奪われた文化財を取り戻せ、ゲームを通じて訴えるアフリカの現状

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ビデオゲーム「Relooted」はアフリカから奪われた文化財を奪い返すことをテーマにしている/Nyamakop

ビデオゲーム「Relooted」はアフリカから奪われた文化財を奪い返すことをテーマにしている/Nyamakop

(CNN) 「盗まれたものを取り戻すのは、盗みなのか」――。西洋の博物館に所蔵されている実在のアフリカの文化財を取り返す作戦を描いたビデオゲーム「Relooted」の予告編は、こう問いかけている。

南アフリカのゲーム開発会社ニャマコップが開発を進めるこの作品は、パソコンとゲーム機「Xbox」向けに発売予定で、舞台は未来の南アフリカ・ヨハネスブルク。科学者やコンピュータープログラマー、総合格闘家らで構成されるチームを率いるのは、ベテランの犯罪者ではなく、文化財の返還の遅れに業を煮やした南アフリカの美術史家グレース教授だ。

西洋の博物館や美術館には、数十万点にのぼるアフリカの文化財が所蔵されている。欧州諸国がアフリカを植民地化する過程で持ち去られたためだ。なかには「ベニン・ブロンズ」のように強制的に奪われたものもある。ベニン王国(現在のナイジェリア)の王宮を飾っていた数千点の彫刻などは1897年に英国軍によって持ち去られた。

正確な数を特定するのは難しいが、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の2009年の報告書によると、サハラ以南のアフリカの美術品の90~95%が大陸外に存在すると推定されている。こうした美術品の不在の影響は甚大だと、米プリンストン大学のチカ・オケケアグル教授(美術史)は語る。「それはまるで、ギリシャ、ローマ、神聖ローマ帝国、ルネサンスの文化遺産をすべて失った欧州文明のようなものだ」

アフリカの遺物の多くは世界中の博物館で鑑賞できるものの、実際に足を運ぶのは必ずしも現実的な選択肢ではない。オケケアグル教授は「これらの博物館を訪問できるのは、それらをもともと建てた人々、つまり米国や欧州、そして彼らと同等の国々の人々だけだ」と指摘した。

ゲームでは盗み出す対象として70点の遺物が登場し、その中には返還をめぐる議論で論争の的となっている品も含まれている。

遺物は実在するが、登場する博物館は架空のものだ。ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンの大英博物館といった実在の施設は、画一的な未来の西洋美術館に置き換えられている。

西洋諸国がアフリカ全体を「泥の小屋」と表現したように、ニャマコップの最高経営責任者(CEO)でクリエーティブディレクターのベン・マイヤーズ氏は、開発者たちが「西洋に対してやり返したかった」と語る。ゲーム内では欧州は「旧世界」と呼ばれ、古めかしく息苦しい印象を与える一方、米国は「輝ける場所」と呼ばれ、ラスベガスとタイムズスクエアを混ぜ合わせたような場所となっている。

「返還をめぐるいらだち」

このゲームは非暴力的だ。マイヤーズ氏は「遺物が奪われる際にしばしば見られる非常に暴力的な方法とは対照的な表現にしたかった。遺物の返還は、暴力や権力によるものではなく、遺物を奪ったまさにそのシステムや制度を巧みに出し抜くことだ」と説明する。

開発者は、文化財を盗み返すという発想を文字通りに受け取ってほしくないと強調する。むしろ、ゲームが「返還をめぐる一般的な不満を反映したもの」となることを望んでいる。

奪還するものの中にはブルキナファソのブワ族が作った「イェホティの仮面」も/Nyamakop
奪還するものの中にはブルキナファソのブワ族が作った「イェホティの仮面」も/Nyamakop

アフリカの複数の政府は正式に文化財の返還を求めている。「大英博物館法」などの法的制約が一部の博物館にはあり、返還の妨げとなってきた。しかし進展も見られ、フランス上院は今年、返還手続きを簡素化する法案の採決を予定している。

これは、フランス政府が2018年にフランス国内の公的機関に所蔵されているアフリカの遺物に関する報告書を委託したことを受けた動きだ。この報告書では返還の手続きが示されたが、これまでに返還されたのは30点にとどまり、そのうち26点は西アフリカのベナンに返された。今年8月には、マダガスカルに3人の頭蓋骨(ずがいこつ)が返還された。その中には1897年にフランス軍によって処刑されたトゥエラ王のものとみられる頭骨も含まれていた。

アフロフューチャリズムではなくアフリカン・フューチャリズム

ゲームの物語部分のディレクター、モハレ・マシゴ氏は、この作品を映画「ブラックパンサー」に見られる「アフロフューチャリズム」ではなく「アフリカン・フューチャリズム」だと位置づける。マシゴ氏によれば、アフロフューチャリズムはあらゆる文化のるつぼだが、アフリカン・フューチャリズム実在する文化に忠実だという。

ゲームの舞台となる未来のヨハネスブルクには、南アフリカの人々になじみのあるランドマークが登場する。これはアフリカのゲーマーにとっては珍しい体験だという

未来のヨハネスブルクがゲームの舞台となっている/Nyamakop
未来のヨハネスブルクがゲームの舞台となっている/Nyamakop

マイヤーズ氏は、映画「ブラックパンサー」の成功によって、アフリカ系の移民や欧米のゲーマー層にも支持を得られる可能性を見いだし、それによって賠償問題への意識を高めることができるかもしれないと考えた。

オケケアグル教授は、ビデオゲームという媒体は議論を軽視するどころか、むしろ多くの人に開かれた形で伝えるのに最適だとの見方を示す。「ゲームの制作者たちは、この知識共有プラットフォームを活用し、アフリカ人にとって重要な歴史と課題に光を当てている」

発売日はまだ決まっていないが、デモ版がゲーム配信サイト「Steam」で公開されている。

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