。『今日も嫌がらせ弁当』だ。

 

www.iyaben-movie.com

 

この映画は、高校入学と同時に突如として反抗期に突入、豹変した娘に、あえて彼女が嫌がるキャラ弁で逆襲する母親の、ドタバタな日常を描いたストーリーである。

 

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原作である『今日も嫌がらせ弁当』(三才ブックス)は、2015年の発売後、すぐに大ヒット。

レシピ集や絵本も含めて、これまで4冊の本へと広がりを見せたことから、ご存じの読者もいるかもしれない。映画化に合わせて、この5月24日には改訂版が発売されたばかりだ。 

今日も嫌がらせ弁当 改訂版 ~ちょこっと“よろこばせ

今日も嫌がらせ弁当 改訂版 ~ちょこっと“よろこばせ"~

  • 作者: ttKK(Kaori)
  • 出版社/メーカー: 三才ブックス
  • 発売日: 2019/05/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

本のもとになった、娘さんへの愛情と(時としてブラックな)ユーモアにあふれたキャラ弁の画像に日々の思いを綴った文章を添えたブログは多くの読者から共感を呼び、Amebaブログのデイリー総合ランキング総合1位を獲得したことも。

 

ameblo.jp

 

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本記事では著者のttkk(kaori)さん(以下・kaoriさん)にインタビュー。

 

kaoriさんは八丈島在住。2人の娘さんを育て上げたシングルマザーだ。

娘への「嫌がらせ」にキャラ弁を作り始めた理由や、お弁当作りのこだわり、お弁当を介した娘さんとのバトルの様子から浮かび上がってきたのは、娘さんに対する愛情深く細やかな配慮や、毎朝手渡すお弁当を通じた子育てのあり方だった。

 

「嫌がらせ弁当」を作った理由は、娘の「突然の反抗期」 

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©️『今日も嫌がらせ弁当 改訂版〜ちょこっと“よろこばせ”〜』より

 

──映画の公開、おめでとうございます。『今日も嫌がらせ弁当』が映画化されたことに、娘さんはどんな感想を?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaori(ttkk)さん:な〜んにも言わないんです。最初の本(『今日も嫌がらせ弁当』 2015年刊、絶版)も3ページくらいしか読んでいないみたい(笑)。「自分に起きていたことだから、読まなくてもわかってる。弁当なんて全部見てきたわ」って(笑)。もしかしたらこっそり見てるかもしれないですけれどね。

 

──嫌がらせ弁当を作り始めたのは、高校に進学された娘さんに「突然の反抗期」がやってきたことがきっかけだったそうですが、どんな様子だったんでしょう?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:中学生の頃まではベタベタしてくれていた次女が、高校入学を機会に突然私と距離を置くようになったんです。それまではくっついて寝たり、一緒に遊んだりしていたのに、話かけても無視するし、ブスっとするようになって。……たぶん、彼女の中で気持ちの切り替えがあった。なにか、気恥ずかしさもあったんでしょうね。母親が鬱陶しくなったみたいで。

 

──仲良しだった娘が、いきなり「ママうざい」みたいな感じに?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:もう、ホントにそんな感じです。「昨日まではあんなに一緒だったのに、なんで?」っていう寂しさがありました。そんな娘の態度に腹を立てて、私が離れたり放っておいたら「ママが何も言わないから私もいいや」って、そのままお互いに距離が空いてしまった。それで、キャラ弁を作ろうと。

 

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▲題名:「安眠妨害」 ムスメへのひと言:「計8回。プチテロやめろ!」 鳴り続けるアラームにも気付かず、眠り続ける娘。止めろよ! 耳元でフライパンでも叩いてやろうかとも思ったけど、やっぱり嫌がるお弁当で攻める。(©️『今日も嫌がらせ弁当 改訂版〜ちょこっと“よろこばせ”〜』より) 

 

──そんな娘さんに関わり続ける手段がどうしてキャラ弁だったんでしょう?

