<安倍元首相単独インタビュー>北方領土「2島返還軸」への転換認める 「100点狙って0点なら意味ない」
安倍晋三元首相は、首相在任中に取り組んだ北方領土問題を含むロシアとの平和条約交渉について、北海道新聞の単独インタビューに答えた。安倍氏は2018年11月のシンガポールでの日ロ首脳会談で、歯舞群島と色丹島の日本への引き渡しを明記した日ソ共同宣言を交渉の基礎としたことについて「100点を狙って0点なら何の意味もない。到達点に至れる可能性があるものを投げかける必要があった」と述べ、北方四島の返還ではなく、2島返還を軸とした交渉に転換したことを事実上認めた。「路線を考え直せば日ロ関係は100パーセント後退する」とも述べ、岸田文雄首相に対ロ外交戦略の継承を求めた。
■現政権に対ロ外交戦略の継承要求
インタビューは17日に東京都内で行った。安倍氏とロシアのプーチン大統領はシンガポールでの首脳会談で、1956年の同宣言を基礎に交渉を加速することで合意した。安倍氏が四島返還からの転換を認め、意図などを具体的に語ったのは初めて。ただ、その後の交渉は行き詰まり、安倍氏の判断が問われそうだ。
安倍氏は同宣言について「両国の国会で批准した、いわば協定に近い存在」だと強調。プーチン氏も宣言の法的有効性を認めており「ここにしっかりと立ち返る中で、問題を解決していく判断をした」と語った。
同宣言に国後、択捉2島への言及はなくロシア側は領土交渉の対象としない根拠としているが、安倍氏は「日本人がそこで経済活動をしている、住んでいる状況をつくることが足がかりになる」と指摘。この2島の返還は求めず、共同経済活動や自由往来を念頭に置いていたことをにじませた。
シンガポール会談で、同宣言を交渉の基礎に位置づけた理由について、自身の自民党総裁任期などを踏まえ、「時を失うデメリットの方が大きいと考えた」と説明。プーチン氏との信頼関係に加え、当時のトランプ米大統領も日ロ平和条約交渉の進展に理解を示していたとして「大きなチャンスだと考えた」と語った。
また、プーチン氏とはシンガポール会談で「相当詰めて話をしていた」と強調。一定の合意があったことを示唆したが、具体的な内容は明らかにしなかった。その後の交渉が停滞した理由については、ロシア国内での反対論の高まりが大きく影響したと指摘。19年1月にプーチン氏と再会談した際には「相当姿勢が後退していた」と明かした。
岸田首相に対しては、シンガポール会談と直後の18年12月のアルゼンチン・ブエノスアイレスでのプーチン氏とのやりとりを「確認してほしいと伝えた」と述べ、路線継承を求めたことを明らかにした。(渡辺玲男、吉田隆久)
<ことば>日ソ共同宣言 1956年10月19日、当時の鳩山一郎首相とブルガーニン首相らが署名し、同年12月12日に発効した。平和条約締結後に北方領土の歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことが明記されている一方、国後、択捉両島の扱いには触れられていない。
タグを押して関連記事一覧へ
トップニュース
北海道新幹線新函館北斗―札幌間(212キロ)のトンネル工事が難航している問題で、国土交通省が札幌開業の...