本誌e-Sports Business.jpでは、eスポーツ領域で新しいビジネスを展開しようとするマーケターや新規事業担当の方に向けて、eスポーツビジネスの事例を発信しています。
今回は、ゲームやeスポーツを活用した教育の領域について、代表的な取組みを紹介します。
学校教育におけるゲームの活用
近年、日本の教育現場で期待を集めているのが、ゲームを活用した学習方法です。従来の教育手法に加え、子どもたちに人気のあるゲームを教育ツールとして取り入れる試みが、全国の学校で広がっており、特に注目されているのが『マインクラフト』と『桃太郎電鉄』です。
『教育版マインクラフト(Minecraft: Education Edition)』は、プログラミング教育をサポートするツールとして活用されています。児童・生徒たちは、ブロックを組み立てて自分だけの世界を作り上げていく中で、自然とプログラミング的思考を身につけていきます。仮説を立て、実行し、結果を確認するというサイクルを楽しみながら繰り返すことで、論理的思考力が磨かれていくのです。
一方、『桃太郎電鉄 教育版Lite ~日本っておもしろい!~(以下、桃太郎電鉄 教育版)』も、全国の小中学校で導入が進んでいます。教育現場での使用を想定し、Webブラウザで動作する同作は、学校教育機関向けに無償で提供されています。
「桃太郎電鉄」といえば、プレーヤーが日本全国を巡って物件を買い集め、資産額日本一を目指すボードゲーム形式の人気テレビゲームシリーズ。「『桃鉄』で地理が得意になった」という人もいるほどで、教育的な効果も評価されてきました。
『桃太郎電鉄 教育版』では、プレイヤーは日本全国を旅しながら、各地の特産品や観光名所、歴史的な出来事について学ぶことができます。また、お金の管理や投資の概念を遊びながら学ぶことで、経済感覚も自然と身につきます。
2023年初頭にリリースされた本作は、2024年3月時点で7000を超える教育機関に導入されました。
これらのゲームを活用した教育の最大の利点は、児童・生徒の学習意欲を高められることでしょう。「勉強している」という意識よりも「楽しんでいる」という感覚が強くなり、前向きな姿勢での学習が期待できます。
さらに、これらのゲームを活用した教育では、児童・生徒たちがゲーム内で協力してプロジェクトを進めることで、コミュニケーション能力やチームワークを育むことができます。
eスポーツの教育的効果
eスポーツに関連するカリキュラムを提供する高校も増えています。たとえば、「STAGE:0」や「NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権」といった高校生向けeスポーツ大会でも優秀な成績を収めているルネサンス高校は、2018年に日本で初めてeスポーツコースを開講したことでも知られ、eスポーツ×教育にいちはやく取り組んできた高校です。
eスポーツコースのある教育機関の多くに共通しているのは、「技術を教えるだけではない」ということ。eスポーツに取り組む中で、コミュニケーションスキルやチームワークといった社会的スキルを身に付けられることをアピールしています。
コナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が第一学院高等学校と連携して運営する「KONAMI eスポーツ学院」の梅村成樹校長は、以前のインタビューの中で次のように語っています。
プロチームでトライアウトを担当されている方に聞いても、採用にあたってはゲームのテクニックだけではなくコミュニケーション能力やインフルエンス力、社会性も評価されるようになっています。ゲームの実力だけではなく、真面目さや積極性があり、伸びしろを感じさせる人が採用されることもありますね。
本学院ではSNSの使い方を含むデジタルリテラシーやコミュニケーション、セルフプロデュースなどの授業で社会性を育むカリキュラムを提供しており、eスポーツプレイヤー以外のさまざまなシーンにおいても活躍できる能力を身につけてほしいと思っています。
これからは自己管理能力やコミュニケーション能力といった、社会や企業に所属したときに大事になる要素を、ゲームを通じて磨いてもらえたらと思っています。「どうやったら強くなれるだろう」と考えて目標を立て、大会に出るためのチームを組み、プロになるための自己プロデュースをしていく……。eスポーツ選手を目指す過程で学べることには社会性に直結している要素もたくさんあります。
専門コースだけでなく、部活動としてeスポーツに取り組む学校は増えています。教育現場におけるeスポーツ活動を支援する国際教育eスポーツ連盟ネットワーク日本本部(NASEF JAPAN)によれば、2024年10月18日現在で加盟校は545校にのぼっています。専門的なカリキュラムを提供する通信制高校だけでなく、全国から公立高校も加盟していることから、部活動としてのeスポーツの盛り上がりがわかります。
eスポーツを通じた地域活性化やeスポーツ部の支援などを行うNTTe-Sportsの金 基憲氏によれば、少子高齢化の中で部活動全体の規模が年々縮小するなか、eスポーツの部活は勢いを増しているといいます。そして、実際の部活動の現場を見た感想として次のように語っています。
「他の部活動となんら変わらない」というのが現場を見ての率直な感想です。ルールを把握し、練習し、作戦を立て、試合や大会に臨む。優勝を目指しているような強豪校も、実力及ばずなかなか勝てないチームも、試合に向けて日々頑張る。一生懸命やるほどに仲間とぶつかったりもするが、そこから人や社会との関わり方を学ぶ。結果も大事だが、努力や困難にぶつかる過程で将来役に立ついろいろなことを経験する、といった感じです。
他校との試合や大会、同じ部活内でのレギュラー争いなど、人と競い合うものであるだけに、努力、挑戦、辛いときのストレスとの向き合いかたなども磨かれます。
今後も教育現場におけるゲームやeスポーツの活用は、従来の教育方法を補完する新しい学習ツールとして、さらなる発展が期待されています。