iPadは、アップルのデザイナー部門VPのジョナサン・アイヴ氏が、究極のインダストリアルデザインを追求してできた作品といっていいでしょう。ミニマルなミニマリズムを追求し、モバイル・コンピューターをキーボードなしのスクリーンだけにしてしまいました。
が、製品としては多少の問題点もあります。マーケティング上の判断に起因するものもあれば、製造上の制約に起因するものもあります。
続きで、手にとってみての使用感も含めたデザインのポイントと、その課題について考えてみます。
iPadは本当に、「良いデザインの10ヵ条」にあてはまるのでしょうか? ひとつひとつ検証してみました。
1.良いデザインは革新的であるマウスなしのタッチスクリーンというコンセプトはもう新しいものではありませんが、iPadではより大きなサイズのスクリーンで、しかも多くの人が買える価格でそれを実現しているところが新しいと言えるでしょう。タッチスクリーンがコア機能となり、新しいアプリケーションを実現させ、今後はノートパソコンの代替となっていくことでしょう。
2.良いデザインは製品を便利にする機能が形を決めます。iPadでも、シンプルなスクリーンがツールそのものになっています。事実、このデザインが、iPadを成り立たせているといえます。
3.良いデザインは美しいiPadは美しいです。黒いベゼルフレーム、ガラス、背面のアルミ、そしてそれらのバランスや、微妙にカーブした背面。実際よりもスリムに感じられます。
4.良いデザインは製品を分かりやすくするiPadは分かりやすいです。電源を入れたときから、インターフェースが立ち上がって、指でタッチしたくなります。使うためには新しい言葉を学ぶ必要もなく、ホームボタンは、押せば1回で何の機能かがわかります。電源スイッチや音量コントロール、スクリーンロックなども直感的です。それぞれのデザイン要素が、明確な機能を体現しているからです。
5.良いデザインは慎み深いこの項目がiPadほどあてはまるアップル製品はこれまでなかったのではないでしょうか。ラムスは、良いデザインとは「装飾的なオブジェでも、芸術作品でもない。だから、良いデザインとはニュートラルで、抑制されていなくてはならない」と言いました。これはまさにiPadのデザインでしょう。
6.良いデザインは正直であるiPadには、余計な飾りはありません。全てが機能中心にできており、飾りは必要ないのです。
7.良いデザインは恒久的であるiPadは未来のデバイスのように感じられますが、このデザインは時代を超えています。『2001年宇宙の旅』に出てきてもおかしくないでしょう。ピカード艦長がエンタープライズのデッキで持っていても、いっそバロック様式の宮殿にあっても、なじんでしまうでしょう。
8,良いデザインはディテールまで一貫性があるiPadのディテールは全て、機能に合わせてデザインされています。たとえばベゼル。これがあることで、iPadをしっかり支えつつ、しかもスクリーンの邪魔をせずに手に持つことができます。
9.良いデザインは環境に配慮するオリジナルのiPhoneとは違い、アップルによると、iPadはリサイクル可能で、素材も全てエコなものを使っています。ディスプレイのガラスはヒ素フリー、臭素系難燃剤フリー、水銀フリーのLCDディスプレイ、PVCフリーです。
10.良いデザインは可能な限りデザインをしないラムス氏いわく、良いデザインとは純粋でシンプルなもの。iPadよりも純粋でシンプルなデザインは他にないのではないでしょうか?
