ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. R.I.P.飯島直樹
  2. Doechii - Alligator Bites Never Heal | ドゥーチー
  3. Columns Talking about Mark Fisher’s K-Punk いまマーク・フィッシャーを読むことの重要性 | ──日本語版『K-PUNK』完結記念座談会
  4. aus - Fluctor | アウス
  5. Tashi Wada - What Is Not Strange? | タシ・ワダ
  6. Masaya Nakahara ——中原昌也の新刊『偉大な作家生活には病院生活が必要だ』
  7. ele-king vol.34 ——エレキング年末号は、ジェフ・ミルズの予言通りの「ミニマリズム」特集です
  8. Fennesz - Mosaic | フェネス
  9. P-VINE ──スマートフォン向けアプリ「VINYLVERSE」と次世代レコード「PHYGITAL VINYL」をリリース
  10. Columns E-JIMAと訪れたブリストル記 2024
  11. ENDON & KAKUHAN ──アヴァン・メタル・バンドのENDONと、日野浩志郎+中川裕貴によるKAKUHANのツーマン公演が決定
  12. interview with Michael Gira(Swans) 音響の大伽藍、その最新型  | マイケル・ジラ、インタヴュー
  13. cumgirl8 - the 8th cumming | カムガール8
  14. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  15. Columns Dennis Bovell UKレゲエの巨匠、デニス・ボーヴェルを再訪する
  16. interview with Still House Plants 驚異的なサウンドで魅了する | スティル・ハウス・プランツ、インタヴュー
  17. The Cure - Songs of a Lost World | ザ・キュアー
  18. ele-king vol.34 特集:テリー・ライリーの“In C”、そしてミニマリズムの冒険
  19. Columns 和音を刻む手 ——坂本龍一のピアノ音楽——
  20. Columns 12月のジャズ Jazz in December 2024

Home >  Columns > 12月のジャズ- Jazz in December 2024

Columns

12月のジャズ

Jazz in December 2024

小川充 Dec 23,2024 UP

 先月はムラトゥ・アスタトゥケとフードナ・オーケストラとの共演作を紹介したが、今月もそうしたレジェンド級アーティストの新作が登場した。正確に言えば未発表レコーディングなのだが、ラップの元祖とも言えるポエトリー・リーディング集団のラスト・ポエッツと、アフロビートのオリジネーターである故トニー・アレンとの共演作である。録音は2018年で、『Understand What Black Is』を遺作としてラスト・ポエッツのジャラール・マンスール・ナリディンが死去した後に、残されたメンバーであるアビオダン・オイェウォレとウマー・ビン・ハッサンがブライトンにあるプリンス・ファッティのスタジオに赴き、そのときレコーディングをしていたトニー・アレンとセッションをおこなったというものである。当時のトニーのバンドであるエジプト80にはコートニー・パイン、カイディ・テイサン、ジョー・アーモン・ジョーンズらが参加し、ロンドンのアフロ・レゲエ・バンドであるスーズセイヤーズがホーン・セクションを固めていた。


E王

The Last Poets feat. Tony Allen & Egypt 80
Africanism

Africa Seven

 2018年と言えばサウス・ロンドンのジャズ・シーンが注目を集めはじめた時期で、そうした中にいたジョー・アーモン・ジョーンズがトゥモローズ・ウォリアーズ(ジャズ・ウォリアーズ)の先輩格にあたるコートニー・パインや、ウェスト・ロンドンのブロークンビーツ・シーンでも活躍してきたカイディ・テイサン、そしてモーゼス・ボイドエズラ・コレクティヴなどに多大な影響を与えたトニー・アレンと会したという非常に興味深いセッションである。ジョー・アーモン・ジョーンズやエズラ・コレクティヴはヒップホップやグライムの要素を持つ作品もやっているが、そうした点ではラップの元祖であるラスト・ポエッツとの共演も彼にとって大きなものだったろう。レゲエやダブのエンジニアとして名高いプリンス・ファッティのスタジオというのも面白く、『Understand What Black Is』はかなりレゲエに傾倒した部分もあったが、コートニー・パインにしろ、ジョー・アーモン・ジョーンズにしろ、レゲエやダブの影響も大きなアーティストであり、UKのジャズ、レゲエ、ヒップホップが集積したようなセッションだったと思われる。