  

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:娘は小さい頃からキャラクターものみたいな、いかにも女の子っぽいキラキラしたもの、可愛いものが好きじゃなかったから、キャラ弁なら嫌がるかもって(笑)。「嫌がらせ」とは言っても、イタズラに近い気持ち。「じゃれあい」のようなつもりでした。それで、「今日からキャラ弁作るから」って宣言をして、始めました。「そんなにブスブスした態度をとるなら、あなたの嫌がることをするから、いいね?」って。

 

──宣言された娘さんの反応は?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:「チッ」って舌打ちするような感じでしたね。お弁当を作り始めてからも目に見えるような反応はなくて、「お弁当どうだった?」って尋ねても、空のお弁当箱を黙ってポンと置くだけ……みたいな。残しはしませんでしたけどね。友達も食べていたみたいです。

 

──本人より周囲の友達が盛り上がっている様子が映画の中にもありましたね。嫌がらせ弁当が娘さんと友達とをつなぐきっかけにもなったのかも。

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:そうなったらいいなとも考えていたんです。キャラ弁ならお弁当を開けた時に友達と盛り上がって、会話ができて、一緒に食べられる。私が夜も仕事をしていて、家族で夕食を食べられないこともあったから、友達と一緒に楽しく食べてもらいたかったんです。

 

──そこまで考えていたんですね。

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:でも、娘が喜んで「明日はこんなキャラ弁をお願いね♪」って言うようになったら普通のお弁当に変えようと決めていました。

 

──期待に違わず、娘さんに「もうキャラ弁はやめて」と言われたようですが、その時kaoriさんは?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:「食いついてきた、ざまあみろ」って思いました(笑)。「絶対止めない」って答えたんですけれど、これがすごい反抗期だったらそうはできないと思うんです。捨てられて終わりで口をきいてもらえないかもしれない。でも、キャラ弁ならそこまではいかないと思っていました。

 

──「弁当作りは、あなた(次女)と私の戦い」だとブログに書いていましたね。

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:どっちが折れるかですよね。私は「絶対に止めない」。娘は「やるならずっとやり続けてみろ」みたいな。もう、意地の張り合いです。

 

アイデアはその場の思いつき──思い出の嫌がらせ弁当たち

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▲題名:「八つ当たり弁」 ムスメへのひと言:「イライラの半分をくれてやる。」 気持ちよさそうに寝ている娘。なんかムカつく。叩き起こしたいけれどそんな元気もない。やる気スイッチを押してくれ! (©️『今日も嫌がらせ弁当 改訂版〜ちょこっと“よろこばせ”〜』より)

 

──シングルマザーで昼夜に複数の仕事をして家計を支えていたようですが、毎日お忙しかったでしょう?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:本当に忙しい時には朝出勤して、夕飯の支度や家事をしてから2つ目の職場に行き、それが終わると3つ目の職場に行くような感じでした。でも、夜の仕事は毎日ではなかったし、長女が次女の面倒を見てくれる時期もありましたから、思うほど忙しいわけでもなかったんです。

 

──毎日お弁当を作るだけでも大変なのに、彩りもあって品数も多く、栄養のバランスも考えられています。しかもキャラ弁作りはより手間が掛かりますよね。時間も掛かったでしょう?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:他の家事と一緒にやりながらだったので、それも含めて1時間くらい。料理そのものは手の掛からないものが多いんです。文字やキャラを切り抜く作業には時間が掛かりますけれど、細かい作業が好きだから楽しんで作っていました。

 

──嫌がらせのアイデアはどんな時に?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:作る直前に思いつくことが多かったです。「明日はどんなものを作ろう」って前日寝る前に考えたりしましたけれど、そのまま作ることはありませんでした。

 

──冷凍食品を一切使わず、空いた時間に作り置きすることもなく、必ず朝作っていたそうですね。何か理由が?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:冷凍食品を使わなかったのは、私の母がそうだったからかもしれません。作り置きができないのは、娘が食べるまでにお弁当がどんな状態でどのくらい置かれているかわからないので、不安だったからです。