ここまで絶賛してきましたが、全てが完ぺきというわけではありません。物理的な制約やマーケティング上の決定によって、改善課題として残されてしまった部分もあります。
・重さまず、現在の技術ではiPadは一部の人(米Gizmodoのラム編集長とか、ハーマン記者のガールフレンドとか)にとっては「重い」ものになっています。でも、人によっては(ディアス記者とか、GizmodoのiPadローンチパーティにいたお店の女の子とかには)それほど気にならないようです。
事実、680グラムというのは大体ネットブックの半分の重さです。「重い」というほどではないにしろ、片手で一定時間持ち続けるとしたら、まあ疲れます。
残念ながらこの問題は、アップルのインダストリアルデザインチームにもエンジニアチームにも解決できなかったようです。何しろiPadは光学ガラスに覆われ、LEDバックライトを使い、高速のプロセッサーを搭載し、そのうえ10時間持続できる大きなバッテリーが必要だったのですから。
・スタンドアップルのデモビデオでは、iPadはソファやカウチで使われていて、みんなふたつの手でiPadを持ちつつ、ひざに載せたり、組んだ足に載せたりしています。つまり、本を扱うようにiPadを扱うことが推奨されているように見られます。
ディアス記者もこのスタイルで使っていますし、今週末カフェやバーにいたiPadユーザーもそうでした。家では、ソファやトイレやベッドで使います。ソファやベッドでは、まずしばらくはまっすぐに持ち、それからちょっと姿勢を変えて、ひざに載せたり、シーツに載せたりしています。
動画を見るときも同様です。ディアス記者が先日iPadで『LOST』を2話観た際は、ソファに座ってときどき体勢を変えつつ、大体、テレビのスクリーンで観るときと同じような感覚で観ることができたそうです。
でも、動画に関してはやはりスタンドが必要でしょう。iPadを手に持つこと自体いやだと言う人もいます。そういう人は、100パーセント自分の手を使わずにいたいのです。さらに、テレビや映画を見ながら別のことをしたいと言う人だっています。ディアス記者の奥様は、ディアス記者のためにiPadケースを手作りしながら、ソファで『Weeds』を鑑賞されてるそうです(なんて幸せそうな...)。奥様はクッションをひざに載せてテーブルに立てかけながら、そこにiPadを置いて、見やすい角度に調整しているとのこと。体勢を変えるのが大変そうですね。
こういうシーンはたくさんあると思われるので、やっぱりスタンドが必要になるでしょう。アップルではこうした使い方をそれほど想定していなかったようです。動画はiPadの一機能に過ぎません。メインはアプリで、アプリは基本的にユーザー自身が手を動かして使うものです。それでアップルでは、本のように扱われることを想定してiPadをデザインしたのでしょう。
・素材iPadの問題点に、指紋がついてしまうことがあります。スクリーンにタッチすれば、指紋がつきますね。皮脂をまったく寄せ付けないガラスでもない限り、これは仕方がありません。iPadはこの点で最善を尽くしており、撥油性のあるガラスを使うことで、拭き取りやすくしています。でも、どんなにがんばっても汚れてはいきます。幸い、スクリーンをまっすぐに見るときは、指紋は見えなくなります。でも、角度を変えると、反射で指紋がくっきり見えてしまいます。
また、アルミニウムの背面にも問題があります。きれいだし、感触もいいんですが、もっと傷やへこみがつきにくい、頑丈な素材がなかったのかと疑問です。ゴム引きのプラスチックとか、もっと軽いカーボンファイバーとか、チタンとか、どうにかできなかったでしょうか。プラスチックのカバーに入れなきゃいけないのはデザイン的にもったいないです。もっと言えば、たいていのことでは壊れないくらい頑丈であってほしいのですが。
・4:3フォーマットどうしてiPadの画面は4:3なんでしょうか? おそらく、パネルの入手しやすさとコストでこうなったのでしょう。が、その理由は機能面からも説明できます。
iPadは紙のページと同じ縦横比率になっています。これは多くの人になじみのあるフォーマットで、自然に感じられます。特にポートレート・モードでは。ワイドスクリーンにしてしまうと異常な感じになります。16:9のJooJooで試したときがまさにそんな違和感でした。
4:3は動画以外のコンテンツには非常におさまりがよく、無駄なスペースがありません。アップルは、動画以外の機能を優先してこのフォーマットを選んだのでしょう。つまり、フルワイドスクリーンの動画を見たときに、画面上下が黒塗りとか、または画面の端が欠けても、仕方ないという決断をしたのでしょう。
新しい技術が開発され、新しい素材や、より小さい部品、さらにパワフルなバッテリーが世に出るにつれて、上記の問題点は解消することでしょう。次世代機はもっと軽くなり、性能も高まり、カメラなど機能も増え、それでいてもっと薄くなるでしょう。最終的に、フレキシブルで壊れないものになっていくでしょう。しかも価格も下がっていくと思われます。
こうした改善点がまだあるとはいえ、インダストリアルデザインの点から見たiPadは、アップルにおける頂点と言えるのではないでしょうか。iPadの機能上の目標は、製品自体を極力シンプルにし、意識されないようにすることで、メインであるアプリにとっての最良のステージとなることです。アプリはどんなものでもスムースに動く必要があり、iPadはそのための機能を提供をしなくてはなりません。その意味でiPadは、重さやら指紋の問題はあるにせよ、現在可能な範囲での完ぺきなデザインだと言えるでしょう。
iPadは、ブキャナン記者いわく、「未来を手に持っているかのよう」です。大げさなようですが、本当に実感です。さらに将来、この「未来」は、もっと素晴らしいものになるでしょう。
Photos by Matt Buchanan
Jesus Diaz(原文/miho)
(※ご指摘ありがとうございました。記事修正しました!)