そんなに良い音なの?
ヒップホップ界の大物・Dr. Dreの設計によるヘッドフォンBeats by Dr. Dreが大人気です。音楽情報サイトPitchforkのマーク・リチャードソン編集長が「ブルックリンの地下鉄では1車両にひとりはBeats by Dr. Dreを持っている」と言うくらいです。
その人気の秘密は何でしょう? Dr. Dreの知名度や影響力もひとつの要因だと思われます。見た目のデザインの良さを理由に挙げる人もいます。でもリチャードソンさんは、そのサウンドについても、独自の視点から評価しています。
Beats by Dr. Dreは、ヒップホップアーティストが作ったものだけに低音が優れていると評価されるのですが、音の再現性にこだわるオーディオマニアからは「正確でない」と批判されてもいます。でもリチャードソンさんは「正確さ」は今の時代曖昧なものになっていると言います。
伝統的に、オーディオマニアの中のオーディオマニアと言えばクラシック・ファンが多く、「正確さ」の尺度は「生演奏にどれだけ近いか」ということでした。ステレオから流れるレコードの音がまるで隣でバイオリニストが演奏しているかのように聞こえることが、そのステレオセットが良いものだということでした。でも、レコーディング技術がそれを変えました。オーバーダビングやテープの編集や処理によって、生演奏を再現するという考え方はあまり重要ではなくなったのです。
かつてのオーディオマニアは、普遍的な理想の音を追い求めているかのようでした。でも今の時代、誰もがすべての音楽を自分好みの音で聞くことができます。
リチャードソンさんは続けます。
Beats by Dr. Dreは、音楽を再生しているというより、むしろ変容させているからこそ人気があるのです。それは低音を求めるリスナーのために音をカスタマイズしてくれる、今の時代に即したヘッドフォンと言えます。音楽とは決して完成しないものです。我々はそれを切ったりひねったり、低音をプラスしたり、100倍にスローダウンしたり、他の曲とマッシュアップしたりできます。リスナーたちは、音楽を自分の好きなように完成させてくれるヘッドフォンを買うのです。
「良い音かどうか」より、「好きな音かどうか」が重要になってきている、ということなんでしょうね。
ADRIAN COVERT(原文/miho)