 

──特に思い入れのあるお弁当と、エピソードを教えてください。

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:「これは食いついた!」と思ったのは、切断した指のお弁当ですね。帰って来たときに、口では何も言わなかったけれど顔がニヤニヤしていたというか、いいことあったみたいな顔をしていたことが印象深くて。

 

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▲題名:「な? 怖いだろ?」 ムスメへのひと言:「残暑見舞い。身も心も凍りつけ!」 暑さを吹き飛ばし、涼しくなってもらいたかった。(©️『今日も嫌がらせ弁当 改訂版〜ちょこっと“よろこばせ”〜』より) 

 

──「よっしゃ!」という感じですか(笑)。「サマーラブ」も素敵ですね。「お前も弾けろ!」っていう、母親から年頃の娘への愛のあるアドバイスがいいなあと思って。このお弁当にはどんな背景が?

 

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▲題名:「サマーラブ」 ムスメへのひと言:「弾ける夏! お前も弾けろ!!」 友達とお祭りに行く娘に。 (©️『今日も嫌がらせ弁当 改訂版〜ちょこっと“よろこばせ”〜』より) 

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:本当に静かな娘で、みんなでワイワイするような女子高生のキャピキャピ感もない、男の子のことで騒ぐような感じもなタイプだったから「あなた、もっと弾けなさい!」って。他には食パン一斤のお弁当も思い出に残っています。

 

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▲題名:「一斤丸ごと」 ムスメへのひと言:「カロリーオーバー、おデブまっしぐら。」 遅くまで文化祭の準備。ま、頑張れや。 (©️『今日も嫌がらせ弁当 改訂版〜ちょこっと“よろこばせ”〜』より)

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:上の娘が高校生の時に持っていったのを見て、小さい頃から憧れていたみたいなんです。「焼きたてのパンを持っていきたい」って。お姉ちゃんの時はパンにマヨネーズだけだったけれど、次女はキャラ弁であることを隠して持たせました。「大きく口を開けて!」も印象に残っていますね。

 

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▲題名「大きく口を開けて!」 ムスメへのひと言:「態度の大きさ、不要です。」 これでも声が小さいままだったら、クリスマスプレゼントは拡声器。 (©️『今日も嫌がらせ弁当 改訂版〜ちょこっと“よろこばせ”〜』より) 

 

──これにはどんなエピソードが?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:娘は、ものをいう時は蚊が鳴くみたいにボソボソ声が小さいのに、態度だけは大きいんですよ。頼まれたことをやってあげた時の「ありがとう」の声は小さいのに、態度は「やって当たり前だよ」みたいな感じで。そこが気になっていたのでお弁当にしました。

 

口にはできないことも、お弁当なら素直に言えた

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▲題名「最後の小言〜その1〜」 ムスメへのひと言:「親は召し使いじゃないんだぞ!!」 卒業が近づいても王様気取りの娘に、世の中はそんな甘いものじゃないと。でも、そんなわがままが聞けなくなるのも寂しい。 (©️『今日も嫌がらせ弁当 改訂版〜ちょこっと“よろこばせ”〜』より)  

 

──kaoriさんの嫌がらせ弁当には、娘さんを励ますものや、子供からすると耳が痛いお説教のようなもの、察して欲しいけれど親からは口にしにくい思いを表したもの、というように、いくつかの種類があることに気づいたんです。口にすると角が立ったり野暮になるようなことをお弁当で伝えていたのかなと思いました。

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:口で言ったら腹を立てて、聞きたくないし聞きもしないっていうのもありますものね。

 

──そういうお弁当の時、娘さんはどんな反応を?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:「なんで直接、言わないの?」って聞かれることもありましたし、「片付けろ」って、口で言ったら無視して部屋に籠るはずが、お弁当で伝えた日には何も言わずに片付けるようなこともあったりしました。