 基本的に新曲をやるのではなく、“This Is Madness”、“When The Revolution”、“Gash Man”、“Niggers Are Scared Of Revolution” など、ラスト・ポエッツの過去の代表曲を再演するものとなっている。かつて公民権運動ともリンクしていたラスト・ポエッツの作品には人種差別などを痛烈に批判したメッセージが込められていて、近年のブラック・ライヴズ・マター運動とも重なり、改めて彼らのやってきたことは再評価されるべきと思うのだが、この『Africanism』のリリースにはそうした意義もある。そして、“This Is Madness” に顕著なように、トニー・アレンの叩き出す強烈なアフロビートとラスト・ポエッツのメッセージはとても相性がよい。そもそもトニー・アレンもフェラ・クティと共にナイジェリアの軍事警察に対抗するべく音楽活動をおこなっていたわけで、そうしたレベル・ミュージックとしての同志が共演したセッションだったと言える。


E王

Sun Ra Arkestra
Lights On A Satellite

In+Out

 サン・ラー・アーケストラの草創期からのメンバーで、サン・ラー亡き後のおよそ30年に渡ってバンド・リーダーを務めるマルチ・リード奏者のマーシャル・アレンが、今年5月に100歳を迎えた。100歳という高齢ながら現役で演奏活動をおこなうことが信じられないことなのだが、その誕生日からおよそ半年後、個人名で初のソロ・アルバムとなる『New Dawn』をリリースする(予定では来年2月頃)ということだから全くもって驚かされる。そんなマーシャル・アレンの生誕100年を祝ったトリビュート的なアルバムが『Lights On A Satellite』である。サン・ラー・アーケストラとしても今年6月にニューヨークで録音された新作アルバムであり、マーシャル・アレン以下、アルト・サックス奏者でアレンと共にバンドのアレンジャーを務めるノエル・スコット、テナー・サックスのジェイムズ・スチュワート、フレンチ・ホルンのヴィンセント・チャンセイ、トランペットのマイケル・レイ、セシル・ブルックス、ベースのタイラー・ミッチェル、トロンボーンのデイヴ・デイヴィス、ロバート・ストリンガー、パーカッションのエルソン・ナシメント、ギターのデイヴ・ホテップ、ヴァイオリンとヴォーカルのタラ・ミドルトンなど、前作『Living Sky』(2022年)や前々作『Swirling』(2020年)と同じようなラインナップとなっている。

 表題曲は1960年代からの楽団のレパートリーで、『Fate In A Pleasant Mood』(1965年)、『Art Forms Of Dimension Tomorrow』(1965年)、『Live In Paris At The Gibus』(1973年)、『Live At Montreaux 1976』(1976年)などで度々録音されてきたサン・ラー代表曲のひとつ。『Swirling』でも演奏していたほか、クラブ・ジャズ世代にはトゥー・バンクス・オブ・フォーがカヴァーしたことでも知られる曲だ。美しいバラード・タイプの曲で、ほとんどワン・フレーズのメロディをアーケストラが重層的に重ね合わせていく。シンプルに統一された楽曲構成であるが、その循環されるフレーズの中で奏者たちの即興性やアイデアが積み重なり、壮大なドラマが展開される。“Friendly Galaxy” も1960年代からの代表曲で、『Secret Of The Sun』(1965年)や『Disco 3000』(1978年)などに収録された。スペイシーなSEを交え、サン・ラー・アーケストラらしい宇宙旅行へ誘うような楽曲となっている。マーシャル・アレンの100歳を祝うにふさわしいラインナップと言えよう。


Richard Spaven
Sole Subject

Fine Line

 リチャード・スペイヴンにとって『Sole Project』は、2020年にリリースしたサンデューンズとの『Spaven x Sandunes』以来、久々のアルバムである。この間は、アルファ・ミストの『Bring Back』(2021年)、クラークの『SUS Dog』(2023年)、ロイル・カーナーの『Higo』(2024年)などのレコーディングに参加するなど、ジャズに限らず幅広く活動していた。また、盟友のギタリストであるスチュワート・マッカラムやジョーダン・ラケイなどが参加したEPの「Spirit Beats」(2022年)をリリースしているが、これなどはドラマーというより人力ビートメイカー的な視点に立ったものである。このEPにはラッパーのバーニー・アーティストとコラボした曲もあり、よりクラブ・サウンドを意識した内容となっていたのだが、『Sole Project』もそうした延長線上にあるビート・クリエイター的なアルバムと言えよう。

