27年にわたって桜を照らし続けた献身の指揮官。セレッソ大阪が小菊昭雄監督と歩んだ3年半の軌跡
去り行く監督たちのレガシー#4
小菊昭雄(セレッソ大阪)
2024シーズンのJリーグが終わり、惜しまれつつチームから去っていく監督たちがいる。長期政権でチームの黄金期を作り上げた者、独自のスタイルでファンを魅了した者、困難なミッションから逃げず正面から向き合い続けた者……リスペクトすべき去り行く監督たちがそれぞれのクラブに残したレガシーを、彼らの挑戦を見守ってきた番記者が振り返る。
第4回は、2021シーズンの途中からバトンを渡され、3年半の時間を指揮官として過ごしてきたセレッソ大阪の小菊昭雄監督。クラブ在籍27年を誇る、まさに桜色に染まった“ミスターセレッソ”の功績を小田尚史記者が振り返る。
嵐の中の船出。クルピ前監督から受け取った桜のバトン
挑み続けた3年半だった。
今季をもってセレッソ大阪の監督を退任し、来シーズンから新たにサガン鳥栖で指揮を執る小菊昭雄監督。桜の指揮官として歩んだ3年半を振り返ると、常にチャレンジし続けた軌跡が浮かび上がる。
出発は、嵐の中の船出だった。2021年8月、双方合意のもと、成績不振で契約を解除されたレヴィー・クルピ前監督の後を受け、コーチから昇格。チーム作りや編成など自身の色を出す猶予もなく、シーズン途中で火中の栗を拾う形で着任した。それでも、「断る選択肢はなかった。自分を育ててくれたセレッソ大阪というクラブに全力で還元したいと思った」と、不退転の決意で監督の任務を引き受けると、J1残留争いに足を踏み入れかねない状況でバトンを受けた中、就任からわずか2日後に迎えた“初陣”では、宿敵のガンバ大阪を1-0で撃破。短期間で整備したのは守備面で、[4-4-2]の陣形でコンパクトに構え、2トップから始まる連動したプレスを落とし込んだ。最初の難関を突破すると、その年のルヴァンカップでは決勝に進出。天皇杯もベスト4まで進むなど、来季へ期待のもてる形で就任“初年度”を終えた。
シーズンの頭から指揮を執った2022年は、[4-4-2]のやり方一辺倒ではなく、清武弘嗣、奥埜博亮、原川力で中盤を組む[4-3-3]がフィットした時期もあった。ただし、6月に清武がケガで離脱して以降はシンプルな[4-4-2]に回帰。ボール保持にこだわらず、前線2枚のハイプレスを軸にハードワークで相手を凌駕する“情熱のフットボール”を浸透させ、5月中旬から8月にかけて、カップ戦も含めて公式戦20試合で12勝6分2敗の快進撃を見せた。
ただし、“小菊セレッソ”が3年半で最も結果を残した2022シーズン、その前に立ちはだかった相手が、ミヒャエル・スキッベ監督率いるサンフレッチェ広島だった。先の20試合での2敗はいずれも広島とのリーグ戦。その後も天皇杯ではベスト8で当たって敗れ、そして何より、2年連続でファイナルに進出したルヴァンカップでも決勝で対戦すると、現在は広島でプレーしている加藤陸次樹のゴールで先制するも、後半にマテイ・ヨニッチが退場するなど数的不利に陥り、逆転負け。試合後は、「交代か、戦い方か、何か手を打てなかったのかと胸に刻みたい」と、リードしていた終盤、退場者を出すまでの戦い方を悔やんだ。ちなみに、C大阪の監督を退任することが決まった今年の12月。この決勝戦を振り返り、「監督力のなさで負けた。それに尽きる」と述懐。C大阪の監督在任中に一度も勝てなかったスキッベ監督を超えることも、外に出て新たな挑戦をする動機の一つだと語った。
就任3年目。タイトル獲得を期した2023シーズンの収穫と課題
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Profile
小田 尚史
2009シーズンより、サッカー専門紙『EL GOLAZO』にてセレッソ大阪と徳島ヴォルティスを担当。2014シーズンより、セレッソ大阪専属となる。現在は、セレッソ大阪のオフィシャルライターとしてMDPなどでも執筆中。