ニューヨーク(CNN) 米電気自動車(EV)大手テスラのイベントには、かなり巧妙なトリックを見越して参加する必要がある。この会社は結局のところイーロン・マスク氏が経営しているからだ。「テクノキング」を自称する同氏は、過大な約束と期待外れの結果を自身のキャリアのテーマにしてきた。
しかし、10日に行われたロボタクシー「サイバーキャブ」の発表は、マスク流の誇大宣伝の基準に照らしても巨大な幻影だった。このイベントは、投資家やX(旧ツイッター)の何百万人ものフォロワー、あるいはますます右翼的で陰謀に満ちていく世界観に賛同しそうな政治家など、誰を相手に話をするかにかかわらず、世界一の富豪である同氏が大がかりな偽情報と誇張を奨励し、それを楽しんでいるように見える人物であることを思い起こさせる光景だった。
テスラはコメントの要請に応じなかった。
イベントのメインは、テスラが2026年の発売を予定している完全自動運転車両のロボタクシーのはずだった。しかし実際には同社の人型ロボット「オプティマス」がダンスをしたり、参加者と交流したり、飲み物を注いだり、ジェスチャーゲームをしたりして、スポットライトを奪った。
ほんのささいなことがなければ、それはすべて印象的だっただろう。例えば、ロボットが自律しておらず、実際には人間によって遠隔操作されていたという事実は、ブルームバーグ通信が最初に報じた。イベント中、バーテンダーをしているオプティマスに、人間の支援を受けていることを認めさせた参加者さえいた。
長年テスラを批判してきた投資家のゴードン・ジョンソン氏は14日、「このことは明らかにされておらず、多くの人はロボットが自律的に動いていると思っていた」とメモで述べた。「私たちは、これは非常に誤解を招くと見ている」
このイベントでは、「完全自動運転(FSD)」システムの改善計画や、実際に自動運転車両を路上で走行させる計画についての詳細は語られなかった。
参加者の中にいたテスラの熱狂的ファンは満足そうだったが、投資家はメタリックな車体以上のものを求めていた。
モルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ジョナス氏は「全体としてプレゼンテーションの内容と詳細に失望した」と書いている。「FSD技術の最新の進化を示すデモやアップデートはなく、ライドシェアリングサービスの参入戦略や投資家が研究するための裏付けとなる経済的な情報についても何も触れられなかった」
テスラの株価は11日、9%近く下落した。
もちろん、ウォール街の失望は眠れなくなるほどのものではない。そしてテスラの魔法は一時的に解けただけかもしれない。14日には株価が少しずつ上昇し始めたからだ。投資家が地球上のどの自動車メーカーよりもテスラを高く評価しているのは、主にマスク氏が壮大な約束をすべて果たせると確信していることによる。
ハリケーン救済に関する誤報の拡散
アップル共同創業者の故スティーブ・ジョブズ氏は「現実歪曲(わいきょく)フィールド」が有名で、絶対的なカリスマ性によってそれほどでもない製品を売ることが多かった。一方でマスク氏の現実歪曲フィールドはまったく別物だ。それは過度に楽観的な計画やテスラの納車スケジュールに対する非現実的な見立てに限ったことではない。マスク氏は、真実を誇張したり約束を果たせなかったりすることで株主や市場規制当局から反発を受ける可能性があるものの、同氏は自身の個人的なXアカウントで、陰謀論や極右の話題をとがめられることなく自由に宣伝できる。
マスク氏をはじめとする人々は、2億人を超えるフォロワーに人種差別的な陰謀やハリケーンに対する連邦政府の救済措置に関する偽のうわさを広めている。当局者らが(トランプ前大統領も広めている)誤報の拡散を止めるよう助けを求めているにもかかわらずだ。
これは、インターネット上での無害な思索とはほど遠い。
ワシントンポスト紙が連邦政府機関に送られた電子メールを引用して伝えたところによると、ハリケーンに見舞われたノースカロライナ州で週末、連邦緊急要員らが活動の停止を余儀なくされた。「武装民兵」が「連邦緊急事態管理庁(FEMA)を追い払っている」と州兵が報告したためだ。
元FEMA長官のクレイグ・フゲイト氏はCNNに対し、FEMAの職員が脅迫を受けたことは過去にもあったが、最近経験したようなことはこれまでなかったと語った。
ユニリーバの復帰
Xに広告を出稿している企業、例えばダヴのボディーウォッシュの広告がマスク氏の投稿や、多数の親ナチスアカウントと並んで掲載されることに不快感を覚えるのは当然だ。
Xのポリシーでは暴力を称賛するコンテンツは禁止され、かぎ十字のような憎悪のシンボルにはラベルが付けられるとされている。しかし最近のNBCニュースの分析では、Xが「これらのポリシーを一貫して施行していないとみられる」ことが判明した。
ダヴをはじめとする数十の消費者向けブランドを所有するユニリーバは、Xが8月に訴訟で名指しした4社のうちの1社だ。Xはユニリーバらが広告を取り下げ、「違法なボイコット」を企てたと主張した。
ところが、Xは11日にユニリーバを訴訟から外した。ユニリーバは声明で、Xは「当社のブランドのX上での安全性とパフォーマンスを確保するために我々の責任基準を満たすことを約束した」と述べた。
Xは投稿で、ユニリーバとの合意は「エコシステム全体の解決策の最初の部分であり、業界全体でのさらなる解決を期待している」と述べた。
ここでいう業界が、マスク氏が昨年、公に「くたばれ」と発言した相手と同じであることは注目に値する。
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本稿はCNNのアリソン・モロー記者による分析記事です。