 

──お弁当で会話をしていたような感じですね。

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:昔で言えば置き手紙みたいなものでしょうか。

 

──3年間続けていったなかで、メッセージ的な部分が少しづつ強くなっていったと本に書かれていました。どうして変わったのでしょう?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:イタズラとして楽しんでいたお弁当が、手紙のようになって深まっていったというか。娘は言葉にはしなくても態度で応えてくれましたからね。それに、手紙の場合は嫌なら見ずに放置することもできるけれど、お弁当は必ず開けなきゃいけませんから。

 

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──直接の言葉のやりとりが全然なくても、互いの思いを交わし合えている実感を、お弁当を通じて感じ続けられていたんですね。

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:それはあります。お弁当を見て私の調子に気づいてくれているようなところもあって。普段はブスっとしているのに、私が体調を崩して動けない時には(次女がつくった)クタクタのうどんが作って置いてあるようなことがあったり。

 

──それは嬉しい。上の娘さんの時はどうだったんでしょう?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:お姉ちゃんの場合はお互い言いたいことを言い合うし、つかみ合いのケンカをして、ちょっと離れて、お互い考えてから「さっきはごめん、自分が悪かった」っていうようなやり取りができたんです。でも次女は違って、プイッと黙って行ってしまう。ケンカになる前に、私の地雷がわかっているから黙って見ていたのかも。

 

──妹さんとの嫌がらせ弁当のやり取りには、お姉ちゃんとのつかみ合いのような部分があったのかもしれませんね。

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:そうかもしれないですね。

 

──子育ての上で大切にしてきたことはありますか?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:思っていることや考えていることは口にして伝えていくということでしょうか。あとは、本人がやりたいと思うことには基本的にダメとは言わず、自分で決めさせるようにしていました。「どうなんだろう?」って思った時には私の考えも説明しますけれど、頭からダメとは言わず、「自分で考えて決めなさい」と言ってきました。

 

──「言いたいことは言う、本音を伝える」という点が、kaoriさんの嫌がらせ弁当そのものだったように思います。お弁当に表れた娘さんへの励ましも小言も、かまって欲しいという気持ちにも嘘がない。特に、親の弱音、ぼやきのような部分も、格好つけずに伝えている所がすごいと思いました。

 

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▲題名「本音吐露」 ムスメへのひと言:「寝かせてくれよ、人間だもの。」 人間だもの…ねむいんだもの…。ママだって眠いんだよーーーーー! (©️『今日も嫌がらせ弁当 改訂版〜ちょこっと“よろこばせ”〜』より) 

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:ずるいと言えばずるいんですけれどね。

 

──ずるい? どうしてですか?

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:離婚して一人親にしてしまったことの負い目は正直ゼロではないし、子供に何かしてあげることは私の喜びでもあるから「こんなに頑張ってるのに!」って言うのは嫌。
でも、1人で全部を抱えて一所懸命やらなきゃって思うと逃げ出したくなることもあるんですよ。そういうモヤモヤした気持ちをお弁当にしていた部分もあったわけですから。もちろん「私たち家族はチームだよ、やることはみんなでやるんだからね」っていう意味もあるんですけれど。

 

子供とは「付かず離れずのいい距離感」が大事

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──「面と向かっては言えない母親の辛さ」みたいなものを娘さんと共有できたことこそが、嫌がらせ弁当の持つ力だと思いました。子供と上手くコミュニケーションできないと悩んでいる親御さんはたくさんいると思うのですが、kaoriさんの経験から、何かアドバイスのようなものはありませんか?