 参加メンバーはスチュワート・マッカラムのほか、ネイティヴ・ダンサーなどで活動してきたキーボード奏者のサム・クロウ、ブラジル系のパーカッション奏者でダ・ラータなどで長年活動してきたオリ・サヴィル、アルファ・ミスト、ロイル・カーナー、ジョーダン・ラケイらの作品に参加するトランペット奏者のジョニー・ウッドハムといった面々で、シンガーのナタリー・ダンカンやネイティヴ・ダンサーのヴォーカリストだったフリーダ・ツアーレイ、DJのワイルドチャイルドなどもフィーチャーされる。スチュワート・マッカラムのメロウなギターや哀愁に満ちたワードレス・ヴォイスが空間を埋める “Spirit Quintet” は、かつてのシネマティック・オーケストラジャザノヴァあたりに代表されるクラブ・ジャズのエッセンスを感じさせる楽曲。実際にリチャード・スペイヴンやスチュワート・マッカラムはシネマティック・オーケストラに在籍していたこともあるので、そうした要素は自然と表れるのだろう。

 “Stellar” では人力ブロークンビーツ的なドラミングを披露し、ナタリー・ダンカンのディープな歌声をフィーチャーした表題曲ではダブステップ的なドラムにより、サブモーション・オーケストラのような世界を導き出す。“Find Peace Within” はブロークンビーツ調のドラムスと、アフロ・ラテン的なパーカッションが絡み合ったグルーヴィーなリズムが特徴だが、これもプログラミングではなく全て生演奏によるもの。“Faders” のドラムンベースでもブロークンビーツでもテクノでもない有機的なビートは、マシンでは出すことのできないスペイヴンのドラムスの真骨頂と言える。プログラミングと生演奏の境界線が曖昧になるアルバムだ。


Tomin
A Willed and Conscious Balance
International Anthem Recording Company / rings

 トミンはフルネームをトミン・ペレア・チャンブリーといい、ニューヨークのブルックリンを拠点に活動するマルチ・プレイヤーである。主に演奏するのはフルート、トランペット、アルト・クラリネットなどで、即興演奏家であり作曲家であると共に、詩人としても活動する。ジャズ・アット・リンカーン・センター・ユース・オーケストラのトロンボーン奏者として出発し、ジャズ、ヒップホップ、パンクなどをミックスしたアーティスト集団のスタンディング・オン・ザ・コーナーの出身者でもある。以前は個人で作品発表をおこなってきたが、今年に入ってからシカゴの〈インターナショナル・アンセム〉と契約を結び、『Flores Para Verene / Cantos Para Caramina』と『A Willed and Conscious Balance』の2枚のアルバムをリリースした。『Flores Para Verene / Cantos Para Caramina』はこれまでの自作曲をまとめたコンピで、全くのひとりで作った作品集となる。エリック・ドルフィー、アルバート・アイラー、チャールズ・ミンガス、マル・ウォルドロン、デューク・エリントン、ローランド・カーク、カル・マッセイなど、彼が影響を受けたジャズ・ミュージシャンたちに捧げた楽曲が収められていた。一方、『A Willed and Conscious Balance』はセプテット編成のグループによる録音で、〈インターナショナル・アンセム〉における正式なデビュー・アルバムという位置づけである。

 バンド・メンバーはニューヨークのミュージシャンとシカゴのミュージシャンが混在し、なかでもベーシストのルーク・スチュワートとドラマーのチェザー・ホームズはイレヴァーシブル・エンタングルメンツのメンバーで、チェリストのレスター・セント・ルイスは故ジェイミー・ブランチのバンド・メンバーとして活動してきた。トミンはジェイミー・ブランチが存命中の2021年にシカゴを訪れ、ジェイミーやエンジェル・バット・ダーウィッドらと共演をするが、そのときにルーク・スチュワート、チェザー・ホームズ、レスター・セント・ルイスやキーボード奏者のティアナ・デイヴィスらと会し、このグループの結成へと繋がった。アルバム収録曲はブッカー・リトル作曲の “Man of Words” とカラパルーシャことモーリス・マッキンタイア作曲の “Humility in the Light of the Creator” を除いて全てトミンのオリジナル曲。“Movement” は軽やかなリズムに乗せてトミンのフルートが優しく奏でられる牧歌性に富む作品。スピリチュアル・ジャズとして語られるフルート奏者のロイド・マクニールの作品を彷彿とさせる楽曲だ。“Life” も疾走感のあるリズムを持ち、エレピの力強い演奏やチェロのスリリングな音色も光る。ストリングスが印象的な点では、ジャズ・ヴァイオリン奏者のマイケル・ホワイトを思い起こさせるところもある。“Humility in the Light of the Creator” はモーリス・マッキンタイアがシカゴのAACM在籍中に発表したデビュー・アルバムのタイトル曲で、シカゴのフリー・ジャズ・シーンに対するトミンなりの敬意の表われとも言える。“Man of Words” の原曲はほぼブッカー・リトルによるトランペットの独奏だが、ここではトミンなりのアンビエントな解釈で再現している。

Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

COLUMNS