6月15日放送の『水曜日のダウンタウン 2時間SP』(TBS系列)。2時間にわたり仕掛けられていた罠は、テレビをよく観ている人ほど引っかかるものだったのだ。
(以下、ネタバレを含むので「録画したけどまだ観てない」という方は、ぜひ先に録画を観てください)
グラビアアイドルでも……
まずは番組の流れをおさらい。
この日のスタジオゲストは勝俣州和、木下優樹菜、恵俊彰、フットボールアワー(後藤輝基、岩尾望)、グラビアアイドルの鈴木ふみ奈という面々。
最初の説は「ゲーム×現実 ミックスカート対決」。プレゼンターで登場したのはバカリズム。マリオカートと現実のカートをミックスしたルールで、高橋名人と片山右京が戦ったらどちらが強いかを検証するというもの。バカリズムによる一通りの説明が終わると、鈴木ふみ奈が急に手を挙げて発言した。
鈴木「なんで!なんで!プレステのグランツーリスモでやらないんですかね?」
バカリ「え、なになになに?」
鈴木「プレステの、グランツーリスモでやったら本格的じゃないですか?確実に差がでると思うんですよ」
バカリ「なに、あなた、今日売れようとしてんの?」
松本「今日一日では無理やわなぁー」
後藤「無理やでー!」
流れを無視した突然のコメントに、強めのツッコミをするバカリ。他のゲストの面々も鈴木を「えっ……」という顔で見る。
この後も鈴木はグイグイと発言を続ける。
バイキング西村の自宅がロケ場所だった「空腹より満腹のほうが実はツラい説」では、「(西村さん)良い家住んでるんですね」「テレビがすごい大きくて、露出とテレビのインチ数って比例しないんだなって」。
「変態仮面マジでやったら正体モロわかり説」で、スタジオに現れたけっこう仮面の正体をあてる下りでは「坂本冬美さん?」(正解は保田圭)
「ゲーム×現実 SASUKEマリオ」ではプレゼンターで登場した庄司智春に向かって「ミキティー!!!」と絶叫。
鈴木の発言で場が荒れるたび、勝俣や後藤は「毒がすごいね」「売れようとしてるから」とフォロー。松本は「なかなかの芸人クラッシャー」とツッコみ、木下優樹菜は「必死なのはわかるんだけど、もうちょっと空気っていうものを……」と真顔で釘を刺す。
予定していたすべての説が終わり、収録が終了……と思いきや、浜田雅功が「さ、続いてはこの方に登場していただきましょう、どうぞ−!」と呼び込み、博多大吉がプレゼンターとして登場。
「今ので終わりじゃないの……?」と松本とゲストたちは不思議顔。この日画面に初めて登場した大吉は「こんな2時間SPに私も参加させていただいて光栄です」と言い出す。大吉が持ってきた説はこれだった。
「グラビアアイドルでも芸人の言うとおりコメントすれば面白い説」
2時間SPの収録中、大吉はスタジオ上のブースに控え、鈴木は耳元にイヤホンを仕込んでいた。鈴木ふみ奈のコメントは、全て博多大吉が指示した通りの発言だったのだ。
グランツーリスモも、坂本冬美も、ミキティー!も、全部。
どうして博多大吉のコメントは「痛いグラドル」になったのか
この真相にスタジオは驚愕。松本が「いや、痛ったいヤツ出てきたなぁと思って……」と振り返ったように、出演者たちは初対面の鈴木を「痛いグラドル」「毒吐きキャラ」とすっかり思い込んでいた(唯一、仕掛け人の浜田だけは鈴木に全くツッコまなかった)。
全員が騙され、鈴木ふみ奈が「痛いグラドル」になってしまった原因は2つある。
1つは、テレビにはホントにそういうグラビアアイドルがいること。
小倉優子が「こりん星」からやってきたり、谷桃子が『ゴットタン』に爪痕を残したりしたように、強烈なキャラを備えたグラドルがバラエティにひょっこり来ることがある。バカリズムが「今日売れようとしてるの?」と返したように、「また新手の痛いグラドルが来たぞ」という「あるある」にハマってしまったのだ。
大吉が操る対象を「まだバラエティにあまり出ていないグラビアアイドル」に設定したのもの、この「あるある」を逆手に取った絶妙な選択だった。ちょっと変な発言になっても「そういう人」として処理してしまうのだ。
もう1つは、博多大吉が「言いたいこと」だけを指示していたこと。
大吉から指示を受けると、鈴木は場の状況を考えずに直球で発言した。その結果、周囲からは「空気を読まない人」と判断されてしまった(それにしても指示があったとはいえ、あのメンバーの中によく堂々と入っていったなぁ……と、鈴木ふみ奈さんの度胸には感心します)
バラエティのコメントは発言内容だけでなく、どうやって場に入るかも重要だ。これは裏を返せば、博多大吉が毒を吐いて笑いを取るために、いかに入念に場の流れを読んで発言しているかも示している。
ちなみに番組Dの藤井健太郎氏のつぶやきによると、大吉先生はいつもより派手めのコメントをお願いされていたそうだ。
けっこう仮面の様にQ&Aがちゃんとあれば大丈夫だけれど、流れの中の発言で真っ当に面白くするのは難しい。でも、本当の目的は面白さじゃないし、無難な発言ではフリとして弱くなっちゃうので、大吉さんには申し訳ないけれど「ミキティー」みたいな派手なのをお願いしました。っていう真面目なお話。
— 藤井健太郎 (@kentaro_fujii) 2016年6月15日
ツッコミも全部手のひらの上
この「説」に翻弄されたのは出演者だけではない。
番組を実況していたTwitterアカウントたちは、鈴木ふみ奈のことを「痛い」「ウザい」「必死すぎ」と口々につぶやいた。発言を起こして記事にしたまとめサイトもあり、炎上の気配もあった。しかし、ネタばらしの後は「ごめん」と一斉に謝罪する流れになり、こんなことがあった、とさらに拡散された。
『水曜日のダウンタウン』はネットを意識して番組を作るのが本当に上手い。TwitterなどのSNSはテレビを実況すると「ツッコミ」の位置を取る。番組自体が強烈な「ボケ」として存在すると、ネットとの相乗効果が起きやすい。
今回の「説」をわざわざ視聴者も巻き込んだドッキリの形にしたのも、ネットのツッコミが入ることを計算してのことだろう。また、出演者が拾えないようなボケでもVTRにところ構わず入れてくるので(今回なら山田勝己による『ゲームセンターCX』パロディとか)、ネタがわかった人は思わずツッコんでしまう。わからなかった人もツッコミを読めば「そういうことだったのか」と楽しさが増す。
ツッコミのポイントはオープニングにもある。『水曜日のダウンタウン』はSP放送のたびにオープニングを新しく作っているのだ。
今回のオープニングでは、クロちゃんが連れ去られる映像と共に「拉致したクロちゃんに詫び入れよう」とラップが入っている。5月末、騒ぎが起きて中止になった「クロちゃん救出企画」のことだ。さらによく見ると「大吉」のおみくじ画像もインサートされている。ヒントは既にオープニングにあった。
思わずツッコみたくなる、その衝動は全て『水曜日のダウンタウン』の手のひらの上なのだ。押忍押忍押忍。
(井上マサキ)