  

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:私なんかが人様にお伝えできるようなことはありませんけれど、やはり子供との距離感、付かず離れずのいい具合の距離感が大事なのかも。追えば逃げるし、離れ過ぎたらもっと離れていきますよね。子供の様子を見ながら距離感を測るというか。そうは言っても、本当は私達が距離感をうまく取れていたのかはわからないです。

 

──本を読んでいて、知り合いの女性が「ちゃんと心配してあげていれば子供は勝手に育つものだ」と言っていたことを思い出したんです。嫌がらせとは言いながらも、kaoriさんのお弁当からは「私はあなたに関心を持っています、大切に思い続けています」という気持ちが、適度な距離感で伝わってきます。だからこそ、娘さんに伝わって、応えてもくれたんじゃないかと。

 

f:id:hiro81p:20190629111408j:plainkaoriさん:時間に余裕のあるお母さんはたくさん遊んであげたり、いろんな方法でそういう気持ちを伝えられると思うんです。多分、私にとって、そういう思いを娘に伝える1つの形が嫌がらせ弁当だったのだと思います。

 

なぜ「嫌がらせ弁当」は共感を呼んだのか?

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▲題名「嫌がらせ弁当 最終日」 お弁当卒業おめでとう。嫌がらせなお弁当にもかかわらず、3年間食べ続けてくれたこと、付き合ってくれたこと、本当にありがとう。あなたが娘であること、あなたの母親であること、本当に幸せに思います。(©️『今日も嫌がらせ弁当 改訂版〜ちょこっと“よろこばせ”〜』より) 

 

上の写真は、題名の通り、娘さんの高校生活で最後のお弁当だ。

本の中ではkaoriさんの、娘さんへの思いの丈を綴った文章が添えられている。そして、娘さんからkaoriさんへの返信も。

  

 ãã—て、卒業して「キャラ弁」がなくなるのは嬉しいですが

「お弁当」がなくなってしまうのは悲しい気もします。

 

(中略)

 

ママは最強最高に怖いし

変なことばかりして笑わせてきてうざいけど

心の底から尊敬しています。

ママのようになりたいと思っています。

 

最後に3年間きっちりキャラ弁でしたが

お弁当ありがとうございました。

 

今まで私のためにやってくれたこと、すべてに感謝しています。

『今日も嫌がらせ弁当改訂版〜ちょこっと“よろこばせ”〜』/「反抗期ムスメより」より抜粋

 

どちらも不器用でありながら、お互いの愛情と感謝の感じられる文章で、思わずほろりとくる。もちろん、お弁当で嫌がらせする母と、そんな母に舌打ちする娘、というスタンスはそのままに。

 

kaoriさんの言葉を借りれば、嫌がらせ弁当はきっと、親子にとって最良の「距離感」を保ちながら、本音を伝え、コミュニケーションを取り、関係を維持し深めるために最適だったのだろう。

 

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お話をうかがっていて、kaoriさんのブログや本が共感を呼び、多くの読者に支持された理由がわかった気がする。

それは「お弁当に吐露された本音」と、毎日お弁当を作り続けるという行為が2人の間に育んできた「思いの蓄積が作る関係の尊さ」じゃないだろうか。

 

そして、ともすると押し付けがましい母親の思いの鬱陶しさを緩和してくれたのが、「嫌がらせ」というスタイルからにじみ出るユーモアだった。このユーモアこそが、難しい年頃の娘さんにとって、母親の思いを受け入れやすいものにし、読者にとっては共感を覚える入り口にもなったのではないか。

 

「本音」「行為の蓄積」「ユーモア」。

これらは親子関係だけじゃない、大切な人といい関係を作る要諦のような気がする。

 

自分はこれまで大切な人に、お互いにとって適切な形で、どれだけ本音を伝えられてきただろうか? 

ふと、そんなことを思った。

 

書いた人:渡邊浩行

渡邊浩行

編集者、ライター。アキバ系ストリートマガジン編集長を経て独立。日本中のヤバい人やモノ、面白い現象を取材するため東へ西へ。メシ通で知ったトリの胸肉スープを毎日飲んでるおかげで、私は今日も元気です。でも、やっぱりママンの唐揚げが世界一だと思ってる。

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